見出し画像

【ショートショート】おしゃべり百科事典




「ねえ、みんな!最近の言葉っておかしいよね」と、漢字の辞書が言った。

「そうだよね。『オワコン』や『パリピ』なんて言葉はどこから出てきたのかしら」と国語の辞書が不思議そうに言った。

「私は昔の言葉の方が好きだなぁ」と漢字の辞書が微笑んで言った。

「でも新しい言葉も捨てがたい魅力があるよ。例えば『エモい』や『バズる』なんていう言葉も、新しくて面白い」と英語の辞書が言った。

「そうね、言葉は時代と共に変わるものだから、古い言葉も新しい言葉も大切にしないとね」と辞書たちが和やかに話し合っていた。

すると、そこに古びた小説が口を挟んだ。「皆さん、お話は興味深いですが、私が知る限り、一番古い言葉は『アー』ですよ」と誇らしげに言った。

「『アー』?」と辞書たちは一斉に疑問の声を上げた。

「そうです。昔の人々は驚いたり痛かったりした時に『アー』と言っていたのです。非常に多用途な言葉でした」と古びた小説は説明した。

「なるほど。確かに『アー』は基本的な感情表現ですね」と英語の辞書が感心した。

「でも、それなら最新の言葉は何だろう?」と漢字の辞書が興味津々で聞いた。

その瞬間、新しいスマートフォンの説明書が飛び出してきて、「最新の言葉なら、絶対に『AI』よ!」と勢いよく言った。

「『AI』とはなんですか?」と小説が尋ねた。

「それは、人工知能のことよ。私たちのような書物の世界に革命を起こす存在なんだから!」と説明書が自信満々に言った。

すると、書棚の奥からお爺さんのような古びた百科事典が重々しく現れ、静かに語りだした。
「さてさて、確かに言葉の歴史は興味深いものじゃが、忘れてはならないのは、言葉というものは常に変わり続けるものであり、その変遷の中で生まれては消えていくものじゃよ。どれほど新しい言葉が生まれようとも、私たちが感じる驚きや喜び、悲しみといった感情の本質は変わらないということじゃな。昔の人々が『アー』と叫んだように、今の時代もまた、私たちの心に響く言葉がある」

辞書たちは一瞬の沈黙の後、「確かに、それはその通りかもね!」と皆が口を揃えた。

「そ、それじゃあそろそろこの辺でお休みにしましょうか」
漢字の辞書の言葉に皆が頷いた。

「さて、どこから話すべきかのう」と古びた百科事典が深いため息をついた。辞書たちもまた諦めの混じった深いため息をついた。

「昔々、まだ本のページが羊皮紙でできていた頃、我々は手書きで記されていたんじゃ。あの頃の知識は、僧侶たちが大変な労力を費やして書き写したものであり、一つ一つが宝物のようなものじゃった。例えば、『イケメン』という言葉の元祖は、実は平安時代の貴族たちが使っていた『美男子』という言葉から派生したもので...」

「その話、前にも聞いたことあるような...」
英語の辞書は、大きなあくびを隠しながら時計をちらりと見た。

「ほら、ちゃんと敬老の精神で聞きなさい」と国語の辞書が諭すが、その声にもどこか疲れがにじんでいる。

「続けるが、時代が進むにつれて、印刷技術が発達し、多くの人々が知識を手に入れやすくなったんじゃ。グーテンベルクの活版印刷が登場したときには、それはもう革命的な出来事じゃった。知識が広まる速度が劇的に速くなり、人々の暮らしも変わっていったんじゃよ。それに、今流行りの『スマホ』も、もとはといえば...」

「スマホの話を平安時代とどう結びつけるの?」と、漢字の辞書が半分眠りかけながら聞いた。

「まあ、聞いておくれ。このスマホのような携帯通信機器が登場する前にも、手紙や電報が人々の間で情報を伝える手段として使われておった。ところが、電報が普及するまでの間、鳩が使われた時代もあったんじゃ...。その鳩というのがまた、信じられないくらい賢くてのう...」

「また鳩の話か。毎回この話になると長いんだよな…」
漢字の辞書が小声でささやいた。




「ところで、これからは、また新しい時代が来る。AIやブロックチェーンのような技術がさらに進化して、我々辞書や百科事典の役割も変わってくるじゃろう...」

古びた百科事典が続けて話しているうちに、漢字の辞書はページの間にしおりを挟んでから、「もう限界だ」とばかりに閉じてしまった。
他の辞書たちも一冊、また一冊と静かに寝息を立て始めた。

「さて、まだまだ話したいことはたくさんあるのじゃが...おやおや、皆眠ってしまったかのう。仕方ない、また明日話してやろうかの」と、古びた百科事典はつぶやいて、自らもページを閉じ休むことにした。

そして、書棚の中には穏やかな静けさが戻り、辞書たちはそれぞれの夢の中で、新しい言葉の冒険を楽しんでいた。




#短編小説 #掌編小説  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?