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着ぐるみとロボット ⒑貢ぎもの 連載恋愛小説 

                             (1038字)
死刑宣告を先延ばしにしようと、忍はまだ悪あがきをしていた。
あれから、しおりと長屋を避けつづけている。お手製弁当を復活させ、学食に行かなければいいだけのこと。どうしても用事があるときは、時間をずらすようにしていた。

チームのみんなと打ち合わせしたあと、食堂のテラス席で忍はティーソーダを飲んでいた。
「みやげ持ち歩いてんだけど。毎日」
しっぽを踏まれたワンコみたいな声が出た。
「お、おかえりなさいませ…」

断ったはずのお土産を、長屋はテーブルに置く。
「なんですか、これ」
「だから、みやげ。集めてるんだろ」
紙袋に入っていたのは、他大学のオリジナルグッズ。ロゴ入りのカラーペンセット、ふせんにクリアファイル。校章のはく押しの、リアル「大学」ノートまである。

忍は我を忘れて飛びはね、体をテーブルにこれでもかとぶつけた。痛みに耐えながら、ひざをさする。
「また折った?」
「…回避しました。左だし、セーフであります」
「なんかさっきから、口調ヘンだけど?」

しおり情報で、大学文具を収集していると聞きつけたらしい。
包装を破らずに裏も表もなめるようにめでる忍を、長屋は頬杖をついて観察している。
「え。しかもこれ、2大学ぶんある?」
「近かったから、ついでに両方行った」
そこに足を運ばねば買えぬ、真の限定品ばかりである。

うれしすぎて、もはや真顔をキープできないが、同時に大いなる疑問がわきあがる。たしか、ハッコくんにはもっと重大なミッションがあったはず。
そのことで頭がいっぱいだったのでは…

「あ…えと、おいくらで?」
「みやげに金払うバカ?」
もごもごとお礼を言うだけで、せいいっぱい。論文発表のプレッシャーもある学会遠征の合間に、わざわざ時間とお金を使うなんて。
やさしい人なのは知っていたが、なんだか落ちつかない。

ふと会話がとぎれ訪れた沈黙にとまどい、忍は残りのソーダをストローで吸い込んだ。
「元カレが編入したって?」
「なぜにそれを…」
せき込むよう、仕向けられたとしか思えない。
みさきがこれみよがしに吹聴し、わざと長屋の耳に入れたらしい。オープンな片思いは、これだから困る。

「あっちは元サヤ狙いだって」
みさきの妄想だと力説する。
「河嶋は?」
その気があるのか聞かれ、どもりながら否定した。
長屋将ひとすじで、失恋へまっしぐらですよ。
おごってくれるんじゃないの、とローストビーフ丼を払わされた。午後2時にガッツリ食らう人の、胃の状態を見てみたいと忍は思った。

(つづく)
▷次回、第11話「ダブルキス未遂」の巻

#恋愛小説が好き #小説 #賑やかし帯




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