記事一覧
名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第11回:『オシャレ魔女♥ラブandベリー しあわせのまほう』
はじめに 2024年8月14日(水)、TOKYO MXでアニメ映画『オシャレ魔女♥ラブandベリー しあわせのまほう』(2007年3月21日劇場公開;以下、『しあわせのまほう』と略記)が地上波初放送の機会を得た。本作はセガのキッズカードゲーム「オシャレ魔女♥ラブandベリー」(以下、「ラブベリ」と略記)を原作としたオリジナルストーリーであり、「ラブベリ」に登場する二人のオシャレ魔女、ラブ(CV:
映画『化け猫あんずちゃん』の創意工夫と人間愛について:「何も起こらない物語」から「喜劇」への飛躍
2024年7月19日に劇場公開されたアニメ映画『化け猫あんずちゃん』は大袈裟なドラマを排したいわば「何も起こらない物語」を「喜劇」として彫琢することに成功した傑作である(愉快で滑稽だという意味でも傑作と言うにふさわしい)。この映画は『コミックボンボン』の末期(2006年8月号~2007年11月号)に連載されていたいましろたかしの漫画を原作とした日仏合作のアニメ映画であり、南伊豆の池照町という架空
もっとみる『Ultraman: Rising』が拓いたウルトラマンの新地平:自己啓発を基盤として描かれたヒーローの使命の二重性
ウルトラマンの楽しみとは、擬古的なオマージュの森林に分け入ることでもなければ、膨大かつ複雑怪奇な設定の山岳を踏破することでもない。しかしながら、長期化したシリーズにはよくあることながら、ウルトラマンの歴史は制作会社やテレビ局を含む多種多様な利害関係者間の力学によって偶発的に生み出された後付けの設定の山積とならざるをえなかった。そのため、ウルトラマンの新作を生み出す際には、先行作品の伝統ないし遺産
もっとみる映画『トラペジウム』におけるエゴイズムの再評価:客観的指標の不在と横溢する自意識の肯定
※本記事は映画『トラペジウム』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
はじめに 究極的に、アイドルはエゴイストでなければならない。エゴイスト同士がぶつかり合い、しのぎを削るアリーナ、それこそがアイドルの世界である。この異種格闘技戦によって育まれるのが、多様性と呼ばれる水平的な散らばりである。その意味で、アイドルの世界は外界への準用の可能性を秘めている。
2024年5月10日に劇場
映画『リンダはチキンがたべたい!』に息づく喜劇の伝統:可笑しさの正体について考える
はじめに 月並な所感から書き出すことをご容赦いただきたい。2024年4月12日に日本で劇場公開されたフランス・イタリア合作のアニメーション映画『リンダはチキンがたべたい!』(原題はLinda veut du poulet!)にはとにかく圧倒された。本作は映画作家のキアラ・マルタ(Chiara Malta)とアニメーション作家のセバスティアン・ローデンバック(Sébastien Laudenbac
“BUNRAKU 1st SESSION”観劇リポート:文楽とアニメーションのコラボレーションの功罪について
2024年3月23日(土)から29日(金)にかけて、有楽町よみうりホールにて国立劇場令和6年文楽入門公演“BUNRAKU 1st SESSION”が上演された。この公演は「文楽×アニメーション 日本が誇る文楽を世界へ!PROJECT」の一環として、クラウドファンディングで集めた支援金によってアニメーションを用いた背景美術映像を制作することを目玉としたものである。私も支援者の一人として、2024年
もっとみる『ハズビン・ホテル』が世界中に響かせる希望と連帯の歌:天国と地獄という二項対立図式の脱臼の意義と限界について
はじめに 2019年10月29日にYouTubeでパイロット版が公開されてから約4年の時を経て、総再生回数1億回超えのインディー・アニメーションが満を持してPrime Videoという商業媒体に降臨した。
2024年1月18日から2月1日にかけて、Amazonオリジナルシリーズ『ハズビン・ホテル』(Hazbin Hotel)のシーズン1(全8話)がPrime Videoで順次公開された。本作
名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第10回:『ファンタスティック・プラネット』
はじめに 去る2023年12月30日、TOKYO MXでルネ・ラルー(René Laloux)の監督作品『ファンタスティック・プラネット』(1973年;原題は « La Planète Sauvage »、日本語に訳すと「野生の惑星」)が放送された。本作はステファン・ウル(Stefan Wul)の小説 « Oms en série » を原作としたフランス・チェコスロヴァキア合作の切り絵アニメー
『映画 窓ぎわのトットちゃん』短評:「新しい戦前」に響く大野りりあなの声
はじめに 2023年12月8日、テレビ朝日開局65周年記念作品として『映画 窓ぎわのトットちゃん』が封切られた。本作は女優・司会者・エッセイストの黒柳徹子が自身の小学校時代を回顧して著したエッセイ『窓ぎわのトットちゃん』(1981年)を原作としたアニメ映画である。黒柳の手になる原作は日本国内だけでシリーズ累計800万部を売り上げ、世界35か国で翻訳されている日本の戦後最大のベストセラー書籍である
『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』における虚構と擬制の交錯:資本の自己増殖のキャラクター化から「お仕事アニメ」の欺瞞を考える
(2023年12月6日追記:エピグラフを追加しました。)
※本記事は『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
人間にとって働くことが良いことか、それとも悪いことかという話題は、繰り返し再燃しては鎮火する、消えない火種である。この話題は、ときに世代間ギャップの指摘や老害/若者相互の指弾に派生し、ときに資本主義批判とそれに対する反共思想の
『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』における惑星地球化の想像力について:大地への固執、技術への陶酔、歴史への対峙
※本記事はアニメ映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
まずは、己の不明を恥じなければならない。TVアニメ『大雪海のカイナ』(2023年1月期)が完結編にあたる劇場版で大化けするとは、正直なところ思いも寄らなかった。本作は漫画家の弐瓶勉を原作者に迎え、ポリゴン・ピクチュアズ設立40周年記念作品として制作されたポスト・アポカリプス作品である。本作