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コラム・エッセイ

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日々のコラムです。 思いついたこと、思い出したことを、つらつらと。
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書けなかった2年

書けなかった2年

ハラスメントやケアという言葉を目に、耳にする機会がとても増えた数年。
予想外なことに自分もその当事者のひとりとなっていたらしかった。
この2年があまりに怒涛で、やっと今「書く」ということができているのは、これはたぶん、この2年の暗澹たる泥濘からやっと抜け出そうかという、回復のさなかなんだと思う。

というのも、

「自分をどうか大切にできるといいな」
と、つい先日に大切な人のことを思って言葉にして

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お正月、じぶんの運命に出会いなおす

お正月、じぶんの運命に出会いなおす

『運命』なんていうとおおげさに聞こえるかもしれないけれど、ようは、巡り合わせのこと。

お正月は、自分が持ってうまれた巡り合わせがきわだちます。

たぶんたくさんの人が「家族とすごす」のだろうけれど、親戚一同集まるところもあれば、親兄弟と過ごすこともあるし、パートナーの家族とすごす場合もあるでしょう。もしふだんは離れて暮らしているなら、ひさびさに会ってつもる話をしたり、はたまた、苦虫をかみつぶしな

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献血の帰りにいなくなってしまったあの子

献血の帰りにいなくなってしまったあの子

ときどき思い出す女の子がいる。
その子は、献血が好きだったらしい。

らしい……というのは、わたしと出会う前に彼女が亡くなってしまったからだ。

 

わたしは大学で演劇を学んでいた。
4年生の時、卒業に必要なレポートを書くため、大学の図書館で演劇関連の本を借りられるだけ借りてきていた。どの本もとても役に立って、おかげでかなり充実した気持ちでレポートを仕上げることができた。というかその本達がなけれ

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タピオカを煮るように。

タピオカを煮るように。

「タピオカを煮る」、と父が言った。

40度近い高熱を出してモウロウとしていた私は、突然のワード"タピオカ"がすぐに理解できなくて「え?あの最近ブームの?」と聞き返した。すると横から母が、奈良名物のチョコ豆『御神鹿のふん』みたいな黒い球がたくさん入った袋を見せて

「うちは数年前からタピオカを煮てるよ」

と答えた。

いつの間にか実家にもタピオカブームが来ていたらしい。毎年2〜3回は帰省していた

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生きて帰らなければならなかった特攻隊員

生きて帰らなければならなかった特攻隊員

大阪の下町。お世話になっている町工場の社長さんとお昼を食べに行こうと、車で出かけていた。

会社のことや生い立ちなど、なにげない雑談をしていた時に、その方が「僕のおじさんは特攻隊だったんだ」と言った。「必ず生きて帰らなければならない特攻隊だった」と。

"カミカゼ"と呼ばれた特別特攻隊の乗る戦闘機「零戦(ゼロセン)」の積まれていたのは、片道だけの燃料だった。一度飛び立てば帰れない──片道切符の飛行

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「べつにフェミニストじゃないんだけどさ、」と言いたくて

「べつにフェミニストじゃないんだけどさ、」と言いたくて

性別にかかわるなにか考えを言うときに、「べつにフェミニストじゃないんだけどさ、」と前置きしたことが、何度かある。

それは本心からの言葉で、わたしは自分のことをちっともフェミニストだとは思ってなかったし、フェミニズムにも興味がなかった。どちらかというと、名誉男性的な要素が強いと思っていた。

20代半ばには、男性社会と言われるいくつかの業界で働いていたけれど、なんの不便も感じなかった。セクハラらし

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はじめて「旅」を知ったのは、20ヶ国を旅したあとだった

はじめて「旅」を知ったのは、20ヶ国を旅したあとだった

「旅」というには不思議な瞬間だった。

その頃、私は車で生活をしていた。働きすぎた反動なのかとつぜん仕事をやめ、家を解約し、車を買って北へ向かった。これから暑くなるだろうという6月。だったら涼しいところへ行こうと、東京から新潟へ、そして船で北海道へ渡ったのだ。

車生活を選んだ理由は、ヒマだったから。自由な時間があるなら行きたいところに行こう、家が動けば便利じゃん。という単純な理由だった。『ハウル

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出版社が「出版」を終わらせている…のか?

