短編小説『水たまりの女神様』

雨が降りやんだ梅雨の夜に起きた出来事です。 男性が仕事帰りに寄った本屋さんで見つけた本を買うか迷いましたが買わずにお店を出ました。 しかし途中で気になりビジネスバッグに入っていた手帳にタイトルを忘れないように書こうと思って取り出すとペンの上部にあるピンが外れて水たまりにボールペン…

【小説】男の手紙

この作品は『女の手紙②』の続編です。 女の手紙② お久しぶりです。まさか手紙が送られてくるとは、さすがに驚きました。しかし同時に、あなたらしいとも思いました。 手紙を拝見しました。私のせいで苦しませてしまったようで、すみませんでした。その苦しみを終わらせることが出来るのであれば……

ひとはけの白い雲

灼熱の太陽はどこを照らしに行ったのか。 一息ついたような、さっとひとはけの白い雲。 女は旅に出ようとしている。 一生懸命働いた、自分へのご褒美としての、豪華な船旅。 そうだわ、あの洋服屋さん、私が欲しかった服を探してくれたかしら。 お嬢さん、これで如何でしょう? 違うわ!  私が…

『楽離』

「ママ、はぁ、、はぁ、マ…苦しいよぉ」 うまく声も出ない。もう嫌だ。苦しいの嫌だ。 産まれてから、ずっと僕は病院のベッドの上だ。 管に繋がれ、痛い思いをしても何も変わらない。 もう、終わりにしてよ、ママ。目で訴える。 ママは泣きながら、震える手で管を外そうと…、 「何やってるんだ…

365日のみじかいおはなし(294日目)

事務作業が苦手です。 「ぼく、事務処理はマジ苦手なんですよ」 ヘラヘラ笑いながら言う林に、大森は内心イラっとしてた。 「企画を考えるのとかは集中できるんすけどねー」 林のアピールは止まらない。 大森は心の中で毒づいた。 なんなんだよ、その事務作業苦手アピール。 「僕はクリエティブ…

好きなものがだんだんと好きじゃなくなってく

大学3年生の春頃、先生たちが「就職活動」と言う言葉を妙に日常会話や授業の中で使うようになって、私たち生徒に意識させるように促し始めた。 かと言って私の所属する学部は「デザイン学部」であったため、わたしを含め生徒たちはある程度「やりたいこと」や「なりたいもの」が明確であった。 そのた…

手袋

夏の午後七時です。まだうっすらと明るい、どこにでもあるような、バス停とロータリーがある、とあるまちの駅です。その駅のバス停で、スーツ姿の、お腹のでていないおじさんが、バス停のベンチに座り、バスをまっていました。 おじさんが足元にふと、目をやりますと、子供の手袋くらいの大きさの赤い…

禁域

あそこには行ってはいけないとされていた というより、そもそも行くところではないと 外には危険が溢れているから 外の世界には謎の光線が満ちていた 誰が何のために、いつからそれが行われているかもわからなかった 絶え間なく続く攻撃、それを防ぐバリア網、バリア内での生活 生まれてから死ぬまで…

平穏じゃない

平穏じゃない毎日。 心拍数は早く、その速さが僕のこの生活がまったくもって平穏じゃないことを証明している。 あいつも、あいつもみんな敵。 ある日、学校中のやつらがみな敵になってしまった。 僕は戦うしかなくなった。 戦うそぶりなんて見せたらどんな手を打たれるかわからないので、僕はこう…

お迎え【ショートショート】

準備は整った いよいよ明日は推しのライブだ ワクワクが止まらない コロナに振り回されてライブは延期になり、明日やっと開催 おっと、夜更かしは良くないな 今日はもう寝るとしますか 逸る気持ちを抑え私は眠りについた 「お姉ちゃん、起きて、お姉ちゃん」 ん? 「お姉ちゃん?」私はなか…