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『世界SF会議』 : SF作家だからといって、 何も〈特別〉ではないのだから、 もう少し頑張ってほしい。

書評:新井素子、冲方丁、小川哲ほか『世界SF会議』(早川書房)

タイトルは大げさだが、要は、日本のSF作家プラス海外作家少々による、単なる「リモート会議」で、いたってお手軽である。
『世界SF作家会議』というタイトルに「世界のSF作家が、国連の大会議場に集まって議論する」みたいな、昔風のイメージを抱き、そうした重厚なものを期待したら、確実に裏切られるし、まあ、半分「騙された」と言っても過言ではないだろう。

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私は、テレビ番組の方は視ていないのだが、そっちも同タイトルだったのだろう。それなら、間違って、JARO(日本広告審査機構)に電話通報した人がいても、けっして責めることはできないだろう。なにしろ「ウソ・大げさ・まぎらわしい」のうちの「ウソ」ではないにしても「大げさ・まぎらわしい」というのは間違いない。
ただし『世界SF作家会議』の場合は、「広告」しただけではなく、そもそも「番組」なのだから、JAROが担当すべき仕事ではないのかもしれない。

『新井素子、冲方丁、小川哲、高山羽根子、樋口恭介、藤井太洋という現代日本を代表するSF作家が集結。緊急会議を行い、全人類に突きつけられた課題を徹底討論する。劉慈欣、ケン・リュウほか海外SF作家が緊急参加、提言を行う。司会:いとうせいこう、大森望』

という「説明文」が、Amazonの当該ページに掲載されているが、新井素子以下6人程度で『現代日本を代表するSF作家が集結』と言えるのか?
まあ、2人からでも「集結」と言えるのかもしれないが、ちょっと少ない。
「世界会議」と言うよりは、レビュアーの「(-_・)?熊萌寝々」氏がおっしゃるとおり、『井戸端』会議によほど近い。

また『緊急会議を行い、全人類に突きつけられた課題を徹底討論する。』とのことだが、この程度の議論を『徹底討論』と言えるだろうか。正確には「(討論+井戸端会議+リモート飲み屋での与太話)÷3」と言った方が、よほど正確ではないだろうか。
全体に好きな作家が多いからこそ、この程度では、まったく食い足らない。

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もちろん、これが『日本SF作家リモート呆談+α』といった謙虚なタイトルであったなら、素直に「楽しめた」と書けたのだが、どうにも「看板に偽りあり」のタイトルはいただけない。これは「シャレ」では済まず、ほとんど「ペテン」の域だからである。

SF作家は「大きな問題しか語らない」とか「当たり前の倫理を語らない」というのも、それはそれで「ネタ」としては良いけれど、やっぱり、身近な倫理についても配慮してもらいたいものである。一一あるいは、こんなささやかな「注文」を吹き飛ばすくらいの、スケールとパワーを持ったことを語って欲しかった。

結論としては、体育会系とまではいかないものの、先輩後輩関係で話をし、お互いに「先生」扱いでその「権威」を保証しあい、意見の対立点は突き詰めず、逆に「同じことの裏返しだ」とか「さすがですね」などとよくわからないフォローでまとめて済ませる、ちょっと「ぬるま湯」「馴れ合い」感の否めない、「世界SF作家会議ごっこ」だったと言えよう。

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初出:2021年8月17日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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