出版社が「出版」を終わらせている…のか?

いやーーーー、ここのところのあまりにも各出版社のスタンスに首をかしげたので、おもわずnoteを開きました。

わたしは小さな頃から本が好きで、起きている間は本を読んで、死ぬなら本に埋もれて圧死したいとすら思っていました。ライターとしてたくさんの出版社にお世話になり、尊敬する編集者や記者もたくさんいます。
けれども「出版社」という会社組織が、『出版(業界)』の終わり感を強め、それが出版離れに拍車をか

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痛ましい事件について、わたしたちはどう発言したらいいのか

痛ましい事件について、わたしたちはどう発言したらいいのか

たくさんの人が傷ついた。
川崎登戸殺傷事件。速報を見て、なんてことが起こったんだと愕然とした。

SNSには戸惑いの声が溢れていた。

事件を嘆く声、自殺した犯人を責める声、それに対して誰かが怒り、またそれに別の人が怒っていた。不安と怒りが「犯人死亡」ということでやり場をなくして飛び交い、どんどん大きくなっているように見えた。

それについて私は思わず、以下のツイートをした。

不安だった。
負の

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美しき芸術の都市《ロシア・サンクトペテルブルグ》

美しき芸術の都市《ロシア・サンクトペテルブルグ》

ロシア第二の都市・サンクトペテルブルグに降り立った感想は

「“帝国”ってこういうことを言うんだ……」でした。

でかい。あまりにでかい。なにもかもでかい。
同じ“帝国”とはいえロシア帝国と大日本帝国とは規模が違いすぎる。
戦争して勝てるなんて到底思えない。
そして、美しい……

なかでもロシア帝国当時の首都サンクトペテルブルグは「芸術文化の都市」と言われています。芸術・文化については首都モスクワ

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SNSでスルーした方がいいリプライとは

SNSでスルーした方がいいリプライとは

ちょっと攻撃的なタイトルにしてしまったのだけど……このあいだ、落ち込んでいた友人が見せてくれたTwitterのアカウントのリプライ欄にあまりに驚いたので、考えてみました。

彼女は匿名のアカウントでニュースや政治やmetooとかについて呟いているのだけど(汚い言葉づかいはしていない)、そこに知らない人や変なアカウント名(aXhog65kj……みたいなやつ)で、攻撃的な言葉遣いや攻撃的な批判リプライ

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SNSで配信しながら車生活をしていた時、彼に出会った。

SNSで配信しながら車生活をしていた時、彼に出会った。

いまだに親には言っていないことだけど、20代のある時期、一人で車生活をしていた。

それまであまりに仕事が忙しくて、時計の針が「2時」を差していたらそれが夜中の2時なのか昼の14時なのか判断がつかないくらい、太陽を見ずにぶっつづけで働き詰めだった。

えーい!と、投げ出したくなったのかもしれない(こまかいことは覚えてない)。家を解約し、足を伸ばして寝れるという基準だけで選んだ中古車を購入し、初夏だ

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歯みがき粉すら買えない国を、音楽が救うか。《南米ベネズエラのアーティストたち》

歯みがき粉すら買えない国を、音楽が救うか。《南米ベネズエラのアーティストたち》

『アーティストになったから、 
国外へ出られた』これは南米ベネズエラで出会った、若いアーティスト(音楽家)たちのことだ。

ベネズエラはこの数年、アメリカの制裁によるハイパーインフレと、革命と、反政府デモで、混沌の一途をたどっている。日中はバリケードがはられ、犯罪が多く、暴力が溢れ、夜出歩くことは困難だ。もちろん日本人が観光に行くことは薦められていない。

ベネズエラに入国した時、わたしはベ

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「祖母の旅行」 ー 母の日のカーネーションはまだあげられない

「祖母の旅行」 ー 母の日のカーネーションはまだあげられない

昨日は“母の日”だった。

母には舞台のチケットをプレゼントし、母の母である祖母とは初めてのテレビ電話をした。

ここ1年、祖母は一気に元気がなくなった。もともと掃除や計算やガーデニングが大好きで、ズボラな私と血が繋がってるとは思えないほど、几帳面で勤勉で働き者だった。それが今は、祖母は90歳を越え、骨折を繰り返して長期の入院をしている。得意だったことのすべてを手放して、ベッドの上から動かなくなっ

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