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読書記録

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読書記録をまとめたマガジンになります。
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記事一覧

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」で明るみになる他者を理解することの不可能性|読書記録

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」で明るみになる他者を理解することの不可能性|読書記録

文学作品として知られる作品ばかりを取り上げてきた本noteの読書記録だが、今回はこれまでと異なる趣向の作品について書きたいと思う。今回読書記録を記す作品は、道尾秀介の「向日葵の咲かない夏」である(以下リンクは広告)。

2005年に初版が販売されているため、決して最近の作品ではないが、さりとてこれまで本noteの読書記録で記してきた作品群と比べれば、最近の作品と言って良い一冊に違いない。本作はミス

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現代の格差是正は間違っていると考えさせられるオスカー・ワイルドの「幸福な王子」|読書場所:K-port|読書記録

現代の格差是正は間違っていると考えさせられるオスカー・ワイルドの「幸福な王子」|読書場所:K-port|読書記録

富める者に批判的な感情を向けがちな昨今だが、その結果もたらされるのは貧しい者の更なる貧困化である。オスカー・ワイルドの「幸福な王子」に編纂された童話の数々を読んだとき、最も強く印象に残ったのは、その教訓めいた一つの現実である。

「幸福な王子」を読みながらK-portでまかない丼を頂く今回の読書場所は、K-portである。渡辺謙氏がオーナーのカフェで知られる。本noteの読書記録では2度目、本no

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”こころ”とは何か? 夏目漱石の「こころ」を読みながら考える|読書場所:マリゾー|読書記録

”こころ”とは何か? 夏目漱石の「こころ」を読みながら考える|読書場所:マリゾー|読書記録

気仙沼市で最も訪れるカフェは、先日伝えた通りアンカーコーヒ内湾店である。

一方で、大船渡市で最も訪れるカフェは、マリゾーである。

ウッディな店内は、とても落ち着いた雰囲気であり、穏やかな音楽を耳にしながらゆったりと過ごせるので、とても気に入っている。閑静な住宅街の中にあるため、自動車の通る音がうるさくないのも良い。

ホットサンド、ミートソースのごはんが個人的に気に入っている。また、夏に飲むア

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”縁”を待っていたら何も手に入れられない! 森鴎外「雁」が教えてくれるツラい現実|読書記録

”縁”を待っていたら何も手に入れられない! 森鴎外「雁」が教えてくれるツラい現実|読書記録

縁という言葉で済まされる機会は何かと多い。人間関係においては頻繁に言われるし、就職や転居など人生の節目々々でも言われる。買い物のような日常的に行われる場面であってさえ、縁の一言で済まされる場面はまま見られる。しかしながら、そうした縁で済まされる多くの場面について、本当に縁として扱えるものはどれくらいあるのだろうか。森鴎外の作品「雁」を通じて抱いた想いは、そんな疑問だった。

森鴎外「雁」が教えてく

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悲しみにこんにちはをしないようにフランソワーズ・サガン「悲しみよ こんにちは」を読む|読書記録

悲しみにこんにちはをしないようにフランソワーズ・サガン「悲しみよ こんにちは」を読む|読書記録

『刹那的な快楽の後に幸福はなく、幸福の前に刹那的な快楽はない』フランソワーズ・サガンの「悲しみよ こんにちは」を読んだ感想を一言で表すならばそんな言葉が浮かぶ。

くるくる喫茶うつみ&grandma で「悲しみよ こんにちは」を読む今回の読書記録は、前述の通りフランソワーズ・サガンの「悲しみよ こんにちは」(リンクは広告)である。読んだ経験はなくともタイトルを聞いた経験はある。そんな数ある有名作品

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『出会いがない』を現代にもたらしているものは何か? 川端康成の「伊豆の踊子」から答えを探る|読書場所:花Fe・HATOBA|読書記録

『出会いがない』を現代にもたらしているものは何か? 川端康成の「伊豆の踊子」から答えを探る|読書場所:花Fe・HATOBA|読書記録

ゆっくりと本を読める場所というのは、現代だと中々ないように思われる。もしかすると図書館くらいでなかろうか。もちろん本は何処でだって読める。読もうと思えば場所を選ばずにゆっくりと読めるだろう。

だが、たとえば喫茶店(カフェ)などの飲食店で、食べ物や飲み物とともに本を楽しみたいとなると、中々難しい印象を受ける。何せ飲食店の多くは、回転率が何より重要な業態で、一人の人間に何時間も居座られると困るためだ

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幸せとは何か? メーテルリンク・「青い鳥」が教えてくれる幸福の残酷な現実|読書場所:Hy's Cafe(ハイズカフェ)|読書記録

幸せとは何か? メーテルリンク・「青い鳥」が教えてくれる幸福の残酷な現実|読書場所:Hy's Cafe(ハイズカフェ)|読書記録

幸福とは何かを探し続けている。私的な事情から、この十年はとにかく仕事に明け暮れていた。元々ありとあらゆることへの関心が薄かったこともあり、仕事以外への関心をあまり持たないまま生活のすべてを仕事に投入するのは難しくなかった。

その一方で、年を重ねる度に自身の生き方に疑問を持つようになった。とりわけ昨今は、仕事に結びつけないとありとあらゆる行動を起こせなくなっている現状を自覚し、生き方への疑問を深め

