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魔法使いの弟子日記

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服の魔法を使えるようになるために、洋裁学校のことや、その時の気持ちをツラツラ紡ぎます。
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棲

「じゃあ、君の雑貨屋は辞めるってことですね」

そんなの続けたいに決まっているじゃないか。

でも、まずはちゃんと働きたいと思ったから、
御社を受けたのですよ。

あなたならって、そう思ったから。なのに。

❄︎ ❄︎ ❄︎

最近、気になっていた会社の2次面接を受けた。

「世界で作って世界で売る」なんて壮大な会社。

憧れのテキスタイルデザイナーになれるなら、
温かな衣服を、より多くの人に届け

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君を知るための衣服

君を知るための衣服

君を、知るため。君の世界を教えてほしいの。

君と生きる温かな未来を、共に創るための衣服。

❄︎ ❄︎ ❄︎

多様性が認められつつある現代社会。

けれど、その実態は?

多様性という言葉が一人歩きして、私たちの意識は何も変わっていない。

相変わらず戦争や搾取は起こり続けているし、
毎日どこかで争いが起こっている。

自分の中の善悪を押し付け合った諍いは、一向になくなる気配が無いじゃないか。

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HELLにあ

HELLにあ

こんなことしてる場合じゃないのに。

大事な時に限って私の体は言うことを聞かない。

ヘルニアだと言われて、もうすぐ一週間になる。

毎日、だくだくの汗と、さながらロボット歩きで
“ただ普通に歩くこと”が、どれだけ素晴らしく、
尊い行為だったのかを毎秒思い知らされる。

たった少しの階段が、途方もなく高い壁に見えて
数メートル先のコンビニが、果てしなく遠い。

同じ姿勢と大荷物が腰に負担だからと言

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個性だなんて

個性だなんて

「あんまり個性を出し過ぎないように」

貼り付けたような笑顔と当たり前のような口ぶり
が今も脳裏を焼きついて離れない。

第一志望だったブランドのOB訪問。

“ポートフォリオを作成する上で注意すること”を
尋ねると「個性を出し過ぎないこと」だと言われた。

あまりにも普通のことみたいに言うから、この
違和感に気付くまで、1ヶ月もかかってしまった。

これほど大好きなブランドなのだから、きっと、

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てまひまてまひま

てまひまてまひま

私の悪い癖。
すぐに簡単な方法を模索しようとするところ。

授業時間内に終わらせるために、課題の〆切を守るために、クラスメイトから遅れを取らないために。

「どっちのやり方なら私でも出来ますか…?」
1年生の頃、複数の選択肢が迫った時に、私はこの言葉を何度も使っていた。

リボンの通し方、ポケットの作り方、裾の始末。
その度に、先生は簡単なやり方を教えてくれた。

けれど、どれだけカタチになったと

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だからライバルなんだって

だからライバルなんだって

「まつり縫い大丈夫かな?ってちょっと心配」

いつも通りの屈託のない顔で笑いかける。

分かっていることや、もっと出来たことばかりを
そうやって純度100%の親切心で伝えてくる度に、
心の奥底が、張り裂けそうになる。

だって、私にとって、あなたは永遠のライバルなのだから。

❄︎ ❄︎ ❄︎

ものづくりへの憧れは、母の背中からだった。

ピアノの発表会は、毎年母の作るドレスを着て、
図工や自由

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君のお守りになれるなら

君のお守りになれるなら

強い私になれる服、優しい気持ちになる服、
特別な日のための服、毎日生活するための服。

私はやっぱり「お守りになる服」を作りたい。

服を通して、大好きな人達をそっと包み込む。

大丈夫。離れていても、ちゃんとそばにいるよって伝えられるような。

好きな服を着ているという悦びを、いつまでも、感じ続けられるような。

