【超短小説】年雄と色あせたトレーナー

年雄はお気に入りのトレーナーを捨てる事にした。

3年・・・いや、4年は着たか。

買った時は真っ黒だったが、すっかり色あせてグレーに見える。

毎年2回。

春から夏まで、秋から冬まで。

着れば着るほど体に馴染む感じ。

お気に入りのトレーナー。

捨てようと思ったのには、きっかけがある。

色あせたトレーナー。

家で着る分には問題ない。

それが、"コンビニくらいならいいか"になり、"近所

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【母の日2021】

 兄——光陽の癇癪は、今に始まったことではない。
 部屋の扉がひどく打ち鳴らされて、今日も機嫌が悪いのだと知る。

 今日は、母の日だ。
 母の日はいつも、光陽の機嫌が悪くなった。
 今年も母は、光条さんの手伝いで家にいない。帰宅は月曜日。いつものことだ。

「朔」

 父の声がする。
 私はリビングに顔を出し、テーブルの椅子を引く。

「二人で、花屋に行ってくるといい」
「でも、母さんは今日帰っ

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貴方にも素敵なことがありますように。
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是非また見に来てください!

F/G

何だろうな、なんか、違ったんですよ、それだけ。
やっぱりその人は啜ってたんですけど、写真の中に斜線が入ってるみたいな。
いや、実際に入ってるわけじゃなくて、そう感じたってだけなんだけどね。
それ以外はやっぱり変わんなくて、その、黒い人が切ってったんだけど、やっぱりおかしいなって僕たちは言ってたんですね。
でもお坊さんはちょっと違うみたいで、急に「これ、何処で拾ったって言ってました?」って真面目な顔

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匿名のミュージシャン 【合法短編小説】

 夕方頃、大きな駅から程近い場所で男は歌っていた。その男は、ここ数年その場所で、ずっと路上ライブをしているのだ。ギターをかき鳴らし、自分の音楽を信じ歌っている。
 だが、男の歌に耳を傾け、立ち止まってくれる人はなかなかいない。スーツを着た人たちは、馬鹿に夢を追っている若者だという目でこちらを見ながら、足早に前を通り過ぎていく。

 その日も、男は歌っていたが、足を止めてくれる人はいなかった。冷たい

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短編小説x写真【ブラックホールにも春が来る】渋谷のものがたり 6/6(最終回)



「児童相談所に来る親って高圧的な人が多くて、女性職員は怖い思いをしてるの。カナミちゃんみたいに強い人が居たら心強いから」
「……………」
「それに、今の仕事はやり甲斐が無いって言ってたでしょ?」
「え…、ああ……」
「キツイけど、児相はやり甲斐すっごくあるよ。社会に貢献できる素晴らしい仕事だし」

社会に貢献―、その言葉が胸に残る。

「実際に相談員になるためには、公務員試験を受けないといけな

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愛を感じます。ありがとうございます!
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「椎名ちゃんはボクのもの」などと■■は供述しており、(1029字)

 質問? 何でも答えますよ。「答えたくない質問」なんてありません。だって、椎名ちゃんに関することでしょう? 椎名ちゃんのことならボク、何でも答えます。

 誘拐? 動機? 失礼ですね。ボクは、椎名ちゃんが好きなんですよ? 「好きな人と過ごしたい」って普通のことですよね? 誰にでもある欲求じゃないですか。そんなに騒ぎ立てることなんですか?

「なぜ、椎名ちゃんを殺さなかったのか?」どうして殺すこと

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あなたの今日が、良いものになりますように。

溶け出す頃が美味しい

あいつは暑さにも寒さにもめっぽう弱い。

にもかかわらず、あいつは自分の体調管理が出来ないやつだった。

俺は暑すぎる我が家に閉じこもっていることに耐えかねて、ジーンズにシャツというかなりラフな格好で外を歩いていた。

風が吹くが生ぬるくてやっていられない。

暑さから逃げたというのに、歩くだけで体中から汗がにじみ出てくる。

それでも風が吹くだけ我が家よりはマシと思い込んで、近くの公園のベンチで

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体力維持のために、寝る前スクワットをしています!
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翌日の夢。

「百足に毒があるってことは、百足を包丁で離乳食みたいにして、楽しく飲めば毒状態になるってこと?」
「そうだよとは言わないけど、なんとなくそんな気もするよ」
「なら私は旅に出ようって、そう思っておくよ」

 三日月の色をした、あの人の眼球は、それを見つけてしまった彼女の思考をけたたましく包む。それはいわゆる支配というやつで、どうしても逃れられないことを、血管の中に流れる血液のような日常の中で静かに悟

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