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魔法使いの弟子日記

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服の魔法を使えるようになるために、洋裁学校のことや、その時の気持ちをツラツラ紡ぎます。
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#人生

グラニースクエア

グラニースクエア

もこもこ、ふわふわ、きゅっきゅっきゅっ。

多様な糸に囲まれて、ただただ手を動かす。

この毛糸に触れている時だけは、確かに、私が私でいられるような気がして。

だからか。

❄︎ ❄︎ ❄︎

なんだか、急にバッドなムーブから抜け出した。

来年からどこで働くかも決まっていないし、
毎日やらなきゃいけないことは山積みだし、
あの頃から何かが劇的に変化したわけでもない。

ただ、なぜだか急に、なん

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HELLにあ

HELLにあ

こんなことしてる場合じゃないのに。

大事な時に限って私の体は言うことを聞かない。

ヘルニアだと言われて、もうすぐ一週間になる。

毎日、だくだくの汗と、さながらロボット歩きで
“ただ普通に歩くこと”が、どれだけ素晴らしく、
尊い行為だったのかを毎秒思い知らされる。

たった少しの階段が、途方もなく高い壁に見えて
数メートル先のコンビニが、果てしなく遠い。

同じ姿勢と大荷物が腰に負担だからと言

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君のお守りになれるなら

君のお守りになれるなら

強い私になれる服、優しい気持ちになる服、
特別な日のための服、毎日生活するための服。

私はやっぱり「お守りになる服」を作りたい。

服を通して、大好きな人達をそっと包み込む。

大丈夫。離れていても、ちゃんとそばにいるよって伝えられるような。

好きな服を着ているという悦びを、いつまでも、感じ続けられるような。

透ける生地、揺れるリボン、ふわふわの肌触り。

世界中の人が、柔らかい素材を纏えば

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もう二度とよそ見なんてしない

もう二度とよそ見なんてしない

今後一生、服と本気で向き合えなくなるなんて、やっぱり嫌すぎる!二度と、諦めるもんか。

そう思わせてくれたことだけは、君に感謝して
おこうかな。

服やものづくりに携わる仕事がしたいと思って、服飾の専門に再進学してから、一年が経った。

アパレル業界のジレンマや、悪循環を知って、
外側の業界からアプローチしていくのもアリかもなんて思い始めていた矢先に出会ったのが君だった。

大学時代に研究していた

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灰になってゆこう

灰になってゆこう

あぁ、本当に自分の未熟さに嫌気がさす。

理想と現実のギャップが、私を突き刺して、
いつも背伸びばかりしている気がする。

それでも。

再来週、ついに大好きな人のライブがある。

彼の紡ぐ言葉と音楽が好きで好きでたまらなく、
毎日欠かさず聴いている。

「いつかあなたの曲に合わせて服を作ります」
1年前、生まれて初めて書いたファンレターに、
精一杯の目標を綴った。

“鯨の子”から着想を得たオー

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フォーエバー・マイヒーロー

フォーエバー・マイヒーロー

「しょうがないな〜もう1枚ずつ作るよ!」

そうそう、そうこなくっちゃ。
いつまでも、ずっと、私のヒーローでいてよね。

半年ぶりに会う母は、想像以上に弱っていた。
ねえ、前は、一緒にスイスイ歩いてたじゃない。

なのに、今は。
気を抜くと、私の何メートルも後ろにいて。
エレベーターのボタンを押していて。
手すりがないと、掛け声がないと、立てなくて。

知らなかった。なんか、嫌だ。

だって、だっ

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可哀想なスカートなんて

可哀想なスカートなんて

「床にスカートついてんで。あーあ、可哀想や」
製図の先生が、私の足元を見てポロッと呟く。

それって、服飾の世界では当たり前の感覚なの?

