十五皐月

平穏な日々が好き。でもときどきビックリしたい。

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  • 【極超短編小説】鉄の塔の町

    鉄塔の立つ町。この町は『東』『西』『南』『北』の4つの町からできています。鉄塔は4つの町のちょうど真ん中に立っています。この町で暮らす人々のお話をまとめました。

  • 【短編連載】精と血

    不定期の更新となりますが、よろしければ寄ってってください。

  • 【短編小説】鉄塔の町:

    「鉄の塔の町」が舞台。記憶を失った青年を中心に物語が進んでいきます。

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改めてページのご紹介 2023.10.30

 改名って、なんか大袈裟ですけど  『さつきじゅうご』から『十五皐月』に改名しました。このほど。  「どうして改名?」ということですが、noteを始めるときに、やっつけで決めちゃったんですね。『さつきじゅうご』という名前は。  で、ちゃんと考えてみようと最近になって思い立ちまして、今回の改名に至ったわけです。  いろいろと考えました。ああでもない、こうでもないと。漢字、カタカナ、ひらがな、アルファベット、キリル文字(嘘)等々。  でもずっと使ってると愛着が湧いてまして。『さつ

    • 【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑪

       僕は目覚まし時計に腕を伸ばして、うるさい電子音をようやく止めた。  おずおずとシーツに手を滑らせて、辺りを探った。ベッドには僕一人だった。ふと安堵を感じた。夢だったのかと思った、いや思いたかった。  「おはよう」  穏やかな声は、僕を現実に引き戻した。彼女の声だった。  「いただきます。ほら、あなたも早く食べて。時間ないわよ」  テーブルの向かい側に座った彼女は、茶碗を手にとってそそくさと食べ始めた。  白米、味噌汁、焼き魚……。定番メニューだが、手間がかかっていた。僕よ

      • 【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑩

         アパートの横に車が止まった。その排気音で彼女がやって来たのが分かった。  2階の僕の部屋から下を覗いた。車の横に立った彼女はこちらを見上げて、笑顔で手を振った。今まで見たことがない笑顔だった。  なぜだろうか、僕は彼女のその笑顔が、しっくりとこなかった。彼女の感情が僕の中に染み込んでこない感じがした。知らずに僕自身が拒んだのか?  僕は無意識に俯いて、彼女から顔を背けた。彼女に僕の中を見られたくなかったのだと思う。僕は部屋のドアを抜けて階下へ急いだ。彼女の笑顔を間近で見て、

        • 【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑨

           眩しくて目覚めた。視界は霞んでぼんやりしている。宿酔い。記憶は断片的。昨夜のライブの打ち上げで飲みすぎてしまった。  石を詰め込まれたように頭は重い。思考は虚ろだけど、昨夜のことを自然と思い出して、ニンマリとしてしまう。楽しかった、面白かった、今までで最高のパーティーだった。ウィスキーボトルのラッパ飲みを初めて見た。さも当たり前のように、平気な顔でそれをやっていたのは彼女だった。  「おはよう」  知ってる声。その声を聞いて僕はたまらなく嬉しかった。彼女の声だ。  「おは

        • 固定された記事

        改めてページのご紹介 2023.10.30

        • 【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑪

        • 【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑩

        • 【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑨

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        • 【極超短編小説】鉄の塔の町
          116本
        • 【短編連載】精と血
          5本
        • 【短編小説】鉄塔の町:
          24本

        記事

          【極超短編小説】歌は赤く溶けて

           空は朱色の夕焼けに染まり始めていた。  半年前、俺は編集長と喧嘩して勢いで10年務めた会社を辞めた。ついでに猥雑な繁華街近くの部屋も引き払って、鉄塔から近い安アパートに引っ越した。記者の頃の伝手で、出どころも分からない胡散臭い記事をリライトするのを、今では食い扶持にしていた。   その日、俺は原稿をなんとか締切に間に合わせ、ビールとつまみを買いがてらの散歩に出かけた。  両腕を高く上に伸ばしたり、首を回したりして体をほぐしながら、河原の土手を目指してのんびり歩いた。夕方とも

          【極超短編小説】歌は赤く溶けて

          【極超短編小説】裏:袖振り合うも

           「一緒に死んでくれませんか? 僕と」  すれ違いざまに男が立ち止まって言った。ふわっと涼し気な風が吹いて、私の髪から今朝のシャンプーの匂いがほのかに香った瞬間だった。公園をゆっくりと歩いていた私は思わず立ち止まった。  「え? 今、何と?」  私は自分の耳を疑って咄嗟に聞き返してしまった。  元夫との約束の時間にはまだ少し早かった。それで待ち合わせ場所の近くの公園を散歩していた。道を尋ねられたわけでも、時間を聞かれたわけでもない。そんなことを言ってくる人に出会うとは、思いも

          【極超短編小説】裏:袖振り合うも

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑧

           彼女と僕、それにドラマーとマネージャーの4人は、ドアを開けると大音量とともに皮膚を波打たせるような音圧を浴びた。  「おっ、さっきのライブ、録音してたんだ」  ドラマーが叫ぶように言う。打ち上げ会場のホールでは、ついさっき終わったライブの音が流されていた。  「これ、あんたがスティック落とした曲ね。ほら、ここで」  彼女がドラマーに振り向いて、冗談めかしてなじる。  「ハハハ、バレてた?」  ドラマーは豪快に笑いながら、ドアの向こうの打ち上げ会場へ僕と彼女の背中を押した。