透ける生地、揺れるリボン、ふわふわの肌触り。

世界中の人が、柔らかい素材を纏えば

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もう二度とよそ見なんてしない

もう二度とよそ見なんてしない

今後一生、服と本気で向き合えなくなるなんて、やっぱり嫌すぎる!二度と、諦めるもんか。

そう思わせてくれたことだけは、君に感謝して
おこうかな。

服やものづくりに携わる仕事がしたいと思って、服飾の専門に再進学してから、一年が経った。

アパレル業界のジレンマや、悪循環を知って、
外側の業界からアプローチしていくのもアリかもなんて思い始めていた矢先に出会ったのが君だった。

大学時代に研究していた

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どんなヴィランだって

どんなヴィランだって

「ほんとうに無理、気持ち悪い、やりたくない」

あぁ、胸を突き刺すこの暴力達もいつかきっと。
だって、そう信じるしか、無いじゃないか。

【来年のプレタ展は芳賀さんの案でいきます】

プレゼンで勝ち抜いた私は、6月に行う展示会の
リーダーを務めることになった。

“人類学の理論を詰め込んだファッションショー”

人類学の持つ「他者への温かい想像力」を醸成
させる服を作っていきたい。

けれど、多数

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ラミパスパターン

ラミパスパターン

あれ、私ってこんなに上手だったんだ。
もう、不出来なんて思い込まなくて大丈夫だよ。

昨日までの私が、にっこり微笑んでくれたから。

❄︎ ❄︎ ❄︎

長かったパターン検定の道がようやく終わった。
この1ヶ月、夢の中でもパターンに追われていた。

昔から、本番前に必ずネガティブになる私。
過度なプレッシャーを自分にかけ過ぎる私。
そして、いつまでたっても自信のない私。

「うーん、微妙。カーブの

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エツの渦中で

エツの渦中で

「簡単に超えられたら困るよ」

あぁ、この子は揺るがない信念を持って、作品に向き合っているんだ。

じゃあ私は?

服飾の専門へ通うようになって、半年ちょっと。

クラスメイトの得意・不得意なんかが、少しずつ
明瞭になってきたように思う。

ものすごく手先が器用で、丁寧かつ完璧な子。
計画性・効率性に長けていて、大変合理的な子。
周りをよく見て、陰でそっと支えてくれる子。

中でも、中学からずっと

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その胸にきゅっとね

その胸にきゅっとね

恋人になってもうすぐ半年。

恋愛における半年間が、こんなにも穏やかなんて
許されて良いのでしょうか。

毎日毎日、つかみ合いの抉り合う喧嘩をしたり、
冷めた関係を見て見ぬ振りしてやり過ごしたり。

いつもの半年って、大体こう破綻してたから。

こうして鍋をつつく幸せそうな横顔を見れて、
夜中に、てくてくお散歩をしてベンチで話して、
お布団の中で頬を寄せて未来を語ったりして。

出会った時から変わ

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灰になってゆこう

灰になってゆこう

あぁ、本当に自分の未熟さに嫌気がさす。

理想と現実のギャップが、私を突き刺して、
いつも背伸びばかりしている気がする。

それでも。

再来週、ついに大好きな人のライブがある。

彼の紡ぐ言葉と音楽が好きで好きでたまらなく、
毎日欠かさず聴いている。

「いつかあなたの曲に合わせて服を作ります」
1年前、生まれて初めて書いたファンレターに、
精一杯の目標を綴った。

“鯨の子”から着想を得たオー

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手のひらサイズの夢を広げて

手のひらサイズの夢を広げて

君となら、いつだって、どんな夢も。

どんなに遠く離れていても、私達は同じ夢へ
向かって、真っ直ぐに突き進む。

「ねぇ、やっぱり一緒に雑貨屋さんしたいよね」

毎月一回、遥々やってきてくれる君へ、前々から
温めていた提案をする。

あたかも、昔から決まっていた様に、自然に。

「え!来月ネパール行くよ!やろうやろう!」

私が出会った人の中で一番行動力のある君。

遠い孤島にも、1人でスイスイ飛

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