堀間善憲

気がついてみたら60代のなかば。これまで出会った本や音楽、映画……からピックアップして…

堀間善憲

気がついてみたら60代のなかば。これまで出会った本や音楽、映画……からピックアップして、自分なりに解読してみたいと思います。めざすはあっと驚くような大発見ですが、果たしてどうなりますやら。みなさまもご一緒に楽しんでいただけますと幸いです。

マガジン

  • note クラシック音楽の普遍化を達成する

    • 1,869本

    クラシック音楽の歴史や作曲家、作品について、哲学的な視点から分析し、その普遍性や深さを探求する和田大貴のnoteです。クラシック音楽について語り合えることを楽しみにしています。参加希望の方はマガジンの固定記事でコメントしてください。

最近の記事

アナログ派の愉しみ/映画◎工藤栄一 監督『十三人の刺客』

暗殺団の首領は そのとき「地上げ」を命じた 工藤栄一監督の『十三人の刺客』(1963年)は恐ろしいチャンバラ映画だ。それは、13人対53騎という非対称の抗争劇が、黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)以上のリアリズムで描かれたことだけが理由ではない。モノクロームの映像内に留まらず、現代の日本社会に生きるわれわれに対しても背後から切っ先を突きつけてくるような、ただならぬ気配を漲らせているからだ。 江戸時代末期の弘化元年(1844年)、ときの将軍・徳川家慶の異母弟にあたる

    • アナログ派の愉しみ/本◎高村 薫 著『我らが少女A』

      再会した合田雄一郎が 突きつけてきた問いとは 合田雄一郎とは、かつて日本で最も脚光を浴びた刑事の名前だ。高村薫の『マークスの山』(1993年 直木賞)、『照柿』(1994年)、『レディ・ジョーカー』(1997年 毎日出版文化賞)に登場したかれは、もちろん架空の存在だが、それまでの頭脳と行動力に秀でた探偵役と異なり、自他ともに「爬虫類」と認めるような冷ややかな肌ざわりのキャラクターで、それがバブル経済崩壊後のとりとめのない時代の空気とマッチしたのだろう、ミステリー・ファンにと

      • アナログ派の愉しみ/音楽◎ベートーヴェン作曲『フィデリオ』

        生涯独身だった 楽聖が夢見た夫婦像とは ずいぶん以前、東京・池袋で実験映画ばかりを上映するイベントに参加した。おおかたは意味不明のひとりよがりなものだったけれど、なかにひとつ、非常に印象に残った作品があった。これを観たらだれでも眠くなるという触れ込みの映画で、一見、ふつうのラブストーリーなのだが、男女のカップルが駅の改札口で待ち合わせて喫茶店に行っておしゃべりして……と、こちらが当たり前に想像するとおりそのままに、しかもじれったくなるほどのテンポで運んでいくという仕掛け。効果

        • アナログ派の愉しみ/本◎NHKメルトダウン取材班 著『福島第一原発事故の「真実」』

          それはカフカの 不条理小説のような 2011年3月の東日本大震災における東京電力・福島第一原子力発電所の事故は、日本が長い将来にわたって背負うことになった重い十字架である。だとしても、それから13年あまりのあいだ、事故の真相をめぐってジャーナリズムが検証作業を持続させるとはきわめて特異な事態だろう。その意味で、NHKメルトダウン取材班による『福島第一原発事故の「真実」』は賞賛に値する成果だと思う。 これは、事故の直後から、NHKスペシャル「メルトダウン」シリーズの番組制

        アナログ派の愉しみ/映画◎工藤栄一 監督『十三人の刺客』

        • アナログ派の愉しみ/本◎高村 薫 著『我らが少女A』

        • アナログ派の愉しみ/音楽◎ベートーヴェン作曲『フィデリオ』

        • アナログ派の愉しみ/本◎NHKメルトダウン取材班 著『福島第一原発事故の「真実」』

        マガジン

        • note クラシック音楽の普遍化を達成する
          1,869本

        記事

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり性愛学(創作大賞2024応募作)

          へそまがり性愛学  あが身は、成り成りて成り合はざる処一処あり。  あが身は、成り成りて成り余れる処一処あり。   ――伊耶那美命と伊耶那岐命の対話(『古事記』より) O・ヘンリー著『最後の一葉』そこには意外につぐ 意外の事態が かつて国語の教科書で『最後の一葉』(1905年)に出会って、当たり前のように感動した覚えのある者にとって、作者のO・ヘンリー、本名ウィリアム・シドニー・ポーターが犯罪者として刑務所に服役した経歴の持ち主だとは、少なからず意外の念を催

