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読書感想文|お花ばたけ

吉本ばなな『うたかた/サンクチュアリ』(福武文庫)

「やさしさ」と「哀しさ」の両方を内包している。
『キッチン』となんだかよく似てる気がするなぁと思ったら2作目でしたのね。

押し潰される「しんどさ」や「哀しさ」。そういったものに打ちのめされた人が、人の優しさや保護してくれる居場所に守られながら支えられながら、段々と日陰から日向へとまた歩き出していく、2編ともそんなお話だと思った。

◆うたかた
母と二人暮らしの人魚。ある日別のところに住んでいる父の元へ「兄」なる存在がやってくる。何年もずっと会わずに過ごしてきたが、運命的に出会い、そして想いを育んでいく。
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人魚と兄の関係性のお話が主だってはいるけれど、母と父を含めた四角形のバランスも含めてどう向き合っていくか、そんなお話だと思った。恋、家族、そして自立。
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◆サンクチュアリ
旅行先で夜に海辺を歩いていたら、大号泣している女性を見かけた。数日通い続けるが毎夜彼女は泣いている。意を決して智明は声をかける。
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赤の他人から思いがけない助言や癒し、エネルギーをもらうことがある。偶然出会っただけなのに、特別な化学反応が起きることがある。
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2編とも「恋心」に触れているけれど、青春映画とかで描かれているような心が躍ったりはしゃいだりする類のものではなくて、慈愛に近い。
相手と付き合いたいとか、自分はこうしたいというような欲望やエゴではなくて、ただ真摯に目の前の人を、大事な人を、大切に思う。相手のために何ができるだろうかと考える。ともに過ごす時間を尊く思う。その人の身に起こったこと、その人自身、そして自分自身に、真摯に向き合う。

そんな清らかさに触れると、自分も浄化されるような気になってしまう。
そして、自分の中にも、そういう心が残っていたらいいなぁと思う。

吉本ばななさんのお話を読むと、人通りの多い場所からちょっと外れたところにあるお花畑のイメージが頭に浮かぶ。現実から少し遠ざかった逃げ場所、サンクチュアリ、そんな世界。真摯な美しさ。

「それは、この世にたった1人ずつの個人と個人の、私と、嵐の間に立った1種類しかない何か、他の誰との間にも起こりえず、今ここにあって手にとれるほどリアルな何かは、決して消えないという真実の感触だった。」

p. 59

「負けたくなければそのことをふまえて、歩くしかなかった。」

p. 192

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