商品部に、水野という30代の男がいて、遊んでいるような雰囲気で仕事をしている。 服装も、スーツよりジーンズの日が多い。 角刈りに丸めがね。 冗談を言って、周りを笑わせてばかりいる。 雑学好きで、 「マーフィーの法則、知ってる? じゃあ、バタフライ効果は? 知らんの~?」 メーカーや問屋さんたちとの商談は、そんな雑談から始めていた。 彼は、会社のトップバイヤーである。 会社と言うのは、食品スーパー。県内に9店あり、ここは本社。 わたし、伊那 桂子 ( いな けいこ )
こうみんかんの 5時の音楽がなった そのとき 空から 大きな葉っぱが ゆらゆらおちてきて わたしの 手のひらでとまった しかくい 切手のもようがあって はがきにみえた ◇ ななめ前のおうちに住んでいる リッくんは 中学校に行ってない 紙を折って どうぶつを作っている 見たこともない そのどうぶつには つばさがあり 「ドラゴンだよ」 と おしえてくれた リッくんにもらった紙を はがきのかたちにきる 毎日 絵をかいて 5本ゆびの木にかくした 青い花の絵がじょうずにかけた
いろえんぴつで かく 花びらを じーっとみる ふいに 花とわたしが ひとつになる そうなること 小学校のともだちにも お母さんにも 話したことない まるで 星になって 宇宙に浮かんでいるみたい マーコさんなら 話してもいいな マーコさんのお店は おきにいりのものだけおく お客さんがほしがっても 「売りものじゃないんです。ごめんなさい」 と言う いつも お母さんにコーヒーをいれてくれる わたしには りんごジュースと いろえんぴつ ふたりが おしゃべりするあいだ わたしは
ある日、従業員用のバックヤードの通路に落ちていた、1万円札を拾った。 休憩時間が減るなと思いながら、仕方なくデパートの事務所へ届けた。 翌日の夕方、店長と商品の前出しをしていると 「一ノ瀬さんって人、いますか?」 と声がした。 振り返ると、20代前半とおぼしき男子3人組が、両手に白いビニール袋をぶら下げて立っていた。 健康食品が似合わない、元気いっぱい男子の登場におののき 「わ、わたしですが?・・・」 と慌てて答えると 市原隼人似の硬派系男子が、ひとり進み出た。 「
午後3時のデパ地下は、買い物客でごった返していた。 円錐形に盛られた、色とりどりのサラダ。 食欲をそそる、肉や魚のお惣菜。 色と匂いの洪水。 そんな混雑を横目に、フロアの隅にある健康食品売場へ小走りで入っていく。 小さなトートバッグから黒いエプロンを取り出し、書類ケースの置いてある、腰の高さの机の後ろにバッグを置いて、エプロンの紐に腕を通した。 「一ノ瀬さん、どくだみ茶が切れてるから、発注しておいて」 20代半ばの女店長が、電卓を勢いよく叩きながら言った。 「はい」 休