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり性愛学(創作大賞2024応募作)

          アナログ派の愉しみ/本◎山本有三 著『もじと国民』

          トンガ島の酋長は 文字というものを知ったときに 山本有三は『もじと国民』(1946年)という文章を、いささか風変わりなエピソードから書き起こしている。 19世紀の初めごろだという。ヨーロッパの船が南太平洋で難破して、乗客と乗組員は命からがら近くのトンガ島に辿り着いた。かれらは救いを求める手紙を現地人に託して、もしどこかの船がやってきたらこれを渡してほしいと依頼したところ、相手は文字というものを知らないためにまるで要領を得なかった。そこで、文字とは声が届かない距離でも自

          アナログ派の愉しみ/本◎山本有三 著『もじと国民』

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり世界史(創作大賞2024応募作)

          へそまがり世界史 きれいはきたない、 きたないはきれい。  ――魔女の叫び(シェイクスピア著『マクベス』より) ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙』われわれはふたたび 神々の声と出会ったのか 自分は一体、何者なのか? その答えに少しでも近づくためにわれわれは本を読むのだろうが、米国プリンストン大学の心理学教授、ジュリアン・ジェインズが著した『神々の沈黙』(1976~90年)もまた、目からウロコの落ちる示唆に富んだ一書であることは間違いない。 骨子は、はなはだシ

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり世界史(創作大賞2024応募作)

          アナログ派の愉しみ/映画◎アンリ・コルピ監督『かくも長き不在』

          長年のつれあいの顔が アカの他人に見えたときに アンリ・コルピ監督の『かくも長き不在』(1961年)は危険な映画だ。既婚者ならだれでもこんな体験をしたことがあるだろう、ふと、つれあいの顔に見覚えがなく、まるでアカの他人としか思えない、といったような……。そんなときの対処法はふたつある。ひとつは、いまさら違和感をどうするわけにもいかず、いったん瞼を閉じてから、目の前の相手が人生の伴侶と割り切ること。たいていはこうしてやり過ごすだろう。しかし、もうひとつ方法がある。逆に、目の前

          アナログ派の愉しみ/映画◎アンリ・コルピ監督『かくも長き不在』

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり日本史(創作大賞2024応募作)

          へそまがり日本史 わかんねえ、 さっぱりわかんねえ。 ――杣売のセリフ(黒澤明監督『羅生門』より) 『古今和歌集』平安朝の人々の 哄笑が聞こえてくる 「やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」 初の天皇の勅命になる『古今和歌集』(905年)にあって、紀貫之は仮名序をこう書き出している。中国から渡来した漢詩に対して、和歌のほうこそ日本人の正真正銘の言葉に他ならないという、編纂者としての高ぶりが伝わってくるようだ。そこには、平安時代に至ってひ

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり日本史(創作大賞2024応募作)

          アナログ派の愉しみ/音楽◎エルガー自作自演『希望と栄光の国』

          そこには世界を支配した 大英帝国の残照が クラシック音楽の愛好者ならば、いまはなきイギリスのレコード会社、EMIに対して崇拝に近い念を抱いていよう。 すぐに思いつくだけでも、カザルス(チェロ)のバッハ『無伴奏チェロ組曲』(1936~39年)、ワルター(指揮)のマーラー『交響曲第9番』(1938年)、リパッティ(ピアノ)のショパン『ワルツ集』(1950年)、フルトヴェングラー(指揮)のベートーヴェン『第九』(1951年)、カラス(ソプラノ)のプッチーニ『トスカ』(195

          アナログ派の愉しみ/音楽◎エルガー自作自演『希望と栄光の国』

          アナログ派の愉しみ/本◎笹目いく子 著『独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖』

          コスモポリタンが描く 勧善懲悪の光景 近年、書店の文庫コーナーで圧倒的な活況を呈しているのはエンタメ時代小説のジャンルだ。もとより多くの読者が存在してこその現象に他ならないが、なんだって21世紀も中盤に差しかかったいま、チョンマゲを結った主人公たちがこれほどまでに持て囃されるのだろう? そんな疑問に格好のヒントを与えてくれるのが、笹目いく子のデビュー作『独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖』(アルファポリス文庫 2024年)だ。 著者は1980年東京生まれ、藤沢・鎌倉で