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未婚化・少子高齢化との戦争に敗戦する日本について壺井栄・著「二十四の瞳」を読みながら考える

未婚化・少子高齢化との戦争に敗戦する日本について壺井栄・著「二十四の瞳」を読みながら考える

泥沼のような疲労感と止めどない虚無感に苛まれる日々を過ごす中で、ふとした瞬間に生き方の正誤について自身に問う機会が増えている。答えの出る問いではないが、選択はしなければならない。人生とはなんとままならないものかと思わずに居られない。

「二十四の瞳」を読み、少子高齢化で滅び行く現代の日本に思いを馳せるさて、読書記録もとうとう10回目であり、10冊目である。取り立ててアニバーサリーのような企画を行う

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差別は正義である。シェークスピア「ヴェニスの商人」が教えてくれる差別的な正義が生み出す悲劇|読書記録

差別は正義である。シェークスピア「ヴェニスの商人」が教えてくれる差別的な正義が生み出す悲劇|読書記録

時間の取捨選択が人生のテーマになりがちな昨今、努めて文学作品に触れる機会を創ろうと取り組み初めて2ヶ月が経とうとしている。

文学作品に触れようにも、日々仕事ばかりに時間が消失する中で作品を読む時間を独立して取るのは難しい。だが、読書それ自体を仕事にするのであれば、許容可能な範囲にできる。

そうして始めたのが読書記録であり、「愛と死」から始まっている。仕事とするかどうかは自身の胸先三寸なのだから

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中島敦「李陵・山月記」が教えてくれる夢を叶えられる人間と叶えられない人間の間にある差|読書記録

中島敦「李陵・山月記」が教えてくれる夢を叶えられる人間と叶えられない人間の間にある差|読書記録

前回の畑ノ沢鉱泉たまご湯の記事とは打って変わって読書記録である。

次に書く記事は3月20日に行われた気仙沼まち大学祭24についての予定だったが、不意の体調不良につき参加を見合わせたため、予定を見送る形になった。気仙沼まち大学祭24の日をよもや病院で過ごすことになろうとは露とも思っていなかっただけに、苦々しさを禁じ得ない。

中島敦著「李陵・山月記」で知る『成長』し『成熟』に至り夢を叶えられる人間

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ドストエフスキー「地下室の手記」を『子ども部屋おじさんの慟哭』と捉えて考える|場所:理容おいしん、バーバーミノル|読書記録

ドストエフスキー「地下室の手記」を『子ども部屋おじさんの慟哭』と捉えて考える|場所:理容おいしん、バーバーミノル|読書記録

3月に入ってから、冬がやってきたかのような積雪を見る日が増えた。温暖な2月を経て、花粉症に見舞われる日々を過ごす中、唐突な積雪の日々に驚愕を禁じ得ない。

巷で地球温暖化が叫ばれて久しいが、今筆者たちが直面しているのは、温暖化というよりも気候の異常化でなかろうかと思わずにいられない。そこまで考えて、なるほど、気候変動リスクとは言い得て妙であると思うのである。

理容店以前に理容師の減少が叫ばれてい

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サン=テグジュペリ「星の王子さま」を読んで、SNS時代の生き方を知る|読書場所:気仙沼市 K-port|読書記録

サン=テグジュペリ「星の王子さま」を読んで、SNS時代の生き方を知る|読書場所:気仙沼市 K-port|読書記録

2月とは思えない温かな日がある一方で、2月らしい気温の日もあり、寒暖差が尋常でない日々が続いている。気持ちは既に3月だが、そう思って外に出ると冬の洗礼を受けるので油断ならない。

今日という日は、2月らしい気温の日寄りだった。しかしながら、春を彷彿とさせる快晴である。そのせいか、春めいた服装で歩いている人々をいくらか目にした。きっと寒かったに違いない。

渡辺謙が気仙沼市につくった喫茶店・K-po

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太宰治「人間失格」を読んで虚しさの処方箋について考える|読書場所:アンカーコーヒー内湾店|読書記録

太宰治「人間失格」を読んで虚しさの処方箋について考える|読書場所:アンカーコーヒー内湾店|読書記録

喫茶店に行くから本を読むのか、本を読むから喫茶店に行くのか、定かでなくなってきている昨今だが、より根源的なところに考えを巡らせば、記事を書くためといった目的に至る。

アンカーコーヒー内湾店で人々の幸福な休日を見ながら朝食を食むというわけで、読書記録をつらつら書こうと思い、本を持ってアンカーコーヒー内湾店を訪れた。2月11日、昨日のことである。この数年、気仙沼市を数多く訪れ、方々に足を運んだ。その

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「カミュ:異邦人」を読んで”普通”がもたらす暴力を考える|読書記録

「カミュ:異邦人」を読んで”普通”がもたらす暴力を考える|読書記録

「自分は”普通”だ」と考える人間は、現実にどれくらいいるのだろうか。私たちは何かにつけて”普通”と口にしがちである。しかしながら、その”普通”は明確に定義されていないケースがほとんどだ。

「”普通”と言っておけば良いだろう」「どう言葉にして良いか分からないから”普通”と答えておこう」「ありきたりだから”普通”でしょう」などとぼんやり思いながら、流れのまにまに私たちは”普通”と口にしている。

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