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「折りたたみ北京」よりもページ数が増えて多様性も勝る「金色昔日」

<SF(80歩目)>
中国の素晴らしき才能に溺れる。

金色昔日【こんじきせきじつ】: 現代中国SFアンソロジー
ケン・リュウ (編集), 大森 望 (翻訳), 中原 尚哉 (翻訳), 大谷 真弓 (翻訳), 鳴庭 真人 (翻訳), 古沢 嘉通 (翻訳)
早川書房

「80歩目」は、ケン・リュウさんによるアンソロジーでとてもおススメです。沢山の極上の作品がおさめられています。

序文/ケン・リュウ
おやすみなさい、メランコリー/夏笳(シアジア)
月の光/劉慈欣(リウ・ツーシン)
壊れた星/糖匪(タンフェイ)
潜水艇/韓松(ハン・ソン)
サリンジャーと朝鮮人/韓松(ハン・ソン)
さかさまの空/程婧波(チョン・ジンボー)
金色昔日/宝樹(バオシュー)
正月列車/郝景芳(ハオ・ジンファン)
ほら吹きロボット/飛氘(フェイダオ)
晋陽の雪/張冉(ジャン・ラン)
宇宙の果てのレストラン-臘八粥/吴霜(アンナ・ウー)
始皇帝の休日/馬伯庸(マー・ボーヨン)
鏡/顧適(グー・シー)
ブレインボックス/王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン)
開光/陳楸帆(チェン・チウファン)
未来病史/陳楸帆(チェン・チウファン)
中国SFとファンダムへのささやかな手引き/王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン)
中国研究者にとっての新大陸:中国SF研究/宋明煒(ソン・ミンウェイ)
サイエンス・フィクション:もう恥じることはない/飛氘(フェイダオ)

14人の作家の才能に出遭えてうれしかった。そして、巻末の3人(王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン)さん、宋明煒(ソン・ミンウェイ)さん、飛氘(フェイダオ)さん)のエッセイが秀逸です。

私は特に、「サイエンス・フィクション:もう恥じることはない/飛氘(フェイダオ)」を読んで、これからまだまだ良質な作品が大量に出てくると感じました。
なんか規模が違う。厚みが違う。驚いています。

短篇ですが、どの作品も素晴らしかった。
自分自身に合うのは夏笳さん、郝景芳さん、劉慈欣さん、宝樹さんはこれから新刊が出るたびに読んでいると思います。

それにしても、多様性とはこのアンソロジーか!と感じる完成度でした。

冒頭にケン・リュウさんの序文で「中国SFの代表的な作品を集める意図が無いこと」「わたしがその作品を楽しみ、注目に値すると考えたから」とあります。

私は、もちろん中国SFの専門家ではありませんが、膨大な才能を擁する国。
ケン・リュウさんの様な視点にたって、この様なアンソロジーが刊行されて、多くの才能に接することが出来て幸せだと感じました。
色々な作品の集め方がありますが、アンソロジーなので色々な才能に出遭えることがこの本の魅力です。

「ほら吹きロボット」
統治のためには自分よりもっとひどいほら吹きが必要という王様の命令で、ほらを吹く任務を与えられたロボットが世間を知るために旅に出るというもの。
なんか漢文の授業で感じた中華世界の壮大さが突いてきます。そして笑える。

「おやすみなさい、メランコリー」
鬱病の少女のもとにやってきた新しいロボットから始まる話とチューリングにまつわる作品。私たちが考える中国らしさは無い。
このアンソロジーに入っていなければ、そのまま欧米の作品と思ってしまう。

機械は思考できるか?の問いに呼応するチューリングの対話の物語。そしてAIロボットと患者のメランコリックな心理描写が溶け合った作品で、これは傑作です。

「金色昔日」
中国初のオリンピックから技術の衰退、国策の失敗、苛烈な改革。中日戦争のくだりで、現代中国史に疎い私も揺さぶられた。
感染症禍、戦争、社会主義国の経済崩壊、ソ連の誕生、天安門事件。私が学んだ歴史を逆に進んでいく世界の中国の物語。
読後に涙が自然とあふれてしまった。逆転する歴史の流れに説得感があり、引き込まれる筆力がすごい。紆余曲折の人生の果てには。。。、美しいラストシーンが印象的。

「未来は進歩していく」という楽観主義を壊してくれる作品。また「東京ラブストーリー」について、嬉しかった。

「正月列車」
時空間を走行する列車が行方不明になったニュースでのインタビュアーと列車会社社長の様子から、最後の台詞が含蓄に富む。
郝景芳さんの作品は、SFですが、文学的な側面も強い。「愛(love)」を感じる作品です。そして人生も旅も、効率ではないと伝わりました。

「月の光」
短篇ですが、劉慈欣さんの完成度が高い作品。
SFで人の心を描く、全ての要素がつまっている作品でした。

「鏡」
ダン・シモンズさんのハイペリオンにもあったような未来だけを記憶する少女。でも、顧適さんらしくオリジナルにまとめている。

そして、「サイエンス・フィクション:もう恥じることはない 飛氘」がエッセイとして秀逸です。
どれも素晴らしかった。

これははずれなしのアンソロジーです。

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