ことぶき寿

ことぶきひさし https://twitter.com/kotobukihisa_C

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短編小説 「トーキョーマン・イン・大阪」

大阪に転勤することになった。 正直言って不安だ。 大阪の人たちはみんな東京の人間を毛嫌いしているらしい、と話に聞いていたからだ。 僕はサービスエンジニアなので、お客さんと話をしなければならない。 となると口を利いた途端に出自がバレる。 かと言って、無理に大阪弁を真似て話そうものなら却って顰蹙を買うことになるだろうし…。 困り果てた僕は別の課にいる大阪出身の先輩を昼食に誘い、助言を仰ぐことにした。 「この食堂来るん、久々やなあ」 「僕もです。ところで先輩…」 「なんや?」 「

    • ショートショート 「私はニホンジンノオトコ」

      日本人の男は外国人女性に全然モテない。 そんな話を一度や二度は聞いたことがあるんじゃないだろうか。 でもそれって本当の話なの? そう訝しがる御仁に真相を教えて差し上げよう。 その話は、100%本当だ。 間違いない。 どうしてそう言い切れるのかって? 身をもって思い知ったからだ。 私はいまパブにいて、大勢の様々なバックグラウンドを持つ外国人女性に囲まれ、もとい取り囲まれているのだが、彼女たち曰く…。 「ニホンジンノオトコハ、ゲンキガナイヨ」 「イロケモナイヨ」 「オトコラシク

      • ショートショート 「水曜日の日記」

        2024年6月19日(水)曇りのち晴れ 7:00 魚を食べた魚を食べた 7:30 絵を描いている人の絵を描いた 8:00 絵を描いている人の絵を描いている人の絵を描いた 8:30 絵に描いた餅の絵を描いた 9:00 絵に描いた餅の絵を餅に描いた 9:30 犬に噛まれた犬に噛まれた 10:00 犬を噛んだ犬を噛んだ 10:30 犬に噛まれた犬に噛まれた人に噛まれた 11:00 蔦に絡まった蔦に絡まった 11:30 蔦に巻きついた蔦に巻きついた 12:00

        • ショートショート 「小噺をひとつ書き上げた」

          小噺をひとつ書き上げた。 ペンを置き、両腕をYの字に広げて伸びをし、それからメビウスに火をつけた。 煙を口に含む。 輪っかを作って浮かべる。 なかなかの出来栄えだ。 私は満足感を得た。 しかしそう長くは浸れなかった。 ふいに首筋に走った鋭い痛みに水を差されたのだ。 「俺だよ」 背後から男の声がした。 声の主は、目と鼻の先ならぬ、後頭部の先にいるようだった。 それにしてもひどくしゃがれた特徴的な声だった。 聞き覚えがあるような、いや、思い過ごしか…。 「誰だ?」 「だ・か

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        短編小説 「トーキョーマン・イン・大阪」

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        • 短編小説 「Peace」 全4話
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          エッセイ 「サッカーのフォーメーション徹底解説 〜 基本形と2024年現在のトレンド」

          《はじめに》 おととい6月11日、サッカー日本代表はシリア代表と試合を行い、5-0で勝利しました。 森保監督は前半は3バック、後半は4バックとフォーメーションを使い分けてこの試合に臨みました。 すでに2次予選を首位で突破することが決まっていたので、今後を見据えて、戦い方に幅を持たせるために、違うフォーメーションを試したのでしょう。 念のために説明しておきますと、フォーメーションとは選手の配置隊形のことで、謂わばシステム(選手が動く際の仕組み)を機能させるための型です。 フォ

          エッセイ 「サッカーのフォーメーション徹底解説 〜 基本形と2024年現在のトレンド」

          ショートショート 「ポテトサラダが不味いわけ」

          あかさたな食品工業は惣菜と弁当を製造する食品加工会社だ。 彼らはいまスーパーマーケットのバイヤーを工場に招いている。 「本日はお忙しいところご足労いただきましてありがとうございます。あかさたな食品工業製造営業部製品企画開発課係長補佐兼第一工場三班班長補佐の鈴木です」 「は。スーパーわをん商品部部長の佐藤です…」 「ではさっそく工場を案内いたします」 「よろしくお願いします」 佐藤は更衣室で作業着に着替え、帽子とマスクと長靴を着用した。 鈴木に案内されて工場に入る。 「佐

          ショートショート 「ポテトサラダが不味いわけ」

          ショートショート 「お役ごめん」

          環境保護団体「地球堂」はその年の5月に結成された。 彼らは地球温暖化を防止するためにむろん善意で活動していたのだが、大多数の国民から反感を買っていた。 彼らの主張が科学的に妥当であるかどうかはさて置き、活動内容があまりに反社会的だったからだ。 以下に団体のメンバーが起こした迷惑行為の例を幾つか挙げる。 5月。 美術館に潜入してトマトスープ缶の中身を絵画に投げ付け、そのあと自らの手を接着剤で壁に貼り付けた。 6月。 自動車工場の壁にペンキをぶちまけた。 ミュージカルが上演さ

          ショートショート 「お役ごめん」

          ショートショート 「通訳たち」

          「ぐりぐりーズ」は5年前に創立されたプロバスケットボールチームチームだ。 彼らは現チームの前身であるタマ金属工業バスケットボール部時代から一貫して「国際色豊かなチームづくり」をコンセプトに掲げている。 なので、選手だけではなくスタッフにも積極的に外国人を採用していた。 監督は鈴木太郎氏、48歳。 彼はオーナーから全幅の信頼を寄せられており、戦術や選手の起用法についてはもちろん、選手獲得に関する権限も与えられていた。 そんなある日、鈴木氏にチームのスカウト担当者から電話が入った

