長寿俊之介

主に、すきま時間にサクッと読める文章を書いています。愛知県在住の40代男です。

長寿俊之介

主に、すきま時間にサクッと読める文章を書いています。愛知県在住の40代男です。

マガジン

  • 初仕事

    1本、原稿用紙10枚ほどの短編集。 順風満帆な殺し屋人生を歩もうとしたはずが、こんなはずでは・・・「初仕事」 天涯孤独な男の唯一の親友との奇妙な絆・・・「親友」 など、すき間時間にサッと読める7話を収録。

最近の記事

【5分小説】家を買う

「家を買いたいね」  夫の寿(ひさし)がふいに言った。 「え?」  妻の舞香(まいか)は突然のことに驚いた。 「どういう家がいいかな?」 「そんなお金があったら、持ってきてよ」  2人とも40代で、夫の方は会社で役職者に就いている。 「マンションか、一軒家か、迷うね」 「聞いてんの? どこにそんなお金があるのよ」 「貯金、なかったっけ?」 「あんまりないわよ」 「あんまりって?」 「1,000万くらいかな」 「あるじゃない。頭金になるよ」 「けど、もしものことがあったらどうす

    • 【短編小説】リストラ

      「もう明日からはいいから」  阪田京二(さかた きょうじ)には理解ができなかった。  上司は何を言っているのだろう? 「は?」 「端的に言えば、君はクビだ」 「・・・」  いや、端的に言われなくてもクビってことだろう。  阪田は勤続13年目にして、年下の上司に突然のクビを言い渡されたのである。 「ちょ、待ってください! 急にそんなこと言われても」  阪田は驚いて反応した。  倒産したわけでもない。  ここが、今日、明日、どうなるというわけでもない。  なのに、阪

      • 【2000字のホラー】メッセージ

         スマホのメッセージアプリに知らない番号からメッセージが入ってきた。 『明日、会える?』  私は、誰かが間違えてメッセージを送ってきたんだと思い、無視しようとした。  だが、ふと、待てよと考えた。  間違えるってこと、あるだろうか?  登録してある番号へ送るなら、間違えることはないだろう。  もしくは、偶然にも私の電話番号を登録してしまったのだろうか? 「多分、美湖(みこ)ちゃんだ」  私の結論はこうだ。  友人の美湖ちゃんが電話番号を変えた。  それで送ってきた

        • 【短編小説】エレベーター

           エレベーターに閉じ込められてからというもの、すでに1時間が経とうとしている。  私はどうしたらいいのだろう?  私は外壁塗装の営業マンだ。  この薄汚れた雑居ビルに、飛び込み営業で来たのは1時間前。  外壁の塗装をした方がよさそうな古ビルを狙って、そのまま営業に入ってしまったのが、運の尽きだった。  エレベーターに乗る前に、妙な胸騒ぎがしたのだが、そのまま乗ってしまった。  案の定、エレベーターはガタンッという大きな音とともに停止。電気が切れて、停電のような状況になって

        【5分小説】家を買う

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        • 初仕事
          7本

        記事

          【短編小説】前掛け

          「うぜーんだよ!」  川田八助(かわた はちすけ)は、前掛けを投げ捨てながら言った。 「こんな商売、やってられっか! 古くせーんだよ!」  八助は店を出て行こうとした。 「とっとと、出てけ! この親不孝もんが!」  父親の七造(しちぞう)も負けじと叫んだ。  親子ゲンカは今に始まったことではない。親子は前々から意見が対立し、何度となくぶつかり合ってきた。  ここは川田商店。  みりんを製造している小さな醸造所である。  現在、みりんの売り上げは完全に頭打ちと

          【短編小説】前掛け

          【短編小説】農家の嫁さん

          「たっだいま~」  田畑が広がる田園風景の中に、元気よく虎太郎が帰ってきた。  吉岡虎太郎(よしおか こたろう)、32歳。いつもは一人で田舎の実家に帰宅するのだが、今回は違っていた。将来の嫁さんを連れて帰って来たのだ。  嫁さんと言っても、都会で共働きになるから、パートナーと言った方がいいかもしれない。田舎の両親に合わせて、パートナーのことを「嫁さん」と呼んでいるのである。  将来の嫁さん、すなわち、婚約者の名前は岡重早苗(おかしげ さなえ)さん、28歳。  早苗は、

          【短編小説】農家の嫁さん

          【短編小説】お引っ越し

           印鑑を押そうとする手がプルプルと震えている。  ついに、いよいよ家を買うときが来たのである。  水野常彦(みずの つねひこ)、45歳。45の齢にして、初めての、そして、一生に一度くらいの大きな買い物。  印鑑を押す手が震えても当然かもしれない。 「おめでとうございます! これであなたも一軒家持ちになりましたね」  建築をお願いした工務店の営業マンがうれしそうに言った。 「あ、ありがとうございます」  常彦はでれでれに照れていた。 「後は、家ができ上がるのを待つだけ

          【短編小説】お引っ越し

          【短編小説】殺意の行方

          「あっ、また!」  堀川泉(ほりかわ いずみ)は思わず声を上げた。 「あの人!」  あの人というのは、ただ、今日すれ違っただけのサラリーマンのことである。  その男性がどうしたのかというと、 「感じる! また感じた!」  泉はどういうわけか、感覚が研ぎ澄まされていた。 「殺意だ!」  そうなのだ。  その男性からは人を殺そうという強い意志が感じられた。  こんなことは初めてだった。今まで生きてきて初めてのこと。しかし、その男性からは間違いなく、殺意とともに強い恨

