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ケン・リュウ「太平洋横断海底トンネル小史」日本が太平洋戦争やらかさなかった世界線の果てで愛を叫ぶ

物語は、この話の主人公「ロートルの掘り屋」である「おれ」の語りで始まる。それは麺屋のアメリカ人ウエイトレス、ベティとの馴れ初め。彼は海底トンネルの掘削作業員として働く中で少しずつ人間性を失ってきていたのだが、ベティとの交わりの中で回復していく。彼には過去に指揮したトンネルでの事故で作業員を見殺しにした心の傷がある。それをベティに話した翌日、そのトラウマに決着をつけるために彼はある行動を起こす…という筋、結末は暗示的なぼかした書き味でなかなか上手いと思う。
特筆すべきはこのストーリーの中に差し挟む形で実際の歴史とは少し違う所謂パラレルワールドの史実が語られてあること。簡単に言えば、第一次世界大戦の後、日本を過度に締め付けることを列強がせず、そのため日本は覇権主義でなく「平和的上昇」に転じ、米英と平和的共存に成功し、世界恐慌での経済危機を克服するための太平洋横断海底トンネルが昭和天皇より発案されたというもの。
この捻った時代設定が、主人公の物語と相互作用して全体のストーリーを面白く読ませていると思いました。

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