          ショートショート 「通訳たち」

          ショートショート 「GAME OVER」

          病室。 男がベッドに横たわっている。 心電図モニターの波形の振れ幅が徐々に小さくなり、やがて直線になった。 「ゴリンジュウデス…」と医師。 泣き崩れる妻。 ハンカチを差し出す女性看護師。 暗転。 そして文字と数字が浮かび上がる。 GAME OVER PLAYER1 キョウネン73サイ SCORE 4,850 / 10,000 決していい記録とは言えなかった。 でも精一杯頑張った。 大きな夢を叶えることは出来なかったが、それはまあ仕方のないことだった。 他に色々とやらなけれ

          ショートショート 「GAME OVER」

          ショートショート 「お礼参り」

          「カ、カ、カ….」 「ん…?」 「カカカカカカカ…」 「…」 「カメぇぇぇぇーっ! カメカメっ、カメぇぇぇええええ〜っ!」 妻の雄叫びで目が覚めた。 「あなた! カメが、カメが…」 「なんだよ、まったく。休みの日ぐらいゆっくり寝させてくれよぉ…」 「寝てる場合じゃないの! 起きて! 今すぐ起きて!」 「ちっ…」 体を起こして目を開けると、妻はカーテンを指差していた。 「ほら、あれ。カメ…」 「おい」 「なによ…」 「あれはな、カーテンつうんだ。カメってのは爬虫綱カメ目

          ショートショート 「お礼参り」

          短編小説 「たまたまつんだくどく」

          死んだ。 そして地獄に堕ちた。 先月のことだ。 ここへ来てからというもの、俺は毎日毎日虎柄のパンツを履いた鬼どもにイジメられている。 針の山を登らされたり、煮えたぎる湯の中に突き落とされたり、もう苦しいのなんのって、言葉ではとても言い表すことが出来ないほどツラい思いをしているのだ。 出来ることなら絶望してしまいたいものだが、ここではそれも叶わない。 たしかに生前の俺は救いようのないロクデナシだった。 人様のためになるようなことは何ひとつしなかったし、迷惑を掛けてばかりいた。

          短編小説 「たまたまつんだくどく」

          ショートショート 「自動湯沸かし器」

          一週間にわたって行われた工事がようやく終わり、ボクたち家族は念願の自動湯沸かし器を手に入れた。 機器はかなりデカくて、高さは約4メートル、面積は4坪ほどあった。 見た目は、まんまプレハブだ。 家の裏の敷地にドンと建っている。 窓にはカーテンが掛かっていて中の様子は見えない。 まあどんな仕組みであろうが、自動でお湯が沸けばそれでいいのだ。 ボクは嬉しくて仕方がなかった。 自動湯沸かし器のおかげで薪を割る必要がなくなったから、今後は空いた時間を使って別のことが出来る。 さて何をし

          ショートショート 「自動湯沸かし器」

          ショートショート 「真実味」

          「ミス日本コンテスト」の開催がひと月後に迫ったある日のこと、都内某所で反対派による抗議デモが行われた。 「ルッキズム反対!」 「はんた〜い!」 「外見至上主義者は死ね!」 「しね〜!」 マスコミは押し並べて賛成派よりも反対派の取材に力を入れていた。 理由は至極単純で、反対派の活動を取り上げた記事の方が多く読まれるからだ。 しかし今回に限ってはもうひとつ別の理由があった。 なんと昨年度のミス日本グランプリ受賞者が、反対派の先鋒に立って活動をしているのだ。 まるで落語のような

          ショートショート 「真実味」

          ショートショート 「人魚の肉」

          ここは南の島。 ある晴れた日の昼下がり、王様が家来を引き連れて砂浜を散歩していた。 「なあ家来よ」 「はい。王様」 「お前八百比丘尼って知ってるか?」 「ヤオビクニ…? いいえ、存じません」 「昨日ネットで知ったんだけどさ、その人って千年の寿命を得たらしいんだよ」 「ほぉーお。またどうやって?」 「人魚の肉を食ったらしいんだ」 「へー」 「とって来て」 「ン…?」 「とって来て」 「…なにをですか?」 「人魚」 「Pardon?」 「人魚だよ」 「ニンギョ…」 「うん。人魚

          ショートショート 「人魚の肉」

          ショートショート 「間違いがふたつあんだよな...」

          必死の抵抗虚しく先の尖った棒状の金属を脳天にブっ刺された。 金属はアルファベットの「J」の形に彎曲しており、胴体を貫いて腹から「ぶしゃあっ!」と音を立てて飛び出した。 ところがどっこい、それでも俺は生きていた。 とは言え、致命傷を負ったことは明らかで…。 ドボン。 ぶくぶく...。o○ どうやら海に落とされたようだ。 魚が寄って来て、魚の言葉で言った。 「うまそーだな。…いや、待てよ。食っちゃダメだ。こいつは人間が仕掛けたワナだよ。パクッと行ったが最後、口元に針が掛かっ

          ショートショート 「間違いがふたつあんだよな...」

          ショートショート 「変人隔離法」

          世の中には一定数の変人が存在する。 尤もこれは仕方のないことだし、奴らの存在自体を否定するつもりは毛頭ない。 でも迷惑を被るのはやっぱりゴメンだ。 ボクの名前は鈴木太郎。 どこにでもいるようなごくフツーの中学2年生だ。 ボクはこれまで幾度となく変人どもから嫌がらせを受けており、その都度勇気を出して奴らの行動を咎めたり、根気強く奴らを諭したりして来た。 でも何ともならなかった。 変人どもはボクの言うことをちっとも理解してくれなかったし、ボクも奴らの話を理解することが出来なかった

          ショートショート 「変人隔離法」