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑧

          【極超短編小説】消化試合じゃない

           何となく点けていたリビングのテレビから、サッカー中継が流れている。この時期ともなれば消化試合の様相を呈しているが、その中でひとり気を吐く選手がいる。私のお気に入りの選手だ。彼はどんなゲームでも、いつも全力だ。そのプレーからは勝負よりもサッカーが好きでたまらないことが伝わってくる。  お気に入りの選手を見て、一瞬高揚したがすぐに現実に引き戻される。近頃、鬱々とした気分が日に日に増しているのだ。  私は夕飯の箸を止めた。  「ごちそうさま」  「あら、あなたもう終わり?美味しく

          【極超短編小説】消化試合じゃない

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑦

           二人の後を追って、僕は薄暗い通路を走った。楽屋で涙を流した彼女が脳裏に浮かんだ。  僕の前を走っていた二人が急に立ち止まった。僕も二人にぶつかりそうになりながら、なんとか足を止める。二人の肩越しに通路の先を覗く。そこには向かい合った男と女がいた。  男の方が頭一つ分背が高く、上から見下ろしている。女は睨めつけるように見上げている。  「いい加減、諦めて。何度も言ったはずだけど」  感情の入っていない冷静なその声は彼女だった。ステージでは歌で、楽屋では涙で感情をすべて吐き出

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑦

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑥

           彼女は涙を拭うと、自分の頬を両手のひらでパンと叩いた。  「ライブの打ち上げ、あなたも一緒にね」  そう言って彼女は笑顔を作った。  「えっ、僕も?」  関係者のパスを首からぶら下げてはいたが、僕はライブの裏方をやったわけでもないし、彼女のバンドとは何の関わりもない。場違いな感じがした。  「そうよ。当たり前じゃない。あなたはわたしの……」  「すみません。ちょっといいですか?」  彼女が言い終わらないうちに突然話しかけてきたのは、バンドのマネージャーの女の子だった。  彼

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑥

          【極超短編小説】裏:喉に刺さった骨

           次が今日最後の患者だ。診察が終われば、久しぶりの休日で完全にオフの予定だ。そしてその前にはお楽しみが待っている。  今、看護師はこの診察室にいない。人手不足のため病棟へ手伝いに行かせた。僕は自ら最後の患者を診察室へ呼び入れた。  「先生、俺のこと覚えているかい?」  ひととおりの診察の終がわったあと、パソコンに向かってカルテを入力をしていると、椅子に座っている最後の患者に話しかけられた。  「ああ、覚えているさ。君じゃないかな、と思ってはいたよ」  彼のことはよく覚えてい

          【極超短編小説】裏:喉に刺さった骨

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑤

           立錐の余地がないほどの超満員にもかかわらず、ライブハウスの中はしんと静まり返っていた。オーディエンスは固唾をのんで待っている。エアコンが効かないほどのキャパオーバーの空間では、顎から滴る汗も床に落ちることなく熱気の中に溶け込む。  僕は入口近くの壁を背にしていた。ステージを正面に臨んで、ライブハウス全体を見渡せる場所だ。そして、このライブハウスの中で彼女から最も遠く離れた場所だった。  ハレーションを起こすほど真っ白で強烈な明かりがステージに降り立った。それと同時に、空気

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑤

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る④

           彼女はハイヒールを脱ぐと、運転席の後ろに放り込み、僕に助手席に座れと指さした。彼女の車は車高が低くてひどい乗り心地だった。道路の凸凹が直に体に伝わる。アクセルを吹かすとエンジンは唸り、同時に爆発するような排気音が耳をつんざく。  「この車……、凄いね」  僕は車の激しい動きに舌をか噛みそうになりながら、排気音に負けないよう大声を上げる。  「いい音でしょ」  そう言う彼女の横顔は嬉々としている。  二人を乗せた車は週末の賑やかな町を離れ、すれ違う対向車は次第に少なくなってい

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る④

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る③

           気がつくと、僕は彼女のすぐ目の前に立っていた。話しかけるでもなく、ただ彼女を見ていた。いや呆けたように、息を呑んで見惚れていた。  「もう、ここ飽きちゃった。わたし、もう行くわ」  「僕も一緒に行っていいかな?」  彼女が言い終わると同時に僕は即座に訪ねた。ただ彼女と一緒にいたかった。  「どうぞ、お好きに」  彼女は手に持ったグラスを近くのテーブルに置くと、出口に向かって身を翻す。ピンと伸びた背筋、体の動きに遅れてなびく青いドレス、ハイヒールの踵から真っすぐ伸びる緊張した

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る③

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る②

           藍色に近いてらてらした濃い青色のドレスは、背中と胸が大きく切れ込んで、行儀の良い上品なパーティードレスとは言えなかった。彼女はひときわ目を引いた。というより周りからは浮いていた。  どんな目的で誰が主催したのかさえ、そこに集まったほとんどの者たちが知らないような、そんなコンパで僕は彼女と出会った。洒落た店を貸し切った会場には人が溢れ、それなりに盛り上がっていたように思う。  その当時、僕は大学生でコンパや飲み会、イベントなんかにやたらと顔を出していた。もちろん声を掛けら

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る②

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る①

           深夜、彼女からの着信。  「今……鉄塔の下……これから北の峠に……」  彼女は風の中だった。好きでたまらなかったその声は、風切音とモザイクになっていて、今の僕には聞きづらい。  「それを言うために電話を?」  僕の言葉にはどんな感情が乗っていたのか?彼女は何を感じただろう?  「そうよね……そうだったわね……」  風の中に溶けてしまった彼女の思いは、僕には分からない。  「そうだよ、僕たちはもう別れたんだから」  そんなつもりはなかったけれど、諭すように事実を繰り繰り返して

          【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る①