小鷺@ペンネーム模索中

「書くこと」の練習・鍛練の場に。 叱咤激励大歓迎です。

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最近の記事

彼女とわたし

村山由佳『二人キリ』(集英社) これまで読んできた村山作品の中で一番読み進めるのがしんどかったかもしれない。 思い当たる要因はいくつかあって、一つは舞台となっている明治後期〜昭和初期の様子をあまりわかってないこと。一つは芸者界隈の言葉遣いや慣習辺りも知識が乏しすぎるということ。 だけど、しんどかった一番の理由は、本書の内容があまりに濃くて、どろりとした粘度の高い血液を飲まされているような、生々しくて飲み込み難い感じを一貫して受けたから。 正直、村山さんの著書でなければ

    • 読書感想文|青空とパラソルと

      吉田篤弘『空ばかり見ていた』(文春文庫) 1年半くらい前(うろ覚え)に参加した読書会で、吉田篤弘さんの『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を紹介してもらって、読んでみたらドンピシャわたしの好みだった。 そのとき、吉田さんという作家のお名前を認知した。 だけれど、著者を見てみたら、見覚えのあるタイトルが一つあったのでした。 それが本書『空ばかり見ていた』。 大学生のとき(うろ覚え。出版年から鑑みて)に読んだんだと思う。 捉えどころがなくて、不思議な本だなぁと思った

      • 読書感想文|歴史からの跳躍

        ケン・リュウ(古沢嘉通 訳)『紙の動物園』新潮クレスト・ブックス S Fが苦手。わたしの脳内プロセッサでは追いつかなくて。 だけど、S Fのおもしろさを知りたい、楽しみたい。 そんなことを読書会で知り合った方にぼやいたら、本書を紹介してくれた。 ドキドキしながら読んでみた。 結論:教えてもらえてよかった!心から感謝!!(平伏) おもしろかった。すごかった。しんどいほどに心臓を揺さぶられまくった。 あっという間に読んでしまった。 上述の引用は「太平洋横断海底トンネル小史

        • 読書感想文|遠い親近

          イーユン・リー(篠森ゆりこ訳)『千年の祈り』新潮クレスト・ブックス 母語では口に出せなかった感情を外国語で言い表すことができたり、馴染みのコミュニティから飛び出したら自分をより出せるようになったり、身近な人でなく初対面の人に本音を打ち明けられたり、そんなことがあったりする。 本書を読んで、そんなことを思い出した。 本音・本心を誰にも打ち明けられずに自分の中に押しとどめるのは、いろんな要因がある。 家族関係や友人関係、上下関係、世間の目…社会。 本書『千年の祈り』は中

          読書感想文|守るものを孕む

          八木詠美『空芯手帳』(ちくま文庫) 34歳独身女性の柴田は、紙管製造会社に勤めている。女性という理由でお茶出しといった「名もない仕事」を押し付けられてきたが、ある日ついに我慢の限界に達した彼女は、妊娠しているという嘘を思わず口に出す。 そうして彼女は、妊娠した。 はじめは、柴田がこの嘘をどう貫いていくか、といったような話だと思った。 しかし、読めば読むほど違和感が増していく。嘘にしては、彼女はあまりにも妊娠に対して積極的。 母子手帳アプリをダウンロードして、胎児の大きさを

          読書感想文|守るものを孕む

          読書感想文|純真なつながり

          大島真寿美『ピエタ』(ポプラ社) 小泉今日子さんが舞台化をずっと目指してこられ、2023年遂に実現した作品。 その舞台をものすごく観に行きたかったのだけど、色々と都合がつかず涙を飲んで断念したので、原作をまず読んでみることにした。 お話は、作曲家ヴィヴァルディの訃報から始まる。 彼はヴェネツィアにあるピエタ慈善院で〈合奏・合唱の娘たち〉を指導していた。 主人公のエミーリアはピエタで育ち、40代となった今もそこで事務仕事などを担っている。 恩師の訃報から、あるきっかけでエミ

          読書感想文|純真なつながり

          読書感想文|新しい世界

          川端康成『伊豆の踊子』(新潮文庫) 川端文学初挑戦。 「伊豆の踊子」「温泉宿」「抒情歌」「禽獣」の4編。 「伊豆の踊子」 初読は、話に置いていかれないようにするあまり一語一語に目を向け過ぎてしまってあまり面白いと思えなかった。 すぐに再読したらそれでようやく、主人公「私」や踊り子たちの言動を楽しめた。 過剰な自意識と自己嫌悪で心ががんじがらめになると、他人に自分の感情を晒すのができなくなるのかもしれない。 何があったかは知らないが、「私」はそんな精神状態のために伊豆

          読書感想文|新しい世界

          読書感想文|記憶との遭遇

          堀江敏幸 編 『記憶に残っていること 』 (新潮クレスト・ブックス 短篇小説ベスト・コレクション) 新潮クレストブックスで出版されている海外作家の短編から選ばれた10編のアンソロジー。 本書のタイトル「記憶に残っていること」はアリス・マンローの短編の題だけれど、他の9編も「記憶」(What is Remembered)という要素が含まれている物語だと思う。 記憶って、思い出そうとして脳内を探る時もあるけれど、ふとしたきっかけで、思いがけないことを思い出したりもする。 取

