【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑪
僕は目覚まし時計に腕を伸ばして、うるさい電子音をようやく止めた。
おずおずとシーツに手を滑らせて、辺りを探った。ベッドには僕一人だった。ふと安堵を感じた。夢だったのかと思った、いや思いたかった。
「おはよう」
穏やかな声は、僕を現実に引き戻した。彼女の声だった。
「いただきます。ほら、あなたも早く食べて。時間ないわよ」
テーブルの向かい側に座った彼女は、茶碗を手にとってそそくさと食べ始めた。
白米、味噌汁、焼き魚……。定番メニューだが、手間がかかっていた。僕よりも早く起きて、彼女が作ってくれた朝食。当然、感謝の気持はあったが、それ以上に困惑した。
チラッと彼女に目をやった。彼女はせわしなく焼き魚をつついていて、僕の思いには気が付かないでいてくれたようだ。
「君、今日は、というかこれからどうするつもり? なんて言うか、その、これから何をするつもり?」
僕は彼女のことを何も知らなかった。彼女のことで僕が知っているのは、青のドレス、車、バンド、タバコ、酒、ボクシング……それに瞳の中の光、それくらいだった。
「大学に行くつもり。ほら、早く食べて」
彼女はさも当然とばかりの表情で言った。
「大学? 受験するの?」
「え?! 違う違う、復学するの」
(つづく)