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#創作大賞2023
【短編】『親父の遺産』(後編)
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親父の遺産(後編)
親父がコールドスリープに入ってからようやく100年が経過した。オレが目覚めてから40年になる。目覚めたばかりの時は、記憶の整理と現代社会への適応のために一ヶ月ほどかかることは知っていたため、あえて時間を置いて親父を尋ねることにした。しかし、いざ自分が親父の息子であることを証明しようと試みても、依然として誰にも信じてもらうことはできなかった。何度も何度も訪問を
【短編】『親父の遺産』(中編)
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親父の遺産(中編)
オレは執事の言ったコールドスリープという言葉を聞いて一瞬理解が追いつかなかったが、再び執事が何かを口にする前にはその意味がわかった。
「コールドスリープというのは、」
「いつ目覚めるんだ?」
「あ、はい、100年後でございます」
オレは100年という長い年月に圧倒されかけたが、親父の資産額を考えれば全くもって無理という話ではなかった。そもそもコールド
【短編】『親父の遺産』(前編)
親父の遺産(前編)
オレの親父は大のつく資産家だった。すでに歳は70を超えており、生きられてもせいぜいあと20年だろうと見積もっていた。親父が死んだら遺産は兄と姉と自分の三人に分け与えられることになっていた。兄は親父が買収した会社の取締役となり、姉はその会社の重役となっていた。オレだけが親父から見放され、今までもらった金を切り崩す生活を続けていた。半分は投資に回していたため食いっぱぐれることは
【短編】『夜の訪問者』
夜の訪問者
メアリーは部屋中の電気を消しカーテンを目一杯開けてから空に満月が出ていることを確認し鍵を開けてすぐベッドに入った。部屋の中を月明かりが駆け抜けメアリーの膝下の方までをくっきりと照らした。メアリーは影に隠れいつものように月夜にあの人が来るのを待ちわびていた。あの人は満月の夜にしか姿を現さないのだ。今まで何度か影を見たが、一瞬でいなくなってしまった。今度こそその人の顔を見ていたいと思い
【短編】『ポルターダイスト』(完結編)
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ポルターダイスト(完結編)
僕はポルターダイスト現象の発生する理屈を知ったのはいいものの、アカネさんとそれを見ることができないことにどうも気落ちせざるをえなかった。当日までもう1週間を切っていた。オカルト研究同好会と書かれた部屋を通り過ぎた時に、ふと彼女と初めて会った時のことを思い出した。彼女は他の不良の男たちの横で床に寝そべり、いかにも不良っぽい人だと思った。久々に誰もい
【短編】『ポルターダイスト』(後編)
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ポルターダイスト(後編)
彼女のいない部屋はどこか物静かだった。彼女を思う気持ちがもともと空っぽな部屋になおいっそう喪失感を与えた。僕はアカネさんのまとめあげた情報をもとに、ポルターダイスト現象が目撃された日にち、場所、時間帯、月の満ち欠けなどをそれぞれ比較した。
- 2008年6月10日、9時15分、ロンドン・バーミンガム、満月
- 2010年1月15日、7時2
【短編】『ポルターダイスト』(中編)
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ポルターダイスト(中編)
無重力の場所を探し当てる方法は頭に浮かんでいた。ポルターダイストという言葉で引っかかる記事を片っ端から調べていき、その現象の目撃者に場所、時間、日にちを聞いた上で、太陽と月と地球の位置をそれぞれ数値化し法則を見出す方法。そしてポルターダイスト現象そのものについても調査する。実際に現象を目撃した際になにがどのようにして起こりどう終わったか。またどのく
【短編】『ポルターダイスト』(前編)
ポルターダイスト(前編)
太陽と月が特定の位置にある時、地球上のある一点だけが重力を失うという噂があった。どのぐらいの時間重力がなくなるかは、いまだ正確には計算されてはいないがおよそ1分間と言われている。しかしその一点の空間は極端に狭く人間がそこに立っただけでは無重力とは言え体のほとんどが重力のある領域に面しているがために浮くことはない。どれほど狭いかというと、ピンポン球一つ分ぐらいである。場
【短編】『日本芸術振興会』
日本芸術振興会
とある旅館の大広間に名だたる巨匠たちが集まった。どの顔も映画や演劇、文学、作曲、テレビなどの分野で一眼置かれているものたちばかりだ。皆ぞろぞろと集まっては、等間隔で設置された座椅子に腰を下ろした。中には顔見知り同士もいたらしく、静かに会釈をして自分の名前の書かれた席へと向かった。皆が席についた頃、外で騎馬が唸る声が聴こえると、障子をがらりと開いてスタスタと大広間に入ってくる者が
【短編】『もの言う左目』
もの言う左目
「どっち向きですか?」
「右です」
「じゃあこれは?」
「下です」
「はい、じゃあ今度は左目に切り替えて。これどっち向きですか?」
ゴツゴツとした機械に顎を乗せ、レンズ越しに左目で見る中の景色はぼやけていた。
「わかりません」
「これは?」
「わかりません」
「はい、終了です」
僕は白内障を患い次第に左目の視力が低下していった。医師からは手術を受けることを強
【短編】『ナンパ師』
ナンパ師
大学内のカフェで知り合った男とその場の成り行きで別日に合コンにいくことになった。彼が言うにはクリスマスも近いし、そろそろ恋人が欲しくないかということで、お互いの可愛い友達を紹介し合えばすぐにでもうまくいくはずだと言われた。僕もその男もそこそこの良い顔立ちだった。初対面なのにやけに馴れ馴れしいやつだとも思ったが、自分も同じ立場ではあったため利害が一致した。というのも僕は合コンに初めて誘