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着ぐるみとロボット ⒓まどろみデート 連載恋愛小説 

                            (1024字)
キャンパスで紫のふわふわボディを見かけると、無条件に飛びつきたくなる。
「あの…言いにくいんですが、将さんじゃないです」
恐縮した声が中から聞こえ、忍は天地がひっくり返ったかと思った。聞くところによると、専任だった長屋将は来年多忙になるためハッコくんを後進に譲るらしい。
先に言ってくれ、先に。

居酒屋の入り口付近で先に忍を見つけたらしい彼は、軽く手を上げ合図してきた。
ちいさな幸せをかみしめ、わざと気づかないふりをする。すると、飲み会終わりの団体がわらわらと出てきて、忍はその中に紛れ込んでしまった。
「きみ何学部?何年?二次会行くよね」
あなたより3、4学年上で、専門は機械工学ですが?

ほろ酔いの学部生に行く手をはばまれ、進むに進めない。
見かねたのか、気の短い長屋がツカツカとやってきて、忍の手首をとらえた。
「ちょっとシゲキがつよい…」
「茂樹って、だれ」
頭脳明晰なのにボケとは、これいかに。

気まずい関係にはなりたくなかったので、先日、しおりとカフェでお茶をした。
イヤな思いをさせてごめん、と彼女は謝ってくる。昔から人の気持ちに鈍感で直したいのに直らないと、落ち込んでいるようす。
しおりは全然悪くないこと。グチでもなんでも、もっと恋バナをしてほしい、と伝えておいた。

國見了には正式にお断りをし、彼は意外にも納得顔だった。
「片思いじゃないじゃん。長屋さんだっけ?green-eyed monster(緑の目をした怪物)になってたし」
嫉妬と同義のおもしろ英語表現で、うまいことを言う。

メニューの文字が泳ぎだし、忍は舟をこいでいた。
「また研究室泊まり?」
「んー、泊まったというか、徹夜したというか…。でも、大丈夫。ごはんデートは、最優先なので」

骨折にまつわる諸々もろもろで、チームに多大なる迷惑をかけた身としては、ここで恩返ししないでいつやるのか、とフル回転モード。
「いいから早く食って、さっさと帰って寝ろ」
うん、とつぶやき、忍は長屋の肩で寝る。
15分ほど寝かせてくれた彼は、しきりに食べ物をすすめてくる。
全部食べ終わったら即お開きだから、食べたくないのに。

食事しながら電池が切れるので、みさきに幼児扱いされることも多い。
かといって、人の口に指を突っ込むのはどうなんだ。
「指食うなよ」
「…って、なにしてんですか」
いつ気づくのか実験してみた、と長屋はなんでもなさそうな顔で言う。
おかげで、一時的に眠気がどこかへいってしまった。

(つづく)
▷次回、第13話「ひねくれ告白」の巻

#恋愛小説が好き #小説 #賑やかし帯


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