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名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る

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四半期ごと(3, 6, 9, 12月)+αにアップしている名作/迷作アニメを回収するエッセイ企画です。
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記事一覧

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第10回:『ファンタスティック・プラネット』

はじめに 去る2023年12月30日、TOKYO MXでルネ・ラルー(René Laloux)の監督作品『ファンタスティック・プラネット』(1973年;原題は « La Planète Sauvage »、日本語に訳すと「野生の惑星」)が放送された。本作はステファン・ウル(Stefan Wul)の小説 « Oms en série » を原作としたフランス・チェコスロヴァキア合作の切り絵アニメーション映画であり、第26回カンヌ国際映画祭(1973年)では特別賞(Prix S

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第9回:『魔法のプリンセス ミンキーモモ』

はじめに:『ミンキーモモ』との出逢い 1991年生まれの私にとって、湯山邦彦と首藤剛志の名前はTVアニメ『ポケットモンスター』と密接に結びついている。もちろん、1997年の放送当時――幼少の砌――から二人の名前をはっきりと認識していたわけではない。一方で、アニメのタイトルこそ『アドバンスジェネレーション』、『ダイヤモンド&パール』、『ベストウィッシュ』、『XY』、『サン&ムーン』と時代に合わせて変わりながらも、変わらずにオープニングムービーに残り続けた「総監督 湯山邦彦」の

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第8回:『機動戦士ガンダムF91』

(2023年7月8日追記:過去に執筆した文章を読み返し、一部の表現に反省すべき箇所があったと判断したため、本文に修正を加えました。) ※本稿は『機動戦士ガンダムF91 完全版』を前提に執筆したものです。 はじめに 富野由悠季の監督作『機動戦士ガンダムF91』(1991年、以下『F91』と略記)を映像作品として評価するのは、二つの意味で難しい。  第一に、『F91』というアニメ映画は名実ともに未完の作品である。富野自身が後年のインタビュー記事で明かしているように、『F91』は

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第7回:『伝説巨神イデオン』

はじめに 『伝説巨神イデオン』(1980~1981年、以下『イデオン』と略記)および『THE IDEON 接触篇/発動篇』(1982年、以下『接触篇/発動篇』と略記)は、富野由悠季が『機動戦士ガンダム』(1979~1980年)に続けて手掛けた衝撃作であり、放送および劇場公開から40年以上が経過したいまもカルト的人気を誇っている。  アニメスタイル編集長の小黒祐一郎はコラム「アニメ様365日」のなかで、「彼〔注:富野由悠季〕の作家性がもっとも色濃く出た作品は『伝説巨神イデオン』

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第6回:『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』

 フィクションにおいて、戦争のおぞましさや悲惨さを伝えようとするとき、そこには大別して二つの方向性が認められる。一方で、軍人が残虐な行為に手を染める様子を執拗に見せたり、愚かな政治が開戦の決断にいたる過程を丁寧に描いたりすることによって、戦争における「加害」の側面を強調することがある。他方で、末端の兵士が戦場で無惨に死んでいく様子を接写したり、民間人が無差別攻撃で次々に命を奪われる様子を大写しにしたりして、戦争における「被害」の側面に力点を置くこともある。  社会学者の福間良

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第5回:『超時空要塞マクロス』

はじめに 歌・可変戦闘機・三角関係――この三要素は、2022年に40周年を迎えたマクロスシリーズの「お約束」とみなされている。シリーズ第一作にあたる『超時空要塞マクロス』(1982~1983年、以下『マクロス』と略記)は、「お約束」の成立に先鞭をつけた色々な意味で伝説的な作品である。「色々な意味で」と含みを持たせたのは、『マクロス』がシナリオ・作画の両面において、諸手を挙げて褒められるような作品ではないからだ(そもそも諸手を挙げて褒められる作品などない、という指摘はさておき)

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第4回:『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』

はじめに 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)は、『機動戦士ガンダム』(1979~1980年)・『機動戦士Zガンダム』(1985~1986年)・『機動戦士ガンダムZZ』(1986~1987年)の3作に続いて劇場公開され、アムロとシャアの物語としてのガンダム・サーガに一区切りをつけた伝説的なアニメ映画だ。しかし、私が虚心坦懐に見たかぎり、『逆シャア』は作中のクェスよろしく、「私、みんな知っていたな」という調子で既視感に溢れた作品だった。何となれば、『逆シャア』は『Z

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第3回:『機動戦士ガンダムZZ』

はじめに:不人気作品としての『ZZ』 『機動戦士ガンダムZZ』(1986~1987年、以下『ZZ』と略称)は、『機動戦士Zガンダム』(1985~1986年、以下『Z』と略称)の続編にあたり、現在まで続く「ガンダム」というIPの歴史のなかでも比較的早い時期に位置する富野由悠季の監督作でありながら、不人気の作品のようだ。2018年に『機動戦士ガンダム』(1979~1980年、以下『ファースト』と略称)放送40周年を記念してNHKで実施された「全ガンダム大投票40th」(投票総数1

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第2回:『機動戦士Zガンダム』

はじめに:『Z』に対する賛否両論について 『機動戦士Zガンダム』(1985~1986年、以下『Z』と略称)は、放送直後から賛否両論のあった作品らしい。アニメスタイル編集長の小黒祐一郎はコラム「アニメ様365日」のなかで、次のように複雑な思いを吐露している。  『Z』に対する当時の反応は、アニメ評論家の藤津亮太による「ドキュメントZガンダム」のなかで詳しく取り上げられている。藤津は『Z』が嫌悪感を抱かれる要因として、スタッフや視聴者のコメントを拾い上げながら、「見えない全体状

名作/迷作アニメを虚心坦懐に見る 第1回:『機動戦士ガンダム』

(2023年7月11日追記:過去に執筆した文章を読み返し、一部の表現に反省すべき箇所があったと判断したため、本文に修正を加えました。) 企画の趣旨について 私は「ロボットアニメ」というジャンルに強い苦手意識、いや忌避感を持っていた。  理由は大きく分けて二つある。第一に、戦後日本におけるTVアニメの開闢以来、「ロボットアニメ」の歴史は分厚く積み重なっており、近寄りがたいジャンル(要は「一見さんお断り」)に思えたことが挙げられる。高校や大学の先輩方にも「ロボットアニメ」に造詣