彩生透

「アヤキ/トオル」です。 フィクションをあなたに届ける ただの音楽好き(投稿は少しずつ…

彩生透

「アヤキ/トオル」です。 フィクションをあなたに届ける ただの音楽好き(投稿は少しずつ)! はじめまして__いつもありがとう。 観る:聴く:読む:紡ぐ、もっと noteで多種多様な感性に触れたい。 無色透明の僕から極彩色へ 毎回姿を変えるかも知れません。

最近の記事

((お菓子くなり想))

 5日前に見失った、あいつと不本意な同居をしていた。こう表すと誤解を招くだろう、訂正。『あいつ』とは飴玉のことである。  会社員ちなみに経理の萩谷(はぎや)が先週の買い出しでスーパーマーケットの新商品や限定品のコーナーから選んだ〈クリーミー・ステンドグラス・キャンディ〉がそれだった。  実に長たらしい名前の菓子とショッピングカートを押す人間。運命的な出会いでも何でもなく、強いて言えば萩谷はステンドグラスの線がとろけてランダムに垂れるような、パッケージのイメージ写真に心惹か

    • ドールハウスにて生まれる日

       未来行きの電車に乗り損ねて何度も〈今週〉を繰り返し、途方に暮れながら滑り込んだ頃には、当然だが、その分、歳を重ねており、どうにも間に合わない、と思った。  このように毎日は一瞬で永遠ではなく、だからこそ今後は限られた時間を大切にする。  甘すぎた生クリームが舌に絡まるなか、そう誓った。    ところが、誕生日を自分の人生における新章開始と捉えた場合ーー先月のまま捲っていない卓上カレンダーや止まってしまった電波時計、そして皆の「おめでとう」が詰まった幸福な宝石箱を失いーーたっ

      • 心を映し出す鏡とは何ぞ

         喉まで出た言葉を探している。掴み掛けたところで目が覚める、大抵はうーんとうなされ、汗をびっしょりかいて。  しかし今朝の場合は違った。  夢の途中で〈ケークギャル・けいこ〉を見つけ、意味不明な響きが頭にこびりつく。  外出先は不慣れな都会ゆえに歩みが辿々しくなる。道端に寄れば木陰が揺れ、スマートフォンの道案内はでたらめの疑い、その横を幾人もが通り過ぎた。  すると、絞れる程に濡れたシャツを着て、暑さに参った様子の男性に街頭インタビューを申し込まれる。 「少しお時間よろし

        • 1stアルバムは律の調べ

          毎日お疲れさまです。最近の僕は虫の音に癒されています。季節の移ろいを感じ、そのような中で『心のセーブポイント・すきま時間に眺められる秋』を今回のテーマにしました。 撮影した写真や、それをもとに加工で作った画像に詩のような言葉を添えて。 (この後、順次みんなのフォトギャラリーに登録いたしますので、よろしければ小説をはじめ創作、または日記等あなたのnote内でご活用下さい) ● ○ ● ○ ● ○ 以下はCanvaの素材を組み合わせたものです。 初の試みでしたが、コラージ

        ((お菓子くなり想))

        マガジン

        • CHAMELEON
          84本
        • REMEMBER
          13本
        • SURRENDER
          206本
        • DESTRUCTION
          201本

        記事

          「失いたくない」が愛を物語る(後編)

           なかなか取りに来ないので、交換日記が6ページも埋まった(個人のノートと大差ない)。  職場の休憩室にテレビがあり、例のピグミーマーモセットが無事に捕獲されたとのニュースを見る。当然ながら野生ではなく。  大勢に愛でられて、随分とポエティックな名前がついたあれと正反対な彼に、どこか通ずるところを感じ、到頭おしまいだと私は覚悟を決めた。 『すまん、またシソを摘み食いしちまった。アマナツが作るもんは全部うまい。好きだ』  昼食の梅おにぎりによってヘビイチゴの文と乱雑な字を思い出

          「失いたくない」が愛を物語る(後編)

          「失いたくない」が愛を物語る(前編)

           一目で分かった。手の平に収まるような大きさ、ふさふさと生えた毛に覆われ、つぶらで賢そうな瞳、愛くるしい口元、尾は縞模様。  いつぞやの風変わりな恋人が出し抜けに「何のセット」と訊いてきて、半ば呆れながら解説するのにわざわざネットで調べたので、間違いない。  ピグミーマーモセットだ。  余程ぬいぐるみが動き出したのかと思ったが、チチッと鳴き、走り去る。  それで、心臓が宙に浮いたような感じがして 「今の。見た?」 を私は言えずに種を飲んでしまった。  縁側にて。近所の人

          「失いたくない」が愛を物語る(前編)

          待ち合わせはポエトリィ通りで

           まずは昨日の話をする。僕は道に迷いやすいが、まさかあれ程とは思わなかった。  大学の夏季休暇、ワンルームはサウナ状態である。そこに友人が『じいちゃんが送ってくれたメロンの残り食べる?』と果汁が滴るような写真付きのメッセージを寄越せば、必然的に家を飛び出して『今から行く』だろう。    小型の扇風機を持ち、シャツにデニム、駅を通って西口、地元の住民からは〈旧町〉と呼ばれるノスタルジックな辺りを歩き、コンビニエンスストアやスーパーマーケットを通り過ぎる。  病院及び薬局の角を

          待ち合わせはポエトリィ通りで

          貝殻とラヴ・レターを流す

          常温で保存されると、この時期は大変まずい。 手作りのドレッシングを当日中に使い切ったはいいものの、 「夕飯要らないなら、最初から言ってよ」 と彼女はやけになって2人分の食事をとる。 気持ちは粉末、味覚の違い、冷凍しておきたい関係。 ところが、午後9時を回った頃に彼が(サプライズのつもりで)プレゼントを持って登場、 「あれぇ。全部、食べちゃったの?」 間の抜けた声が聞こえてきた。 「やれやれ」は上段、ドアポケットのケチャップ。「もう遅い」は下段、野菜室のレタスより。 《冷蔵庫の

