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DESTRUCTION

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【前半】 序章を読む場合はこちら! 全ての音楽が好きな人たちへ贈る物語 (既に完結済みのものを公開していくので更新頻度は非常に高め) 巡り合うことによって良い刺激になり影響を与… もっと読む
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固定された記事
音楽に救われたのに音楽を救えない僕が綴る小説

音楽に救われたのに音楽を救えない僕が綴る小説

もう2年以上完全には戻らないシーンがある

大好きだったあの自由なようで守られた遊び場はなくなって、バンドのメンバーも次々と抜けていく寂しさ

消えかけた記憶と残る映像でいつの日か昔のライブや青春時代を語る人間になるくらいならいっそのこと僕が全部書いてやろう、との思いも交え2021年に4ヶ月かけて考えたストーリーです
(ちなみに創作は初の経験、お手柔らかに)

このインターネット社会において公開す

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】01_ギター少年の憂鬱

キリング・ミー・ソフトリー【小説】01_ギター少年の憂鬱

あなたに殺されてもいいなどとうそぶく詩は理解できないけれど、あなたになら騙されても構わないと心から思う。
あの頃の自分にはそんな感情の欠片すら見当たらなかった。

朝から使い古されたフレーズをこれでもかと詰め込んだラブソングがリビングで流れている。
テレビに映るは最新のヒットチャート、よくまあ恥ずかしげもなく大声で愛を叫ぶ。
食パンを齧りながら溜息を吐くと、
「千暁はこういうの聞かないわよね。」

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】02_Two Little  "Friends"

キリング・ミー・ソフトリー【小説】02_Two Little "Friends"

4月から通う大学では、経済やら経営だとかそういった〈就職に有利っぽい〉学部を選ぶ。
別段やりたいこともなく就職予定だったが、両親からお兄ちゃんのように関東の大学へ行かなくても視野が広がるともっともな台詞を並べて説得された(そんな本人達は在学中に結婚している。はっきり言って、できちゃった結婚)。
昔はギタリストになりたいと宣っていたが、成長と共に夢を失う。

さておき、ひとりの変わり者が高校はおろか

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】 03_あの娘は「」が好き

キリング・ミー・ソフトリー【小説】 03_あの娘は「」が好き

毎朝、鏡を見ても変わらない。
母親譲りの一重に、父親譲りの垂れ目を覆う黒縁眼鏡、癖っ毛。
他には特徴がなく、我ながら本当に退屈且つ平均的な男子高校生だと思う。
どうしても知成と比べられがちな為、いつしかどこぞのバンドマンよろしく長い前髪で顔を隠す術を覚えた。

生まれてこのかた恋とは無縁。
しかし、ひとたびライブハウスへ遊びに行けば異性の友人もいる。
電車で約1時間離れた会場の前、近隣に住む同い年

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】04_幻のチケット

キリング・ミー・ソフトリー【小説】04_幻のチケット

彼らは春に解散するロックバンド。
インディーズ界隈ではそこそこの知名度を誇るも、ヒットソングを産まずに去っていく。
メンバーが兄の通っていた高校出身という縁もあり自分は幸運なことに、ほぼ結成時からライブを観てきた。

最後に各都道府県を周る中で、〈原点の地〉のみキャパシティ200名にも満たないライブハウスで行われる。
メンバーがチビ、と可愛がった子供が未だにファンだとは思うまい。
何としてでも感謝

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】 05_僕をライブに連れてって

キリング・ミー・ソフトリー【小説】 05_僕をライブに連れてって

2月末。
せっかくの凱旋公演だというのに、無情にも小雨が降っていた。
がら空きの電車に乗り混み外を眺め、だらりとドアにもたれ掛かる。
落ち着いて座る気分にもなれなかった。
ロクに休む間もなくあっという間に目的地へ到着してしまい、たった一つしかない改札口には一足早く辿り着いたLRさんが待っている。

『去年のツアーで売ってたキャップ被ってて、白いパーカーの上に、××のコーチジャケット着て、ケミカルウ

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】06_さよなら歌声

キリング・ミー・ソフトリー【小説】06_さよなら歌声

整理番号の遅いリリさんをフロア内で捕まえる。
ビール片手に一生懸命話しかけてきたが、場内の騒めきやらで掻き消され、聞き返すと耳元で囁く。
「最前とステージ近すぎない?」
大変、心臓に悪い人との距離感。

「うーん。俺はここらへんのライブハウスしか知らないけど、どこも狭くて小さいし、こんなもんだよ。」
ドギマギしながら出来る限り彼女に顔を近付けると香水・柔軟剤・シャンプー、いずれにせよ素晴らしい〈女

