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SURRENDER

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【後半】 本編を最初から読む場合はこちら! 貴方の痛みに寄り添う音楽と共に届ける物語 (既に完結済みのものを公開していくので更新頻度は非常に高め) 誰も独りぼっちにしたりしない… もっと読む
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「繋がり疑惑?で炎上した私」のその後を描く小説

「繋がり疑惑?で炎上した私」のその後を描く小説

バンドマンの好きな人ができた
遠くて近い距離にいる、私が欲しいものを何もかも持つ存在

そのくせ甘ったれで最初は無性にイライラさせられたけど、積極的に少しずつ前へと進んでいって、いつしか掛け替えのない、生まれて初めて心の底から向き合いたいと思えるような彼に変わる

そんな王子様に選ばれて幸せ、めでたしめでたし

…で、終わらなかった
魔法は解けて、化けの皮が剥がれ、ネット上が大騒ぎになる

裏切ら

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KILLING ME SOFTLY【小説】01_ムーンライト前説

KILLING ME SOFTLY【小説】01_ムーンライト前説

目が覚めると、見知らぬ天井に無機質な部屋が私を迎え、やや重たい布団へ包まれ、隣には広瀬千暁(ひろせちあき)が眠っていた。
これも夢の続きだろうか。
「アキくん?」
名前を呼ぶが一向に起きる気配はない彼の寝顔を眺めれば普段は前髪で隠された額にほくろを見つけ、和む。少し汗を掻いている。

まだあどけなさが残る千暁の私に対する恋心はそれこそ出会った日に悟り、他人から寄せられた好意を理解出来ない程に鈍感な

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KILLING ME SOFTLY【小説】02_君の街まで飛ぶ

KILLING ME SOFTLY【小説】02_君の街まで飛ぶ

駅に程近いビジネスホテルにて。
持ち込んだ酒を飲みつつ、ゆっくりと語らうつもりが思いの外、早めに潰れて寝た千暁をベッドへと引き摺る羽目になった私は昨日この街に逃げてきた。

勿論まだ大学生の彼を頼る訳ではなく、無我夢中で目に付くもの全てを掻き寄せスーツケースに詰め、そのまま何度もよろけながら東京駅へと辿り着いて新幹線に飛び乗ったのだ。
現在は2019年11月下旬。
長期に渡る夏と台風が過ぎ去り、ま

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KILLING ME SOFTLY【小説】03_ファミリヰ ネヱム

KILLING ME SOFTLY【小説】03_ファミリヰ ネヱム

私は父親の顔を知らない。とはいえ、生まれつきのはっきりした目鼻立ちに色素の薄い肌と髪から初対面では必ずハーフか問われる。
その都度、何とか誤魔化してきたが実際のところ父の出身地はおろか生死不明だ。

申し遅れた。
私の名は深澤莉里(ふかさわりり)という。

「ねえ、どうして私にはパパがいないの?」
ふと尋ねれば、すぐさま母親が悲しみに満ちた表情を浮かべる。成長するにつれて、もしや既に亡くなっている

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KILLING ME SOFTLY【小説】04_天使なのに死神

KILLING ME SOFTLY【小説】04_天使なのに死神

中学時代、何者かによってクラスメイトの財布が盗まれるという事件が起こり、この犯人に仕立て上げられた。無罪を主張したが日頃から嘘吐きで有名な私を当然、誰も信じてはくれない。
まるで寓話の代表的な少年の如く自らの行いで信用を失った者に対し、騒動を境に壮絶ないじめが始まる。

まあ身から出た錆だが共通の敵を作ると人は面白い程に団結する。当時私が在籍していた学級は、皮肉なことにその年の体育祭に留まらず合唱

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KILLING ME SOFTLY【小説】05_ミルキーボーイ

KILLING ME SOFTLY【小説】05_ミルキーボーイ

「うーん……今、何時……ひゃあ!えっ、莉里さん!?」
過去を振り返りつつ漠然とスマートフォンの画面に触れメッセージアプリを開けば、背後から素っ頓狂な声が聞こえる。
「ちょい待って、ごめんね。」
千暁がやっと目覚めたようだが、私が反応を示す前に再び布団へと潜った。

状況が把握出来ずに慌て
「うわ、マジか。どうしよ。」
などと呟き一向に姿を現さない彼を見ているとつい悪戯心が湧いて、わざと近寄りベッド

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KILLING ME SOFTLY【小説】06_参加賞をくれよ

KILLING ME SOFTLY【小説】06_参加賞をくれよ

夏輝の暴露ライブ配信を経て、およそ数万人のフォロワーを抱えるインフルエンサー・凛々香としての写真共有SNSには夥しい誹謗中傷コメントが並んだ。

身分を明らかにせず鍵を掛け非公開に定め、個人的に楽しんでいたつぶやきアプリのアカウント〈LR〉と凛々香を結び付けるたった1足のスニーカーや、お相手とされたスガくんこと菅原(すがわら)さんがフロントマンを務めるバンドのライブへ行ったという投稿のスクリーンシ

