着ぐるみとロボット ⒍高嶺の花 連載恋愛小説
(815字)
人は、手の届かないものに焦がれる習性がある。
たとえば、宮城しおり。男女比の偏った理系学部で、その凛とした佇まいは羨望の的。
もの静かで人づきあいが苦手なため、しおりと友達になるのも至難の業。名実ともに、高嶺の花だ。
身近にいる男子がモタモタしているうちに、しおりはややこしい沼に足を踏み入れてしまう。忍はくわしくは知らないが、お姉さんの恋人となにやらあるようなのだ。
苦しいだけの恋はさっさと手放して、想ってくれる人に目を向ければいいのに。ものうげな横顔を目にするたび、忍はそんな思いにとらわれる。
「長屋さん、忍のこと心配してたよ。連絡してないの?」
ボリボリとポッキーをかじっていた忍は、病室のベッドでむせそうになった。毎日のようにお昼どきに突撃してきた人間が、こつ然と姿を消したら、さすがの長屋も気になるか。
「うーん。ウザがられるかなと思って。いったんメッセージを送りだしたら、とりつかれたように連投しそうだし」
段ボールを抱えて移動中、忍は階段を踏みはずした。
高価な部品が入っていたため慎重を期していたつもりが、ふとしたはずみで真っ逆さま。変な角度で圧がかかったらしく、右のすねをやってしまった。
「ポッキリ脚を折った人に、ポッキーの差し入れって」
しおりはそんなブラックユーモアを持ち合わせていないので、きょとんとしている。
病院食にへきえきしてジャンクなおやつを頼んだのは、自分だ。忍としては油こってりなポテチなんかを期待していたのだが。具体的に提示しなかった発注側のミスである。
「来週退院でしょ。よかったね、ひさしぶりに会えるよ」
そこが問題なのだ。やっとこさ顔と名前が一致したところだったのに、今度顔を合わせれば、どうなることやら。
認識されずに素通りされる悪夢を、忍は2回見た。
ふりだしに戻った気がして、どうも気が重かった。
(つづく)
▷次回、第7話「長屋、イラつく」の巻
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