          貝殻とラヴ・レターを流す

          「家に帰るまでがフェス」誰が言ったのだろう

           ライブが趣味でフェスにも行くことがある。  以前、勤務先の先輩に「ああ、夏の野外だよね」と言われて「それも合ってますけど、実は年中どこかしらで行われてるんですよ、例えば」云々をつい熱く語ってしまい、早口のMC、次第に相手が愛想笑いを浮かべ「はいはい、もう分かったから」で遇らわれ、はっと気付いた頃には冷房の真下でひとりきりだった。  学生時代は毎年グループで参加しても、就職すれば忙しく予定が調整できなかったり、私の知らぬ間に友人AとBが不仲になったりで、一定の距離を置き、そ

          「家に帰るまでがフェス」誰が言ったのだろう

          押したはずのハートが消えていた

          ここしばらく悩まされて、 ほんのり乗っ取りを疑って、 原因を探ってあの設定を切ってみる。 そうしたら皮肉にも再びミステリーが始まった 果てしなく複雑な迷路で追いかけっこ ここ以外のどこかは 「これからどうしようか」に捕まる 心の中でありがとうとつぶやいて ゆっくり返したのに わざと消した訳ではないのにどうして 僕があなたを嫌いになる訳がないでしょう だからこそなかったことにはしたくなくて 送ったつもりが傷つけたこと 本当に本当にごめんなさい。 白いトップスと淡いボトムス

          押したはずのハートが消えていた

          偽の純情を携帯する

             想いを寄せる相手の家に住むだけでなく、共に外出して「おはよう」から「お疲れ様です」まで聞き、帰宅後は幾らか構われて、決まった時間に彼女を寝かし付け、自分はいつでも傍に居る。  同棲を超えた仲、だがしかし、交際はしていない。相も変わらず、あちらにとって都合のいい男であり、恋愛対象外だった。  毎晩「おやすみなさい」に期待を懸けては裏切られ、虚しく朝を迎えていた。  切ない片想いの話、と言うより今現在、俺はほのかのスマートフォンだ。  6月、恋人と別れたばかりでどうにか喪

          偽の純情を携帯する

          涼やかな七に旅立つ

          1カメラを忘れても消えないでよメモリー . 2水槽の中に銀河があったなら . 3ぼんやりしたままグラスの底を見ていた . 4道に迷うからこそ出逢えるものね . 5 「あなた」はその時々で違う . 6冷たく刻まれた足跡を辿って . 7いつの日か『この物語はフィクション』と伝えたい、どうか安心しておくれ

          涼やかな七に旅立つ

          拝啓マエストロ【第二楽章】

           顧問の提案で早めに休憩をとり、以降は音楽室にてチューニング、合奏。意外性で場を和ませた先生は指揮台に上がって、 「県大会はみんなで決めたゴール。僕も行きたい、指揮者として。ところが、一奏者としては自問自答を繰り返す。実は。先生のくせに中途半端で、言葉が足りなくて、ごめんなさい。どうも気負い過ぎてるように感じた」 と、素直に打ち明ける。あまりにも等身大で、ぱっと全員の視線が向けられた。  しかし、あくまでも当人はいつも通り、やや乱れた髪を撫で付け、譜面台にフルスコアを広げて

          拝啓マエストロ【第二楽章】

          拝啓マエストロ【第一楽章】

          「『本来、芸術に評価をつけるべきではない』と思ってはいるんだけどね」  夏のコンクールに向けた合奏の最中、楽譜に書き込んだ何よりも印象的な、この余談が音楽に一生をかける先生の本音だった。    友人に誘われて入った部活動は、仲間が次々と辞めていき、残りの十二名が後輩を率いて中学最後の舞台に立つ。成長を見込んで先生が決めた、難度の高い曲は初めてだらけで、懸命に食らい付くも、興がさめるような。  音楽室もしくは準備室に収まり切らず、暗がりの廊下で各自、楽器を片付ける私たちに、ど

          拝啓マエストロ【第一楽章】

          ぷらねたりズム

          ベタつく包み紙、噛み砕けロリポップ、アプリコットの痕跡、座席指定とソファミレドシラソ、想、嘘っぱちなチョコレートにミントを、「みんなが言ってる」の『みんな』とは、とか、「少女少女ってイツからいつまで?」が君の疑問、文字にしたら線をはみ出した気がした、詩、鼻にこびりつき離れない話を無しにする、イルカのポルカ、またか、周りを回って失くす点と天、遣らずの星に止められて後付けの意味を欲しがる、気付けば記憶は記録、6時間睡眠の六弦、ご機嫌如何、何処に居ても輝いて見えたんだ、ヒトリひと

          ぷらねたりズム

          突き当たりに現の栞

           確かに昼間「大それた夢を見るのはやめなさい」と述べたが、今はそれを悔やんでいる。  学校の授業で習った物語について「作者が伝えたいこととは」だとか、果ては「この登場人物のようにならないためには」などを各々が真剣に考え、話し合った。  沼元(ヌモト、以下ヌモと呼ぶ)は『主人公と自分を重ねてしまい、予習の段階で涙が止まらなかった』に消しゴムをかける。教室に集まった同級生の誰もそうは思わないらしい、かと言って異を唱える気力もなく。  そして夜半過ぎの住宅に舞台は移り、突如、何者

          突き当たりに現の栞