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着ぐるみとロボット ⒊くせ毛のシンデレラ 連載恋愛小説

研究の話になると、ゲノムだの分子だの言いだすので、忍は笑顔で聞き流す。
長屋本人に自覚はまったくないのだろう。彼の話には、宮城しおりが頻繁に登場する。脈ナシだとわかっているのに近づくとは、こういうことなのだ。

「黒髪ストレートって、いいですよねー。CM出れそう」
忍は生まれ落ちたときから色素の薄いくるくるくせ毛で、これまでさんざん痛い目にあってきた。まず、目のこまかいクシでは髪をとかせない。引っかかって物理的に痛いだけ。

小学生時代は、父の駐在先であるマレーシアにいた。
そこは多文化社会そのもので、宗教も服装も習慣もちがう生徒たちが、ごちゃまぜに学んでいた。髪色を気にする人間は、皆無だった。

帰国して早々、忍は強烈な日本的洗礼を受けた。
やれ校則違反だ不良だと、染め&パーマを疑われ、中学入学初日から生徒指導室に連行される。
「黒く染めてこいって、おかしくないですか?あと、地毛証明書ってナニ?」
ここは1億総監視社会なのか。はては、ディストピア?

忍が思い出し怒りをしていると、長屋は黙って自分の口もとに手をやる。
笑うのをこらえているらしい。
「笑いごとじゃないんですけど」
ごめん、と笑い顔で言われ、グッとくる。
今一瞬だけ、心の距離が縮まった気がした。

「全部一緒にする必要は、たしかにないな」
「そうですよ。人は人。他人は他人、ですよ」
「…って、自分どこ行った?」
帰国してから10年経った今では、日本語が不得手という言い訳は通用しない。

それでも、今夜の冒険は、なかなかの収穫アリ。
にやけている忍の前に、逆三角形のカクテルグラスがすべるように差し出される。
「シンデレラです。よかったら、どうぞ」
柑橘系の、きゅんとする味と見ため。
12時で魔法が解けることを暗示されたみたいで、忍は一気にしょんぼりした。

(つづく)
▷次回、第4話「ハッコくんとの出逢い」の巻

#恋愛小説が好き #小説 #賑やかし帯

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