居眠り猫と主治医 ⒗矛盾猫 連載恋愛小説
なにも話さず電車に揺られていると、高校生だった頃のまっさらな感覚がよみがえってきて、疲れた体と心が少しだけ癒えた気になる。
相手の意図がどうであれ、どうしようもなく惹かれているのは、シンプルな事実だ。
車窓の景色をながめている横顔を、そっと盗み見る。
「電車通学でした?」
物思いにふけっていたのか、気の抜けた返事が返ってくる。
初の共通点に、じんわり喜びをかみしめる。
降りる駅が近づくにつれ、無性に名残惜しくなってきて、
「もうすこし一緒にいたいです」
と文乃はつぶやいた