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伴名練 『なめらかな世界と、その敵』 : 〈繊細さと不安と救済〉に欠けたもの

書評:伴名練『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)

本書は、書き下ろし中編1本を含む、同人誌発表作品中心のSF短編集で、ホラー大賞短編賞受賞作を含む第1短編集『少女禁区』から、じつに9年を経ての第2短編集である。

本作品集は、前評判がとても良かったようで、刊行と同時に増刷が決まり、あれよあれよ言う間に版を重ねているという事態は、少し前に、異様な売れ行きを見せた、劉慈欣の『三体』ブームを思わせるところがあった。

さて、本作品集だが、同人誌作品が商業出版されるだけあって、SF愛を強く感じさせる、とても丁寧で凝った作品揃いとなっている。
だから「おもしろい」というのは確かなのだが、幾人かのレビュアーも指摘しているとおり、評判の大きさほどの、破格な作品(集)だとは思わない。

「誰もそんなことは言ってない(保証していない)」と言われるかも知れないが、帯に刷られた『SFマガジン』編集長の絶賛の言葉や、『本の雑誌』での大森望による星5つの評価などを見せられると、「5年に一度くらいの作品」なのでは、なんて期待が、つい膨らんでしまうというのは避けがたいところだし、そういう効果を狙っての宣伝だったことも事実なのだと思う。
いずれにしろ、著者の責任ではないところで、過剰に期待されたり、期待はずれだと言われたりするのは、売れなければ話にならない出版界の宿命とは言え、いささか残念なことではあった。

話を、作品に戻そう。
著者の作品は、著者自身の人柄を反映したかのような、総じて「繊細」かつ「真摯」な筆致で描かれており、とても手間のかかった作品揃いで、なるほど、無理なく「百合小説」が書ける作家だと納得させられるし、好感を持ってしまう。
著者が個人的な知り合いだったなら、私だってきっと精一杯の絶賛評を書いて、著者の後押しをしてしまうだろう。評論家としての「読者への責任」は、ひとまず脇においても、である。

しかし、そういう感情的な入れ込みを排除して、虚心に作品に向き合うならば、たしかに優れた作品(集)ではあるけれど、「日本のSF史に残る」というような作品(集)ではない、というのもまた、ほぼ間違いのないところだろう。そういう、時代を越えて行く作品になるには、いささか「線が細い」のだ。
「好感」は持てるし「感心」は出来るのだが、「圧倒」されるようなところはない。あくまでも「凝ってるなあ」「好きなんだなあ」という「作者への共感」が先に立ってしまう。

もちろん、若い読者には、作者の「繊細さ」や「叙情性」は、十分すぎるものだとは思うのだが、いかんせん、過去の傑作と思わず比較してしまう、すれっからしの図太い神経を掻き乱すほどの力はなく、むしろ保護本能をくすぐる方にばかり、そうした魅力がはたらいてしまうのだ。

私も(『地球はプレインヨーグルト』の初版初刷文庫を、いったい何冊持っているのか、自分でもわからないほどの)梶尾真治のファンだから、作者の傾向には好感を持つ。決して嫌いなのではない。けれども、やはりこのままで良いとは思わないし、このままではSF作家として大成できないように思う。
困難ではあろうが、今の繊細さを失わず、しかしもうすこし蛮勇をふるえる作家になって欲しいと、勝手な親心から、そう願わずにはいられない。

初出:2019年9月16日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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