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】07_友にしてくれ

キリング・ミー・ソフトリー【小説】07_友にしてくれ

終演後、余韻に浸る間もなく熱気溢れた会場から冷え切った外へ。
汗でびしょ濡れのTシャツを風に煽られ、無理やり上着を羽織って寒さに震えつつ駅を目指す。
一晩の夢が覚める、解釈次第ではこれもライブの醍醐味。

「リリさん、そういえば帰りどうすんの?」
「東京まで戻れる訳なくない?泊まりがけ。朝、鈍行乗り継いで旅しちゃうんだ。遅番だもん。」
「夜行バスならもしや、って思って……は、明日、仕事?すげえ!」

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】08_男子たちに明日はない?

キリング・ミー・ソフトリー【小説】08_男子たちに明日はない?

〈東京に住む歳上のお姉さん〉を好きになったとて、何をどうするんだ。
イケメンでもなくアルバイトもしておらず大学進学後も田舎の実家暮らし、幸いそろそろ運転免許を取得予定、将来性はある、まず太刀打ち出来やしない。
彼女には高身長の男前が釣り合う。
だから咄嗟に保険をかけ、友人になろうと誘った。傷付くのを恐れ考えるのを止め、せめて仕事を探す。

急にやる気を出し情報誌を広げ、家事を手伝い、知成の指導のも

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】09_その向こうに

キリング・ミー・ソフトリー【小説】09_その向こうに

海沿いの街にも春が訪れた。
運転免許を手に入れるという大きな目標を乗り越え、高校卒業と共に短期のアルバイトを見つけ、これでいくらか大人に近付いたと自信を持つ。
『あっくん、ちょっといい?』
同じ屋根の下にいる父がメッセージアプリを使う。どれ程、声をかけようと音楽に没頭するかギターの練習中なのでいつしかこんな風に呼び出される、夜の9時半過ぎ。

居間には母もおり、何やら改まった雰囲気だ。
「眞紀ちゃ

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】10_日常がラブソング

キリング・ミー・ソフトリー【小説】10_日常がラブソング

ファッション誌を開くものの、到底買える値段ではない衣類が並んでいた為、絶えずおしゃれな知成に泣きついて今日は一緒に買い物へ来た。
「ちー、どしたん。最近すごくない?」
慣れないコンタクトで現れた自分に、彼は明るい調子で問いかける。
清潔感が大事だからこういう服でいいの、量産型上等だよと全国どこにでもある店へ連れて行かれた。

当人は古着屋で服を調達しているらしいが、好きな店を紹介して貰いインターネ

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】11_助演女優賞

キリング・ミー・ソフトリー【小説】11_助演女優賞

最寄り駅から自宅へ向かう道沿いの桜が日を追う毎に咲き誇る時期。
春の訪れによって花開くのはそればかりではないのに何故、持て囃されるのだろう。
道端で健気に生きるタンポポに自分を重ね合わせ、同情しながら海岸通りを目指し走り始めた。
忙しさに怠け、忘れかけたジョギング。気温の上昇により風が心地良い。
自転車で競い合う小学生の群れに追い抜かれる。所詮、公園がゴール地点。昔懐かしさを覚えた。

雑念を振り

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】12_暖かい田舎から

キリング・ミー・ソフトリー【小説】12_暖かい田舎から

大学では新入生オリエンテーション、ガイダンス、健康診断とイベントが盛りだくさん。
相変わらず知成のおかげで友人作りには困らない。こちらがアルバイト及び自分改造計画に奮闘する中、彼はSNSを通じ、いち早く交流を深めたのだ。

そんな知成に放置され溜息を吐けば
「大人気だな。」
と聞こえ、短髪で凛々しい眉と眼差しが光る、どこかスポーツマン風の体格が良いイケメンが隣に立っていた。
「あいつと、小中高一緒

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キリング・ミー・ソフトリー【小説】13_蒼い春

キリング・ミー・ソフトリー【小説】13_蒼い春

慣れないスーツに袖を通す朝。
せっかくの機会だから兄にもメッセージアプリで共有しようと父が言い、玄関先で写真を撮られた。
息子が成長していく過程をスマートフォンのデータフォルダに収める両親の姿は幸せそのもの。
ところが、目の前に聳え立つ家のちょうどこちらを見下ろす位置にある窓を開け、誰かがコソコソ様子を窺っている。

同い年でかつて自分とも仲が良かった人物だろう。あちらは有名大学の受験に失敗し、妥

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