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真夏の恋事件|掌編小説 シロクマ文芸部

夏は夜に事件が起こる。
まして、今宵は夏祭り。なにがあろうとおかしくはない。

息苦しいほど重く湿った夜なのに、私のまわりだけ氷河期に突入。
親友と好きな人が手をつないで前を歩いていた。カランコロンと下駄の音が耳鳴りみたいに響く。
人の気持ちを聞き出しておいて、自分の恋バナは出し渋っていた彼女。
友達ですらなかったのかもしれない。

こうなったら、食べすぎで死んでやる。
などと激しい気性でもないけれど、目につくものは片っ端から買いまくった。数人と合流する予定なんか、どうだっていい。
出店の途切れた場所ではたと気づき、途方にくれる。

「どした?宴会でもすんの?」
聞き覚えのある声。同じクラスの芳野だ。
「高校生はお酒なんか飲まないし」
9月におこなわれる体育祭の実行委員に任命されてしまった、芳野と私。
夏休み中も頻繫に顔を合わせていた。

証拠隠滅に協力してくれることになった彼は、広場のテーブル席でイカ焼きそばをかき込んでいる。私がたこ焼きを3つもぐもぐしているあいだに、焼き鳥を5本たいらげてくれた。
「川瀬は爪隠しすぎじゃない?」
「つめ?」
「そ。能ある鷹」
実行委員会の会議がだらだらと長引くのがイヤで、さっさと結論に持ち込んでいた私。目立ってしまったのだろうか。

「読書量かなあ?頭いいよな」
学年一の秀才にほめられる。
「話してておもしろいし」
「はあ…」
なんだか上機嫌だけど、そんなにおいしかったのかな。

食べるのがトロイから、たこ焼きはすっかり冷めてしまった。
「実は前から興味あった」
そういえば、浴衣姿で彼に会うのは初かも。
「って、今告ったんですけど?」
正面切ってそんなことを言われたのはもちろんはじめてで、私はまじまじと芳野を観察する。彼は空のお皿で顔を隠した。

「ハズイっつの、なんか言ってよ」
「なん」
「なんそれ」
ふふっと同時に笑い、続きに取りかかる。デザートはかき氷がいいな。
憂鬱な夏ではなくなるかも。
そんな予感がした。

(おわり)

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