【掌編小説】過ぎ去りし夏は森に眠る(4078文字)
森の奥深く、昼間の熱気が木々の間に沈み、夜の涼やかな風が吹き始めるころ、カブトムシの「タケル」は目を覚ました。彼の体は重厚で力強く、鋭く突き出た角が彼の誇りだった。タケルは夜を生きる戦士であり、夏の暑さがその体にエネルギーを与えていた。濃密な夜の湿気が彼の翅にまとわりつき、樹液の甘い香りが風に乗って漂ってくる。夏の盛りを感じさせるその匂いに、彼の心はわずかに弾む。今夜もその香りに導かれ、タケルは木の幹を登り始めた。夜の訪れは長い一日の始まりだった。
樹液場には数多の虫たちが