          アナログ派の愉しみ/本◎笹目いく子 著『独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖』

          アナログ派の愉しみ/映画◎スティーヴン・キング原作『スタンド・バイ・ミー』&宮本 輝 原作『泥の河』

          その夏、少年は 世界の神秘と出会った アメリカと日本のふたりの作家、スティーヴン・キングと宮本輝のあいだにはのっぴきならない共通項がある。両者とも1947年生まれであること、そして、ともに少年期を主題にした短篇小説を書き、かつ、それらを原作としてつくられた映画のいずれもが大傑作となったことだ。前者がロブ・ライナー監督の『スタンド・バイ・ミー』(1986年)、後者が小栗康平監督の『泥の河』(1981年)とは言うまでもないだろう。 『スタンド・バイ・ミー』の舞台は1959

          アナログ派の愉しみ/映画◎スティーヴン・キング原作『スタンド・バイ・ミー』&宮本 輝 原作『泥の河』

          アナログ派の愉しみ/音楽◎サン=サーンス作曲『動物の謝肉祭』

          作曲家はなぜ 傑作を封印したのか フランスの作曲家、カミーユ・サン=サーンスのおそらく最も有名な作品、『動物の謝肉祭』(1886年)はずいぶんと謎めいている。プロコフィエフの『ピーターと狼』(1936年)やブリテンの『青少年のための管弦楽入門』(1945年)とともに、子ども向けのわかりやすいオーケストラのレパートリーとして知られているけれど、わたしにはそう簡単に受け取れないのだ。 まず、謎のひとつ。そもそもタイトルに冠した謝肉祭(カーニバル)と言ったら、人間どもがひと

          アナログ派の愉しみ/音楽◎サン=サーンス作曲『動物の謝肉祭』

          アナログ派の愉しみ/映画◎フランク・キャプラ監督『毒薬と老嬢』

          おばあさんが 「超能力」を発揮するとき おばあさんが発揮する「超能力」の凄まじさを一度だけ目撃したことがある。かつて信州へ山登りに出かけて、地元の路線バスに乗り込んだとき、車内には5人連れの老婦人だけが腰かけておしゃべりしていた。農家のおかみさん同士らしい集団はこちらに一瞥をくれると、通りすがりの客に気をまわす必要もないと判断したのだろう、すぐにおしゃべりを再開したのだが、わたしは呆気に取られてしまった。 こんな具合だ。おばあさん5人のうち、入れ代わり立ち代わりつねに

          アナログ派の愉しみ/映画◎フランク・キャプラ監督『毒薬と老嬢』

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎中曽根康弘の「フクロウ」

          わたしが雑誌編集者になったのは、中曽根康弘が首相として絶大な威勢をふるっている時期でした。内政では「戦後政治の総決算」を標榜して靖国神社公式参拝、防衛費「1%」枠の撤廃、国鉄・電電公社・専売公社の民営化(現在のJR・NTT・日本たばこ)を断行したり、外交ではアメリカのレーガン大統領と「ロン・ヤス」関係を結ぶ一方、「(日本列島は)不沈空母」「(黒人などの)知的水準」発言で物議をかもしたり、これほどひっきりなしにニュースを振り撒く首相というのも前代未聞だったでしょう。 そこで、

          アナログ派の楽しみ/スペシャル◎中曽根康弘の「フクロウ」

          アナログ派の愉しみ/本◎ヘルマン・ヘッセ著『車輪の下』

          新しい幸福感は 新鮮なブドウ酒のように わたしは東京・小平市の公立小学校から、ふたつ隣の国立市にある中学・高校一貫の私立男子校を受験した。小学6年の担任教師が熱心に勧めてくれたのがきっかけで、母親とともに初めてその学校を見学に訪れた際、いかにも名門エリート校らしい重厚な雰囲気が漲っているのに圧倒されたものだ。当時は中学受験がブームになりはじめたころで、このときの競争率も10倍以上といわれたものの、幸運の女神に微笑まれてわたしは合格することができた。地元の小学校からは初めてだ

          アナログ派の愉しみ/本◎ヘルマン・ヘッセ著『車輪の下』