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KILLING ME SOFTLY【小説】07_「」に嫌われている。

KILLING ME SOFTLY【小説】07_「」に嫌われている。

やがて、客としてではなくスマートフォン片手にニヤニヤ笑いを浮かべ、渦中の私を見に来ただけの暇人が続々と現れ、
「迷惑にしかならないので辞めます。」
と告げ、アルバイト先の輸入雑貨店を退職する。ここからクリスマスに年末年始と繁忙期を迎えるも、私が勤めたまま殺到するあれこれの対応に追われるより〈ずっとマシ〉だ。

流石にこの事態へ巻き込まれば、急きょ身を退く決断をしても特に責められはしなかったが、私の

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KILLING ME SOFTLY【小説】08_僕の世界は救われた

KILLING ME SOFTLY【小説】08_僕の世界は救われた

朦朧とした頭と焦点が定まらない目で包丁を握り、深呼吸の後に覚悟を決め唾を飲む。
冷ややかな先端が私の喉元へ触れ、あと少しで刺さるという場面に突然、脳裏に浮かんだのは例え振り切ろうが、世界中どこまでも私を捜し回って必ず見つける千暁の存在。

ハッと我に返る。
危うくとんでもないことを仕出かすところだったと腰が抜けた。
現代社会は残念ながら弱いままでは生きられず〈辛いならやめて逃げればいいのに〉といか

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KILLING ME SOFTLY【小説】09_Iネ・CRYネ

KILLING ME SOFTLY【小説】09_Iネ・CRYネ

「ああ、目覚めたら莉里さんがいるの、すげー。てか俺ね、付き合う前から何回も夢の中で会ってんだけど今はちゃんと現実だし、腕枕とかやべえ幸せ!しかも、めちゃくちゃかわいいわ!」
身を預けたまま押し黙る私の不安を察したのか、急に千暁が努めて明るく振る舞う。

「莉里さん、お腹空いてない?昨日コンビニでいっぱい買ったヤツの残り、食べよっか。確かまだ冷蔵庫にプリンもある筈……、」
「それは、酔っ払ったアキく

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KILLING ME SOFTLY【小説】10_最果て会いに

KILLING ME SOFTLY【小説】10_最果て会いに

時間の許す限り彼に甘え、ビジネスホテルのチェックアウト後は駅周辺にてブランチを楽しみ(待たされる店は嫌だとか、服に臭いの付く食べ物も云々、ワガママを言ったが千暁は慣れており、快く聞き入れる)、さて次は何を、というところであちらが切り出した。

「ごめん。俺、一晩中、通知オフでスルーしてたんだけど実は母さんからしょっちゅう連絡来ててさ。電話かけても平気?」
「勿論。」

酔い潰れてコンタクトレンズを

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KILLING ME SOFTLY【小説】11_?愛・思想・時間・体?

KILLING ME SOFTLY【小説】11_?愛・思想・時間・体?

「マジで?ありがと。なんか、ややこしいことに巻き込んじゃってごめんね。」
千暁は素直に愛を伝えるのみか、頻繁に感謝や謝罪の気持ちをも口にする。
要はあまのじゃくな私と正反対だ。
「それ私の台詞。こっちが勝手に押し掛けたんじゃん。」

「そんな、俺は莉里さんが会いに来てくれてホンッッット嬉しいよ?大好きな、自慢の彼女だって紹介します。」
平然と言い放たれて返答に詰まる。
最悪の事態には至らずに済んだ

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KILLING ME SOFTLY【小説】12_人生、欲張らなきゃ

KILLING ME SOFTLY【小説】12_人生、欲張らなきゃ

新幹線で数回に渡り訪れた経験はあるが、私にとってまだ馴染めない街という訳で、千暁の実家へ向かうまで暇潰しに付近を散策することになった。地方都市としてはそれなりに栄えている。

土産物屋や飲食店が立ち並ぶ通りを抜けると、彼が努めて自然に呟く。
「莉里さん、昔付き合ってたヤツの親に一度でも会ったりした?」
「ううん。アキくんが初めてだよ。」
恐らくコンプレックスと思われるも、千暁は何かにつけ過去の恋人

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KILLING ME SOFTLY【小説】13_失敗作彼女

KILLING ME SOFTLY【小説】13_失敗作彼女

よく考えてみれば、この幸せは千暁や仲間達が齎らしたものであり、彼らの優しさによって成り立つたったこれだけの世界が現実ではない、ということを恋に溺れる私はすっかり忘れていたのだ。
それを裏付けるかの如く、時間の経過に伴い人が疎らな平日にも拘らず、周囲の視線を気にするようになった。

ベビーカーを押す母親、セーラー服の学生、足早なサラリーマン、すれ違う誰しもが私の存在を、インターネット上で騒がれた〈ス

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