きみとめ

元 図書館員。 日常の小さなこころの動き。 それを書き留めたくて、 小説や童話にしてい…

きみとめ

元 図書館員。 日常の小さなこころの動き。 それを書き留めたくて、 小説や童話にしています。 noteは、知らない誰かと同じ空を見ているような、嬉しい場所です。

最近の記事

創作短編『ぼくの叔父さん』

 ぼくがよく行く喫茶店は、変わった人たちが集まる。 画家、木工家、陶芸家、絵本作家、ギタリスト、シンガー、旅人・・・ お店のマスターは、60か70才くらい。あご髭にも白髪が混じる、リリーフランキーをさらに渋くしたかんじだ。 ぼくのママと親しいみたいで、下の名前で呼び合っている。 ママには男の友達が沢山いるから、どれかが父親だと思うが、このマスターは年上すぎる。 ここに初めて来たのは、ぼくが小学3年のとき。 「 健太をよろしく!」 とママは言って、特大のおにぎりと一

    • 創作『ある母親とその息子』

      あなたを産んで、26年間 独りで育てることになり 必死に生きてきた 保育園 小学生 中学生 高校生 大学生 看護師の試験に 合格した おめでとう よくがんばったね それから あなたは ずっと家にいる 就職しない ( 加齢か 更年期障害か ) わたしは体調をくずした 今まで出来ていた仕事が 急に出来なくなり 焦る日々 上司の叱責が辛くて 自分に自信が無くなって 喘息の発作が起きて 入院 仕事を辞めた 働き詰めの人生だったから すこし休養かな ある日、 同居の

      • 創作短編『でも、ここなら』

         新人研修に参加したのは、5月の連休明けだった。 山の中腹にある、林間学校に使われていそうな古い建物に、新入社員が50人ほど集まった。 接遇などのカリキュラムが組まれた、一日がかりの研修だ。 バスを降り、建物の入口で 『 大崎ドラッグ様 研修会場 』 と書かれた、縦長のホワイトボードを確認する。 「小沢、智彦です」 受付を済ませて、講堂に入る。 ほとんどが新卒者だ。 ドラッグストアの会社だから、薬剤師も何人かいるのだろう。 隅に、中途入社組の席がある。 見たところ

        • 創作短編『風に吹かれて』

          商品部に、水野という30代の男がいて、遊んでいるような雰囲気で仕事をしている。 服装も、スーツよりジーンズの日が多い。 角刈りに丸めがね。 冗談を言って、周りを笑わせてばかりいる。 雑学好きで、 「マーフィーの法則、知ってる? じゃあ、バタフライ効果は? 知らんの~?」 メーカーや問屋さんたちとの商談は、そんな雑談から始めていた。 彼は、会社のトップバイヤーである。 会社と言うのは、食品スーパー。県内に9店あり、ここは本社。 わたし、伊那 桂子 ( いな けいこ )

        創作短編『ぼくの叔父さん』

          創作童話『はがき』 (後編)

          こうみんかんの 5時の音楽がなった そのとき 空から 大きな葉っぱが ゆらゆらおちてきて わたしの 手のひらでとまった しかくい 切手のもようがあって はがきにみえた ◇ ななめ前のおうちに住んでいる リッくんは 中学校に行ってない 紙を折って どうぶつを作っている 見たこともない そのどうぶつには つばさがあり 「ドラゴンだよ」 と おしえてくれた リッくんにもらった紙を はがきのかたちにきる 毎日 絵をかいて 5本ゆびの木にかくした 青い花の絵がじょうずにかけた

          創作童話『はがき』 (後編)

          創作童話『はがき』 (前編)

          いろえんぴつで かく 花びらを じーっとみる ふいに 花とわたしが ひとつになる そうなること 小学校のともだちにも お母さんにも 話したことない まるで 星になって 宇宙に浮かんでいるみたい マーコさんなら 話してもいいな マーコさんのお店は おきにいりのものだけおく お客さんがほしがっても 「売りものじゃないんです。ごめんなさい」 と言う いつも お母さんにコーヒーをいれてくれる わたしには りんごジュースと いろえんぴつ ふたりが おしゃべりするあいだ わたしは

          創作童話『はがき』 (前編)

          落としもの (後編)

           ある日、従業員用のバックヤードの通路に落ちていた、1万円札を拾った。 休憩時間が減るなと思いながら、仕方なくデパートの事務所へ届けた。  翌日の夕方、店長と商品の前出しをしていると 「一ノ瀬さんって人、いますか?」 と声がした。 振り返ると、20代前半とおぼしき男子3人組が、両手に白いビニール袋をぶら下げて立っていた。 健康食品が似合わない、元気いっぱい男子の登場におののき 「わ、わたしですが?・・・」 と慌てて答えると 市原隼人似の硬派系男子が、ひとり進み出た。 「

          落としもの (後編)

          落としもの (前編)

           午後3時のデパ地下は、買い物客でごった返していた。 円錐形に盛られた、色とりどりのサラダ。 食欲をそそる、肉や魚のお惣菜。 色と匂いの洪水。 そんな混雑を横目に、フロアの隅にある健康食品売場へ小走りで入っていく。 小さなトートバッグから黒いエプロンを取り出し、書類ケースの置いてある、腰の高さの机の後ろにバッグを置いて、エプロンの紐に腕を通した。 「一ノ瀬さん、どくだみ茶が切れてるから、発注しておいて」 20代半ばの女店長が、電卓を勢いよく叩きながら言った。 「はい」 休

          落としもの (前編)