分からない。何が可哀想なのか。

だって、この足首まで隠れるふわふわスカートは
引きずるくらいが1番美しいと言うのに。

ほんの少しの風で舞うような位に繊細な布は、
寂しい私を丸ごと包み込んでくれる魔法なの。

裾を引きずりながら歩いたその日の夜は、
刺繍糸や

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薔薇の槍を片手に

薔薇の槍を片手に

平然と、野に咲く薔薇のように、空高く伸び進み
柔らかな花びらの下に、鋭い槍を忍ばせていく。

圧勝したい。誰かに、自分に、負けたくない。

占い師に「あんたの性格は男だ」と言われた。
野心、野望、成長、支配、権力を好むらしい。

個人の性格を男とか、女とかで括るのは、
非常にナンセンスだけれど、その理由は、
性別なんかでは無く薔薇の槍を持っているから。

これは今月の標語。

生活に慣れることだけ

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ぷぷぷぷらいど

ぷぷぷぷらいど

あの子も、あの子も経験者。

なのに私は。大した経験も積まず、今ここに。

過去や経験を比較しても悔しくなるだけなのに、
邪魔なプライド君が、私だけにある秀でた所を、
探している。無意味なのに。虚しいだけなのに。

2年も洋裁を習っていたあの子や、
最近まで美大に通っていたあの子や、
古着屋さんで長年バイトをしていたあの子まで。

実践的な経験や、芸術センス、服の魅せ方を
学んできた子があまりにも

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綯い交ぜサーティーン

綯い交ぜサーティーン

ねぇ、いつか私も肩を並べられるのでしょうか。

待ちに待った婚約者のライブ。

同棲していた友達が教えてくれたその歌声は、
すっぽりと私を丸ごと包み込んでいるのに、
どこか少しだけ悲しく、寂しそうで。

高度で難解な歌詞は、歌詞カードを見る前提で
執筆されている。

「Highになってゆこう」と聞こえるのに、
本当は「灰になってゆこう」と書かれていたり。

1番は「最後」と書かれているけれど、
2

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その先ダイヤにつき

その先ダイヤにつき

「一人前になるには、10000時間の努力が必要。
 大人から始めるなら、もっとかかるよ。」

馴染みの居酒屋で、ほろ酔いの父が呟く。

父は、博士課程の頃、研究者になるために、
「徹夜部」なんて作って、毎日寝る時以外は、
ずーーっと、研究してたんだって。

それが、楽しくて楽しくて仕方なかったらしい。

正直、私には全く自信がない。

服が大好きで、可愛い服を作りたいのは事実。

けれど、私よりも

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数字パウダー

数字パウダー

今日は、はじめての洋裁教室。
膝丈のスカートを作るために、製図をした。

最初は慣れなかった50㎝の長すぎる定規も、
なかなか真っ直ぐに引けなかった線も、
ちょっとだけ力の入れ方が分かった気がする。

だけど、不思議なのは、いくら合わせても、
ウェストと丈が微妙に合わないということ。

先生と何度も相談しながら、消しては書いてを繰り返す。

それに、洋裁は想像以上に数字を沢山使う。
いや、むしろ数

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魔法使い

魔法使い

こんなにも、心が奪われたのは、踊ったのは、
生まれて初めて。

繊細で美しいビーズと刺繍、
ベルベット生地をふんだんに使ったドレス、
光沢のあるレザーのジャケット、
フェルトのお花をあしらったワンピース、

一瞬でtanakadaisukeさんの虜になった。

そんなtanakadaisukeさんの言葉通り、
このキラキラした服には、アクセサリーには、
彼の魔法が詰め込まれていると思う。

思い出

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私は今も魔女に憧れたまま

私は今も魔女に憧れたまま

小学生の頃、大好きだった本がある。

あんびるやすこさんの『なんでも魔女商会』だ。

腕はピカイチなのに気難しい魔女のシルクと、
可愛いくて誰にでも優しい人間のナナ、
そしてネコで執事のコットンが、
洋服を作って、困っている人を助ける話。

いつも可愛い服をデザインする魔女のシルクが大好きだった。
大人になったら、シルクみたいな魔女になれると本気で信じていた。
魔女になって、可愛い服を作って、みん

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