【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る①
深夜、彼女からの着信。
「今……鉄塔の下……これから北の峠に……」
彼女は風の中だった。好きでたまらなかったその声は、風切音とモザイクになっていて、今の僕には聞きづらい。
「それを言うために電話を?」
僕の言葉にはどんな感情が乗っていたのか?彼女は何を感じただろう?
「そうよね……そうだったわね……」
風の中に溶けてしまった彼女の思いは、僕には分からない。
「そうだよ、僕たちはもう別れたんだから」
そんなつもりはなかったけれど、諭すように事実を繰り繰り返してしまった。冷酷だったろうか?
「あなたが泣いているたところ……見たこと無かった……」
一瞬、風が止んだ。それでも彼女の周りに静寂はなかった。彼女の声は車の排気音の中で漂っていた。
僕が彼女と初めて出会ったのは、十代の終わりの頃だった。
見つけてしまった、と僕は彼女を一目見た瞬間に思った。
(つづく)
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