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岡本真一郎 『なぜ人は騙されるのか 詭弁から詐欺までの心理学』 : 「知っている」「分かっている」人は危ない

書評:岡本真一郎『なぜ人は騙されるのか 詭弁から詐欺までの心理学』(中公新書)

貴方が、この本のamazonレビューをチェックしているのは、極めて正しい。
なぜなら、貴方は、騙された人たちを「あいつらはバカだからだ」などと見下すことで済ませようとはせず、「なぜ、人はこんなにも騙されてしまうのだろう」と考えただけでもなく、「もしかすると、私も騙されるかも知れない」という「自己懐疑」を、多少なりとも持ったからです。

本書でも指摘されているとおり、多少とも問題意識のある人ならば、本書に書かれていることの半分以上は、「知っている」こと、あるいは「分かっている」ことなのでしょう。ですが、人を騙そうとする人たちは、それ以上に真剣に、それこそ「生活を賭けて」人を騙そうとしているのだから、標的となる私たちは「知っている」「分かっている」と思っているだけでは、まったく不十分なのです。

例えば、最近よくニュースになる「高齢ドライバーによる交通事故」などでも、そうした事故運転者本人に、仮に事故前に、当人の「技能」だとか「能力の低下」だとかいったことを尋ねれば、「知っている」「分かっている」と答えたことでしょう。
しかし、そうした中から確実に(本人には想定外の)事故を起こす人が出てくるわけだし、事故を起こさないまでも「自分の判断能力を過信している人が少なくない」というのは確かなことなのです。

つまり、われわれ自身「知っている」「分かっている」つもりでも、決して、自分のことは十分に分かっていないのだし、ならば、漠然と「知っている」「分かっている」で済ませたり、「自分を過信してはいけない」などと「自戒するに止める」だけではなく、(運転免許証の返納がそうであるように)「現に動く」ことが重要なのではないでしょうか。
ですから、本書とは言いませんが、こうした類書を常に気に掛け、それを「知っている」「分かっている」ではなく、再読三読するような態度、つまり「自分に言い聞かせる」態度こそが必要なのだと、私は思います。

私が若い頃に自分で発明して以来、ずっと愛用している「本を読むほどの人であれば、誰でも自分は賢いと思っている」という格言があります。
みなさんは、この言葉が、どういう意味か分かるでしょうか?

答は「本を読む人は、頭を使うので、比較的賢い」という意味では、ありません。
これは「本を読む人にも、ピンからキリまでいるというのは自明な事実だが、にもかかわらず、本を読む人というのは、読んでいる本の質やレベルがどのようなものであろうと、自分は知的であると思いこみがちである」という意味です。

そして、こうした読み解きは、まともに文章が読める人には簡単なことだと思いますが、しかし、このように普通に読み解けない人でもまた「本と読んでいる私は、それなりに賢い」と思っている、ということを意味しています。

このように「知っている」「分かっている」と言っても、単純に「知っている」「分かっている」と思うに止まる人が大半であり、ごく一部だけが「知っているつもりだが、それは確かか」「分かっているつもりだが、それは確かか」という自己懐疑を持つことができる。しかし、そうした人たちの大半もまた、それに満足してしまいがちなのです。

もちろん、もう本当にごくごく一部には「知っているつもりだが、それは確かか、と自身を疑える自分に、自分は自己満足して慢心していないか」「分かっているつもりだが、それは確かか、と自身を疑える自分に、自分は自己満足して慢心していないか」というところまで考えられる人もいます。そして、ここまで考えられるようになれば、すでに「自分の確信」だけでは無意味だということに気づかざるを得ないので、自覚し得ない自身の弱点を補うために「行動する」ことにもなるのです。

「騙されない」ための思考とは、このように、他者を疑うだけではなく、自身をも徹底して疑うものであり、昔から言われるとおり「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」とは、こういうことなのだと言えるでしょう。

ですから、本書のレビューを参考にするにしても、単に「星の数」を見るだけではなく、誉めているレビュー、貶しているレビューの中身を読んで、その「中身の客観的な価値判断」をしなくてはなりません。
例えば、論理的な論拠を示さず(示せず)、「政治的な立場」だけで、誉めたり貶したりしているような人は、本書の中身そのものを読めておらず、客観的な価値判断ができない人たち、またそのことに無自覚な人たち、なのだと言えるでしょう。当然、こうした人たちのレビューは当てになりません。「好きか嫌いか」といった「個人的な好みだけ」を語っているに等しい評価でしかないからです。
それに、事実の裏付けがない断言ばかりのプロパガンダ(政治的宣伝)で、人を騙したい人は、こうした本を読んで欲しくないというのは、間違いないことですし。

「騙されない」ためには「頭を使って判断しなければならない」。それは「知っている」「分かっている」ということとはまったく違う(異質な)のだということを、私は本書を読みながら再確認し、今回も自戒の機会としたのでした。

初出:2019年6月5日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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