          読書感想文|記憶との遭遇

          読書感想文|内と外

          山内マリコ『あのこは貴族』(集英社文庫) 4年前、友人が貸してくれて読んだ。その時は、切れ味鋭い刃物で胸をざっくり切り開かれるような、鋭い痛みを食らった。 最近になって、無性にまたこの本を読みたくなった。今これを読むのは自傷行為か?と思いつつ、どうしても読まずにはいられなかった。 前ほどの痛みはなかったけど、まだ癒えきってないかさぶたを剥がされたような、じくじくする痛みに変わっただけだった。 あらすじ 東京で生まれ育った箱入り娘・華子は、30歳を間近に控えて焦っていた

          読書感想文|内と外

          読書感想文|かけがえのないひと

          年森 瑛『N/A』(文藝春秋) 第167回(2022年上半期)芥川賞候補作の中で、唯一読みたい(読めそう)と思った作品。 はじめは今どきの若者言葉(「り」とか)や今どきのツール(TikTok、アクスタとか)といった時事性の強さに戸惑いがあったけど、テンポがよい文章なので、一度波に乗れたら最後まであっという間だった。 中編小説の中に、思考を刺激する要素がふんだんに散りばめられている。一言では言い表せられないことを表現するものとしての文学、その存在価値を示しているような作品

          読書感想文|かけがえのないひと

          読書感想文|お花ばたけ

          吉本ばなな『うたかた/サンクチュアリ』(福武文庫) 「やさしさ」と「哀しさ」の両方を内包している。 『キッチン』となんだかよく似てる気がするなぁと思ったら2作目でしたのね。 押し潰される「しんどさ」や「哀しさ」。そういったものに打ちのめされた人が、人の優しさや保護してくれる居場所に守られながら支えられながら、段々と日陰から日向へとまた歩き出していく、2編ともそんなお話だと思った。 ◆うたかた 母と二人暮らしの人魚。ある日別のところに住んでいる父の元へ「兄」なる存在がやっ

          読書感想文|お花ばたけ

          読書感想文|額縁のなか

          群ようこ『贅沢貧乏のマリア』(角川書店) 近代文学とか、いわゆる名著や文豪と呼ばれる作品や人たちに対して、わたしは近寄ってみたいという好奇心をずっと持っていた。だけど、一方で彼らは、わたしにとって、学校の壁の少し高いところに飾られた肖像画とか、教科書の中の挿絵といったような二次元的な存在でもあって、なかなか歩み寄る一歩目を踏み出せずにいた。 そんなのではいつまで経っても彼らに近寄れないと思い至り、2023年の目標の一つに「近代文学に手を出す」を掲げた。それでやっとこさ、肖

          読書感想文|額縁のなか

          読書感想文|輝くひと、輝かせるひと

          村山由佳『星屑』(幻冬舎) 昭和の芸能界を描くエンタメ小説。 芸能事務所で働く桐絵、博多の少女ミチル、サラブレッドの真由、そして彼女らを取り巻くさまざまな人たちの群像・成長を描く。 主人公が桐絵という、スターを目指す人ではなく、そういった人を支え世話する人という時点で、ずずいとわたしは距離が縮まった。 大筋は王道なのかもしれないけれど、その道中は喜怒哀楽に焦、驚、寂、そして感極まるといろんな感情に翻弄された。 わたしが「こう進んでいきそう」と思ったものが尽く外れて、目先

          読書感想文|輝くひと、輝かせるひと

          読書感想文|言葉と情緒を慈しむ

          太宰治『女生徒』(角川文庫クラシックス) いつか読んでみたいと思っていた太宰治。 でも、厭世、悲観、破壊主義といった先入観があって(愛読者の方に心から謝罪)、手を伸ばすまでなかなか至らなかった。 そんな中、いつぞや小泉今日子さんがこの『女生徒』を紹介されるのを見聞して興味を持った。 ただ、青空文庫なら無料で読めるけど、画面上の文字はどうにも目が滑る。そう二の足を踏んでいたら、神保町の古書店で巡り会えた。 はじめまして、太宰治さん。 女性独白形式の短編14編。 加えて、太

          読書感想文|言葉と情緒を慈しむ

          出会いなおし〜舞台「宝飾時計」観劇記録〜

          「出会いなおし」 ちょうど読んでいた本『出会いなおし』(森絵都)や、わたし自身の考えていたことらとリンクすることがあまりにたくさんで、いろんな思考や感情を巡らさずにはいられなかった。 このタイミングでこの演目と出会えてほんっっっとうによかった。 閉幕して、お隣さんが肌寒かったと言ってる脇でわたしはなんだか体がほてって暑かった。 ロビーで涼まないとコートを着れないほど。(発熱かと不安がよぎったけど、それは大丈夫だった。)そのくらい昂ってしまったのかも。 もう一度、いや何

          出会いなおし〜舞台「宝飾時計」観劇記録〜

          読書感想文|「読書」「本」を考える

          又吉直樹『夜を乗り越える』又吉さんが「なぜ本を読むのか」というテーマを真剣に考えて綴ったエッセイ。(本作では、本=文学という意味づけ) とある繋がりで出会った1冊。 「なぜ本を読むのか」私も何度も考えてきたこと。だけど、靄とか水蒸気みたいに、存在しているけど掴めない概念がずっと脳内に漂っている感じだった。 それを又吉さんが言語化してくれて、具象化してくれた。 そのくらい又吉さんにとっての「読書」が、私にとってのそれととても近いところにあった。 こういう体験こそが、まさに「

          読書感想文|「読書」「本」を考える