母の様子がおかしくなってどれくらい経つだろう。長い間働くこともままならず、最近では人に会うのも億劫なようで、もっぱらダンゴムシのように身体を丸め、壁にピタリと耳をつけて、息をひそめていることが多くなった。
 予兆は確かにあった。陽気な性格だったのに、ある時から感情をあらわにすることが極端に少なくなってきて、それは間違いなく父が原因なのだけど、それでも父が生きていた頃は、今よりもずっとましだった。

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ありがとうございます!
3

「蛾」

譜面立てに、美しい蛾が一匹、羽根を広げてとまっていた。「私を弾いてごらん」そう言われた気がして、ぼくはピアノの前に座り指を構えた。一方お母さんは殺虫剤を構えていた。

ありがとうございます。とても励みになります。
23

間が悪い

若者がいるのが見えるだろうか?さわやかな笑顔、きびきびした立ち居振る舞い、見るからに誠実そうな彼が今回の語り手だ。今、まさに語り出そうとしている。さあ、彼が語るのに耳を傾けようじゃないか。
 彼が口を開き、最初の一語を発声しようとした瞬間、彼の弟がやって来た。
「兄さん!」
 間が悪い。
 彼の弟の手には教科書が握られている。数学の教科書だ。
「この問題、どうやるのか教えてよ」
 彼の

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星の妖精の贈りもの

今日もまた夜がやってきた。
空気が澄み渡り、雲ひとつない穏やかな夜空の下には街の灯りが煌々と輝いている。
街行く人々は寒空の下、白い息を吐きながら足早に歩いていく。
街の灯りに隠れている星たちは普段、姿を表すことはないが、その奥にはキラキラと星たちが囁き合っている。

星の妖精エトワル。
エトワルは女の子。場所で言うと、フランス、パリの上空で誕生した。キラキラと一際煌く星から生まれ、フランス語で

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ありがとうございます😊
2

はじめまして。

MARINAと申します。

カラフルな時間をテーマに、日常がほっとするような、日々に彩りを添えていただけるような絵と物語を投稿していきたいと思っています。よろしくお願いします。

ありがとうございます😊
6

透明人間の死

透明人間は人々に認知されない存在。
 もう嫌だ。
 もう息をするのも嫌だ。
 そうだ死ねば良い。
 何もない部屋で透明人間は自身の首を絞めた。
 ……
 死んでも誰も悲しまない。
 空気と同じ見えない存在。
 誰からも認知されない孤独な世界。
 そんな世界が嫌で自ら死を選んだ透明人間。
 そして今日一人の透明人間が死んだ。

                      完

 読んでいただきありが

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スキありがとうございます。
3

エロい男は、モテる。

というわけで、エロい男がなぜモテるのかについて語ります。

エロい男が、なぜモテるかというと、ズバリ女性の本能的な部分を満たせるからです。女性はほぼ全員、むっつりスケベです。というのは、まだまだ幼い頃に学びました。スケベを表面化させることをきらいますが、根は男よりエロいです。また、皮膚感覚の違いから、女性は、男よりもセックスでより多くの快感を得られます。

エロい男は、女性が本能的に求めているもの

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もう スキって、嬉しいです。
19

自信の素

ふだんは慎み深い教授もこの時ばかりは声を上げた。

「出来た! ついに完成だ!」

 注射器を手に実験を補佐していた助手も、喜色を浮かべて教授に振り向いた。

「おめでとうございます先生!」

「ああ、ありがとう」

 教授の指に挟まれた試験管の中で、無色透明の液体がキラリと光った。

「この薬は、文字どおり我々の『自信の素』になる」

 教授は潤んだ目で遠くを見つめた。

「思え

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ほくろ

彼女には小さなころからあこがれている女優がいた。

 左手にお酒のグラスを持ちながら、ゆったりと微笑む女性。酔いがまわったようなとろりとした、男を誘うような視線を投げかけている。その右目の斜め下には小さなほくろがあって、それが女優のトレードマークだった。

 彼女は昔から、右目の斜め下にほくろがある女優のファンだった。その女優がテレビに映るたびに彼女はしていた作業をいったん中断し、画面にくぎ付けに

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閉じた世界【小説】

量太は大学での講義が終わるとまっすぐ駅に向かい帰路につく。日はすっかり暮れていて、肌寒い。1月の寒風が量太を撫でる。

 ゼミでの課題を終わらせてしまおうと、最寄り駅近くのカフェに入った。家では集中できないのだ。

 アイスコーヒーを注文して、二人掛けのテーブルのソファ側に腰かける。ノートパソコンを開き、準備をする。

 パソコンに向かい、神妙な顔をしてデータを入力していると、隣の席の男女の会話が

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