          【短編小説】殺意の行方

          【短編小説】くす玉

          「私たち、結婚する運びとなりました!」  町の不動産屋に春が来た。  一ノ瀬不動産の息子、一ノ瀬和樹(いちのせかずき)が結婚することになったのだ。  お相手は、客として一ノ瀬不動産を訪れていた北村彩香(きたむらあやか)さん。    彼女は親が所有する駐車場のことで、しばしば一ノ瀬不動産を訪れていた。  そこで仲良くなり、このたびの婚約発表となったのだ。    一ノ瀬不動産は丸井商店街に入っている。  丸井商店街のメインストリートにおいて、婚約発表の特設会場が作られていた。

          【短編小説】くす玉

          【短編小説】夢

           また同じ夢を見た。  最近、同じ夢ばかりを見る。山の中で遭難し、さまよっている夢だ。    私は山登りが趣味でもないし、山など学生の時以来、訪れたこともない。  なぜか当てもなく山中を歩き回っている夢を見る。  毎日、毎日。  どういう意味があるのだろう?  私は夢占いというもので調べてみた。 遭難する夢は、日常がつまらなく感じ、新しいことにチャレンジしたいと考えているときに見るものらしい。  だが、何かが違う。私はそういうことじゃないと考えていた。もっと、何か訴

          【短編小説】夢

          【短編小説】幸せを感じるために

           絶望。  この言葉が当てはまるだろう。  私は25年間、勤めた会社をクビになった――。  最初は小さな波だった。  この会社は本当に大丈夫だろうか?  社員の中で湧き上がった小さな波。  私は何の心配もしていなかった。  大丈夫、会社も私も。  押し寄せる波は早かった。  すぐに私のところへ来て、私を飲み込んだ。 「話があるから来てくれ」  言われたまま、私は社長室を訪れた。 「昇進だ! しかも、社長から直々に!」  私は小躍りした。  聞いてみれば、何のことは

          【短編小説】幸せを感じるために

          【短編小説】初仕事

          「ないんだよ、もう。俺にはお前を殺したときのような度胸がないんだよ」  佐藤雅弘(さとう まさひろ)の墓前で杉原照紀(すぎはら てるき)はつぶやいた。  墓にすがりつきたい思いだった。  思い起こせば、1ヶ月前――。   人通りのない寂れた商店街を杉原は佐藤をまるで引きずるように足早に連れていった。そして、店舗と店舗の間にある塀で囲まれた空き地へと引きずり込んだ。狭い隙間から佐藤を空き地の中へと追い込んだのだ。  地面が土になっている空き地で佐藤は横になって倒れた。

          【短編小説】初仕事

          【短編小説】盗人

          「盗人猛々しいとはこのことよ」  盗人の親分はドヤ顔でした。  深夜2時。  何の音も聞こえない、静かな夜です。  ここは屋根の上。  当然、見知らぬ人の家です。  盗人の2人は今日も盗むことを考えておりました。 「盗むもん盗んだら、食料もいただいて帰る。ぬっふっふ、我ながら・・・」 「さすが親分。猛々しいですね~」  子分が遮りました。 「まだ、わしがしゃべっとる」 「すいやせん」 「うむ」 「ところで親分。猛々しいってのは、どういう意味ですかい?」

          【短編小説】盗人

          【短編小説】親友

          「昨日は何人殺った?」  山本大地(やまもと だいち)は昨日何食べた? のノリでそう聞いた。 「3人」  答える方も答える方である。  石館真希人(いしだて まきと)は落ち着いた様子で答えた。  山本と石館の2人は殺し屋だった。  裏稼業では有名な2人で、常に殺した人数を競い合ってきた。  2人とも、黒い覆面をかぶり、その上に帽子をかぶっていた。 「やるな。僕は1人だよ」  山本は悔しそうに言った。 「昨日は大型連休の初日だったからさ、人出が多すぎて、手こずった

          【短編小説】親友

          【短編小説】藻屑

           宇宙船が予定軌道を外れ、通信も途絶えた。  私一人が宇宙で路頭に迷うこと1カ月。    私はまだSOSボタンを押さずにいた。    押せばすぐに救助隊が迎えに来てくれるだろう。  だが、すぐに押してしまっては、私のプライドや沽券に関わる。  何を隠そう、私は新たな星を開発する、宇宙開拓本部長を拝命しているのだ。    非常事態でも冷静に対処したという証が必要だ。    食料が尽きて1週間。  限界に近づいている。  そろそろいいだろう。  水分は浄化した自分の尿を飲んでい

          【短編小説】藻屑

          【短編小説】お離婚さん

           夫の達明がいつも通り、薄暗い雰囲気を漂わせながら無言で帰宅した。 「おかえりー」  妻の優香はいつになく明るく言った。  いつもは低いトーンでおかえりというだけだったが、今日は2段階ほど高いトーンでおかえりと言った。  緊張からである。    結婚15年目。  2人は夫婦であるが、今となっては会話もろくにない冷めた関係になっていた。  2人とも40代半ばを過ぎた同世代。  子供には恵まれなかった。  いや、できなくてよかったと、今では思っている。  それでも、夫はこれ

          【短編小説】お離婚さん