ケン・リュウ

ケン・リュウ「太平洋横断海底トンネル小史」日本が太平洋戦争やらかさなかった世界線の果てで愛を叫ぶ

物語は、この話の主人公「ロートルの掘り屋」である「おれ」の語りで始まる。それは麺屋のアメリカ人ウエイトレス、ベティとの馴れ初め。彼は海底トンネルの掘削作業員として働く中で少しずつ人間性を失ってきていたのだが、ベティとの交わりの中で回復していく。彼には過去に指揮したトンネルでの事故で作業員を見殺しにした心の傷がある。それをベティに話した翌日、そのトラウマに決着をつけるために彼はある行動を起こす…という筋、結末は暗示的なぼかした書き味でなかなか上手いと思う。 特筆すべきはこのスト

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【読書記録】ケン・リュウ「心智五行」アフターコロナの行き着く果ての物語

物語は二等科学士の女の子タイラ・ヘイズのパーソナルAIアーティとの会話で始まる。調査船ダンデライオン号は265名の乗組員とともに爆発し、タイラは絶望的な状況の中父親の言葉を思い出してポッドの最後の動力を使い五万光年のハイパースペースジャンプを試みた。「自分の直感(ガット)を信じろ」。その先には未知の恒星系の未知の惑星ティコ409。  もしこの我々が直面する新型コロナと戦うため、マスク、換気、滅菌の世界を突き詰めるならその先にある世界はどんな形だろう。そんなことを考えさせられる

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【読書記録】ケン・リュウ「文字占い師」もうヤンキースなんか好きじゃない…。

主人公の少女リリーがアメリカでの友達からの手紙を待ち侘びているシーンから始まる。台湾に住みながら祖国アメリカとの強い心の繋がりを示唆する。最終の「もうヤンキースは好きじゃないの」と言う一文に至るまでの事件と心の変化。 リリーの友だちとなる台湾の老人、少年とをつなぐ仕掛けは水牛と老人の文字占いである。文字占いを通じてリリーは台湾とアメリカの明るい未来を信じる。しかしリリーの行動がきっかけとなり老人と少年が命を落とす。凄惨な拷問プロセスは父親の言葉として太字に綴られる。 終盤、リ

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【読書記録】ケン・リュウ「愛のアルゴリズム」 もう『愛してる』なんて信用できない?

物語は夫に伴われた不安定な女性の登場で始まる。どうやらなんらかの病気からの回復の途上の様だ。どうしてこうなったのか? 彼女は答えを求めて過去に想いを巡らすが、それが読者の疑問にも応えるための仕掛けとなる。ロボット開発を縁に愛した夫、そして幼い子供の死。それを乗り越えるための新たなロボット開発。彼女がこうなってしまった原因となる事件が回想され、現在時間軸と入れ替わりに読者に提示される。何かを見るたび彼女は過去の事件に引き戻される。進むにつれ読者は彼女の心の傷に同期していく。彼女

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〈変化〉をおそれない勇気

書評:橋本輝幸編『2010年代海外SF傑作選』(ハヤカワ文庫) 同編者による『2000年代海外SF傑作選』のレビューに、私は次のように書いた。 『「この作品は面白かった。そっちは面白くなかった(面白さがわからなかった)」で、かまわない。しかし、「何故、(私には)こっちが面白く感じられ、こっちは面白く感じられなかったのだろうか?」と考えてみるスタンスこそが、「SF」的な「思弁的態度」であろうし、それを世間では「批評性」とも呼ぶ。こうした意味において、本集は「自分(私)を読む

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SF作家だからといって、何も〈特別〉ではないのだから、もう少し頑張ってほしい。

書評:新井素子、冲方丁、小川哲ほか『世界SF会議』(早川書房) タイトルは大げさだが、要は、日本のSF作家プラス海外作家少々による、単なる「リモート会議」で、いたってお手軽である。 『世界SF作家会議』というタイトルに「世界のSF作家が、国連の大会議場に集まって議論する」みたいな、昔風のイメージを抱き、そうした重厚なものを期待したら、確実に裏切られるし、まあ、半分「騙された」と言っても過言ではないだろう。 私は、テレビ番組の方は視ていないのだが、そっちも同タイトルだったの

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01.自己紹介

壁山二鳥といいます。 SF、ショートショートを書いていきます。基本的にはここに掲載するものはフィクションです。過去、他のサイトに出していたものもあるかもしれませんが、ご容赦ください。 読むのも好きなので、面白そうなものがあったら、教えて下さい!好きな作家は、以下の通り。 ・グレッグ・イーガン ・阿刀田高 ・ケン・リュウ ・テッド・チャン ・新井素子 ・中井紀夫 宜しくお願いいたします。

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万物は流転する「もののあはれ」

文学ラジオ第50回の紹介本 「もののあはれ」 ケンリュウ 著 古沢嘉通 訳 ハヤカワ文庫 SF作家ケン・リュウの短篇傑作集2。今年6月に公開された映画「Arc」の原作「円弧(アーク)」、表題作「もののあはれ」、「良い狩りを」の三作品をラジオで紹介しています。ジャンルはSFですが、小説を通じて人間を描いているので、文学好きにも読んでもらいたい一冊です。「もののあはれ」から始まる短編集には、命あるあらゆるものが儚く思える、びっくりするくらい想像力豊かな物語が待っています。 「

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ひそやかに... ケン・リュウのブーム

 Ken Liu  もしかしたら、ひそかにアメリカのSF作家ケン・リュウのブームが起きてるんだろうかと、ちょっと感じてしまったので、今回は、ケン・リュウについて "note" していこうと思います。 +  +  +  +  +  +  SFファンの方なら、何を今更って感じなのかもしれませんが、先日、ケン・リュウの短編を原作として、「Arc」という石川慶監督の映画が公開されましたよね。  短編をよく1本の映画にしたな~と思うんですが、この話を聞いて思い出したのが、201

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【Arc(2021)】生と死は対極ではない、生の中に死がある【独自感想&考察&解説】

みなさんこんにちは、にぼしです。 今回は『Arc』という作品について語っていきたいと思います。 基本情報監督:石川慶 原作:ケン・リュウ『円弧(アーク)』 映画.comより引用 あらすじ 17歳、リナは出産した。 リナはその赤子に触れたとき、あふれる愛を感じることができず未来に恐れ、子を置き去りにして立ち去った。 その後は息子を捨てた呪いから逃れることができず鬱屈した毎日を過ごしていた。 ある時、ボディワークスの技師であるエマからヘッドハンティングされ、リナはその