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ブレイディみかこ ・ 鴻上尚史 『何とかならない時代の幸福論』 : 〈チコちゃん〉に 叱られろ!

書評:ブレイディみかこ・鴻上尚史『何とかならない時代の幸福論』(朝日新聞出版)

ねえねえ岡村~、この中で一番おもしろいレビューが書ける、クリエイティブな大人って、だぁれ?

ブレイディ  人と違うことをやってみようと思うのが人間のクリエイティビティの目覚め(以下略)』

(P146)

ブレイディ  そう、(※ 地下鉄のエスカレーターのところで)イキってる(※ 10代の黒人少年の)2人に(※ 対して、通りがかりの黒人のおばさんが言った)。「あんたのお父さんがそういう(※ 女性を見下したような)ことを言ってるのかもしれないけど、あんたたちはニュージェネレーションでしょ。バカなこと言ってないで、子どもはさっさと家に帰りなさい」て怒ってるんですよ。その怒り方がね、すごいもう演劇的なの(笑)。
 イギリスって、そういう場面が起こった時に、そのウーピー・ゴールドバーグみたいな人が出てくるんですよ。(※ 日本みたいに)全員がスーッてエスカレーターで上がって去っちゃわないで、必ず誰か出てくる。それもイキがってるのが黒人の男の子たちだったから、黒人の女性が出てきた。思うに、イギリスの人たちは、自分が見られていることを知ってて、明らかに人々の視線を意識してやっている。ふるまいというか、一種のパフォーマンスがストリートでの政治なんです。』

(P226~227、「※」は引用者補足)

ブレイディ (前略)イギリスでは、政治的な意見を表明するっていうことと演劇は切り離せないと思います。実際、昔からエスタブリッシュメントの子どもはステージスクール(演劇学校)に通っている子がよくいますよね。あれにしても、俳優にさせるためではないのです。
鴻上  そうですね。単に感情的に叫ぶだけじゃなくて、ちゃんと表現者としてスピーチできるってことですからね。
ブレイディ  まわりから見られていることをわかっているんです。
鴻上  日本人がそこまでいくのは、いつになるんだろう。(以下略)』

(P228~229)

つまり、例えば本書について、やれ「イマイチ」だとか、やれ「期待はずれ」だ、やれ「面白くない」とかいった「芸のないレビュー」を書いている日本人は、まず間違いなく「クリエイティブ」ではないし、自分が「見られている」ということにも気づかない、いかにもわかりやすい「世間的視野しか持たない日本人」だということだ(型通りのベタ誉めレビューも、また然り)。
言い換えれば、なんの芸もひねりもなく、素面でチコちゃんの質問に答えちゃうような、チコちゃん言わせれば「つまんねー奴」だということになる。

本書についての、「イマイチ」だとか「期待はずれ」だとか「面白くない」といった評価は、必ずしも間違いではない(私も、両者の著作は読んでいるので、それぞれの単著に比べると、ゆるい予定調和に終わった感の無きにしも非ず、という評価な)のだが、しかし問題は、本書を読んでも、何も学んでいないような「つまんねー奴」が「つまんねーレビュー、書いてんじゃねえよ!」ってことなのだ。

そこで「今こそ全ての日本国民に問いたい」。国民への説明責任が果たせない総理大臣が国政を担うのと同様、「読めない奴」に、レビューを書く資格なんてないことくらい分かれよ。そうだろう? と。
だが、「日本人がそこまでいくのは、いつになるんだろう」ね、ほんとに。

(ありし日の、プロンプター菅義偉)

ともあれ、せっかく読むんなら「ボーッと読んでんじゃねえよ!」っていうことだ。

そして、レビューを書くんだったら、自分が「評価者」であると同時に「評価の対象」にもなる、つまり「見られる」側にもなるんだって自覚ぐらいは持てるようになろう。本書を読んで、それに気づけるようになれていたら、本書は決して、その人にとっては「イマイチ」だとか「期待はずれ」だとか「面白くない」なんてことにはならず、価値ある「気づきの書」ってことになっただろう。

無論、「芸」を見せるには、それなりの勉強が必要。ボーッと本を読んで、面白いだのつまらないだのと、どこまでも「お客さん」気分では、決して「芸」も「教養」も身に付かないだろう。一一結論としては、ひとまず「チコちゃんに叱られろ!」ということなのである。

日本人の名誉のために、あえて憎まれ役を演じてみました。本当は、こんな奴ではありません(笑)。

初出:2021年3月20日「Amazonレビュー」
   (同年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年 3月27日「アレクセイの花園」
  (2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)


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