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読書感想文|純真なつながり

大島真寿美『ピエタ』(ポプラ社)

むすめたち、よりよく生きよ。

『ピエタ』

小泉今日子さんが舞台化をずっと目指してこられ、2023年遂に実現した作品。
その舞台をものすごく観に行きたかったのだけど、色々と都合がつかず涙を飲んで断念したので、原作をまず読んでみることにした。

お話は、作曲家ヴィヴァルディの訃報から始まる。
彼はヴェネツィアにあるピエタ慈善院で〈合奏・合唱の娘たち〉を指導していた。
主人公のエミーリアはピエタで育ち、40代となった今もそこで事務仕事などを担っている。
恩師の訃報から、あるきっかけでエミーリアはとある一枚の楽譜を探し始める。

(ヴィヴァルディやピエタ、一部の登場人物は実在した人・施設を元にしているそうだが、本書はあくまでフィクション。)

エミーリアは楽譜を探すため、ピエタに縁のある女性たちに尋ねていくが、その中で彼女は、彼女が知っていた恩師の姿「以外の」面を知り始める。
それは必ずしも喜ばしいことばかりではない。
けれども、そのことで彼がより立体的に、色彩豊かな人物として、エミーリアの中に刻み込まれていった、とも言えるのかもしれない。

また、エミーリアは、楽譜探しをきっかけに、それまで縁もゆかりもなかった人たちとも出会うことにもなる。
中でも、コルティジャーナ(高級娼婦)のクラウディアさんがわたしは特に好き。

この物語の軸には、常にヴィヴァルディという故人が据わっているけれど、それを中心に女性たちの絆が結ばれたりより強くなったりしていく。
一人ひとりがより逞しくなっているようにもとれる。

物語の大半は、ヴェネツィアの街をぐるぐる歩き回っているような(歩いたことないけど)、心許なさと高揚感のある冒険心みたいな感覚でいたけれど、最後の数章では、ゴンドラに乗って波に体を預けているような(乗ったことないけど)心地よい解放感と、信仰心すら芽生えそうな礼賛の心持ちになった。

至極乱暴にこの小説を一言で表現するとしたら、シスターフットの話、と言えるかもしれない。
だけどわたしには、人間のもっと根幹的な、深部にある純真さやその繋がりのお話、という感じがした。

どこでどういう暮らしをしていたとしても、わたしがわたしであるかぎり、わたしは今宵、ここにこうして流れ着いたような気がいたします。

p. 210


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