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着ぐるみとロボット ⒐再会 連載恋愛小説 

                             (988字)
図書館の入っている3号館は屋上庭園になっていて、さながら植物園のよう。蝶や虫、小鳥もやってくる、憩いの場だ。
最新の自動放水設備がととのっているため、整備スタッフの負担も最小限になっている。気分転換やもの思いにふけるには、もってこい。
風が抜けるお気に入りのベンチで、忍はぼんやりしていた。

ふたりが実際につきあいだしたら、笑顔で応援できるだろうか。
ハイここまで、ときれいさっぱり想いを断ち切ることは可能?
史上最高にヘコんでいるさなか、悩みの種からLINEが届いた。
「みやげ何がいい?」
なにもなくて大丈夫です。気をつけて行ってきてください。
「食える系?食えない系?」
なにごともなく帰ってきてくれたら、それでいいです。

二度と会えなくなるよりは、マシだ。
すこしだけ落ちつきを取り戻した忍がスマホから目を上げると、國見くにみりょうが興味深げに樹々を仰いでいた。
「いいとこだね、ここ」
「うん」
再会に際して大げさなやりとりはいっさいなくて、ああ、こういう人だったと、忍はなつかしくなる。

「縮んだ?」
立ち上がった忍と目線を合わせ、彼は小首をかしげた。
「そっちがタテに長すぎるの」
「大学入ってから伸びたときは、さすがにあせった~」
声を合わせて笑うタイミングも、昔と変わらない。

「しのがメカに強いのは知ってたけど、同じ大学院で同じ研究室って。もってんな、おれ」
國見は高校を卒業後、イギリスの大学に留学した。あやふやに別れた感じだった。
「別れたっけ?」
「5年も会ってないんだから」
「そーゆーもん?」

ベンチに並んで座り、旧交を温める。
「相変わらずやってんだ?がんばりやさん。身をていして部品を守った武勇伝、うかがいましたよ?」
なにもかも筒抜けだ。
「しのの豚キムチ食べたくなった。あっちになかったし」
「それは今、欠番っていうか…」
「あー、彼氏いるんだ」

目を泳がせる忍を見て、片思いだと瞬時に彼は見抜く。
「その人、変わり者だね」
「え?」
「しのほどかわいくておもしろいコ、そうそういないのに」
含みのある言いかたでまっすぐに見つめられ、忍はあわてて目をそらした。初カレは、はじめての元カレという存在でもあり、妙に調子が狂う。

こっぱみじんに失恋する瞬間が間近に迫っている今、近くにいてはまずい人間と再会してしまった。

(つづく)
▷次回、第10話「長屋、贈りものをする」の巻

#恋愛小説が好き #小説 #賑やかし帯


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