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その先ダイヤにつき

「一人前になるには、10000時間の努力が必要。
 大人から始めるなら、もっとかかるよ。」

馴染みの居酒屋で、ほろ酔いの父が呟く。

父は、博士課程の頃、研究者になるために、
「徹夜部」なんて作って、毎日寝る時以外は、
ずーーっと、研究してたんだって。

それが、楽しくて楽しくて仕方なかったらしい。

正直、私には全く自信がない。

服が大好きで、可愛い服を作りたいのは事実。

けれど、私よりも凄く器用で、想像力豊かで、
とんでもなく美しい服を作る人がゴロゴロいて。

”アパレル戦国時代” なんてどこかで読んだし。

入学してみて、服作るのに向いてなかったら?
大学から進学したのに、今更引き返すなんて。

「ダメだったら、その時考えれば良いよ。
 とにかく、2年間は服のことだけ考えなさい。」

私の漠然とした不安を、知ってか知らずか、
父は優しい声で、そう続けた。

やって駄目なら辞めて良い。
その一言が、私の不安をスッと軽くしてくれた。

私の武器なんて、何もないと思っていたけれど、
他の人より、4年も出遅れたと思っていたけれど、

22年間の回り道は、ハンデなんかじゃない。

どうやったら心地良い市場を作り出せるのかも、
大切な人のために喜捨することの素晴らしさも、
みんなと築き上げてきた多様性の善し悪しも、

全部、これから掘るために必要な武器だ。

だから、私だけのダイヤを掘り当てるまで、
積み上げてきた夢や思想で磨き上げるまで、

もう、よそ見も、回り道もしない。
ちゃんと狭く、深く、掘り進めるよ。

胸を張って、好きだと思えるその日まで。

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