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ごとうにも 『かみさまとX』 : 〈かみさま〉とは何か。 それは 「私」である。

書評:ごとうにも『かみさまとX』(イースト・プレス)

帯には「シュール」「かわいい」「哲学漫画」とあるが、そういうマンガだと思って読めば、おおすじで間違いはない。
ただ、「シュール(超現実的)」であるかどうかは、視点の置き方によるだろう。つまり、物語の筋自体は「超現実的」だけれど、「かみさま」の描き方は、けっこう「リアル」なのである。

本作の語り手である主人公は『僕は宗教や哲学を少しかじっていた』(P5)と言っているが、これは作者自身の投影とみて間違いない。本作は、ある程度「かみ」的なものについて勉強した人でないと、とうてい書けない作品なのだ(例えば、283Pの「神の存在証明」は、キリスト教神学を踏まえたものである)。

では、本作は「面白い」のかと言えば、「宗教」や「哲学」が面白い(興味深い)という人には、ものすごく面白いだろう。しかし、そうではない人には、単に「超現実」的で、意味不明な(難解な)話ということになってしまう。
本作を楽しむためには、「この物語は、何を語ろうとしているのだろうか」と、積極的に読解しようとする知的な態度が必要なのだ。口をアーンと開けて待っていても、解答を投げ込んではくれはしないのである。
(※ ちなみに「宗教が面白いと思う人」とは、「宗教的な人=宗教家=信仰者」という意味ではなく、「宗教という文化に、知的な興味を持つ人」という意味である)。

さて、それでは、私が本作をどう読んだかを書いておこう。

私が思うに、本作は「かみさまと人間の関係を描いた作品」ということになるのではないだろうか。つまり「X」とは「人間」のことで、「かみさま」と関係を取り結ぶ「X」項に、誰(個人)を代入するかによって「姿を変えるもの」が「かみさま」だ、ということを示したタイトルだと思う。

だからこそ、作中での「かみさま」は、登場人物たちそれぞれの世界観を反映して、微妙に姿や性格を変えるのではないか。現実の世界においても、「かみさま」が「固定的な存在」として実在するのなら、宗教ごと個人ごとにいろいろな「かみさま」になるわけがない。
つまり、そうした意味で、万人共通の「かみさま」は存在しないし、人によって姿や性格を変えてしまう「かみさま」ならば存在している、とも言えるだろう。

もちろん、ここで問題となるのは、「かみさまの定義」であり「存在の定義」だということになるのだが、ごく一般的な意味における定義において、私の場合は「かみさまは存在しない」と考える「無神論者」である。仮に、私個人の中に、個人的な「かみさま」みたいなものがいたとしても、それをして「存在する」とは言わない、ということだ。

(時空を超えた存在である神の動機を、人間は理解し得ない)

では、作者にとって「かみさま」はいるのかと言えば、たぶん「いる」だろう。

「本物だ…」「僕は信じた」
「かみさまに聞いてみたいことは山ほどあった」
「しかしなぜか聞きたい欲望がスッと消えさり」
「涙があふれた」

(P6~7)

この描写が意味するのは、「かみさま」という巨大で絶対的な存在など「いないだろう」と思いながらも、主人公には「いてほしい」という願望があった、という事実を明かしている。つまり、「いてくれた」と思った途端、瑣末な疑問などどうでもよくなり、その「安堵」によって、涙が湧いて出た、ということである。

だが、このことからわかるのは、主人公の考える「かみさま」とは、基本的に「人間に好意的」な存在であり「庇護的に包み込んでくれるような存在」だということである。彼にとっての「かみさま」は、恐るべき存在ではないのだ。

(「ヨブ記」では、神が悪魔に唆され、義人ヨブの信仰を試すために、次々と過酷な災厄が課される)

しかしまた、主人公に近い「かみさま」観を持っている作者も、それが個人的な「かみさま観」でしかないことを自覚しているので、他の登場人物たちにとっての「かみさま」は、違った形をとることになる。ここが「かみさまとX」ということの意味だ。
他者にとっての「かみさま」は、時に「気まぐれ」であったり「残酷」であったり「何も考えてなかった」り、「すべてのことを考えていた」りして、様々である。「かみさま」を『2001年宇宙の旅』に描かれる「超文明の宇宙人」だと考えることもできるが、いずれにしろ「かみさま」は、誰にとっても、ある意味では存在していて、また、万人共通の「かみさま」は存在しないという意味で、客観的には存在していないのだ。

(神は全てである。したがって善悪の決定権も神の専権事項で、白も黒になる)

いずれにしろ、「かみさま」を規定するのは、個々の「私」である。
本稿タイトル『〈かみさま〉とは何か。それは「私」である。』というのは、そういう意味だ。

「かみさま」が最初に登場するような「かわいい」ものであればうれしいのだが、そう期待できるほど、私は人類の歴史に無知ではないところが、少々残念ではある。

初出:2021年3月18日「Amazonレビュー」
   (同年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年 3月27日「アレクセイの花園」
  (2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)

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