ねぇ、あのね(2)

4月2日。火曜日。天気は晴れ。
学校に持っていく本はいつだって分厚くて難しいミステリーばかりだ。何度も何度も同じ内容を読み直さないと理解できないような本。人が簡単にずばずば切られて死んでいく本。わたしの中の醜いわたしもこのままずばずば切られていくことを願いつつ、周りの音を気にしないようにして本の世界に没頭する。いつ頃からこうするようになっただろう。いつ頃からすべてを諦めるようになっただろう。

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若葉~ボクと君の2年間の記録~ Chapter 12 九条の彼女? それとも女友達?②

 一週間が経った。

 僕が九条のところへ行こうとすると、毎朝九条はあの女の子と話している。女の子の方もかなり馴れ馴れしい。

 話していない日がずっと続いているため、九条との間には積もる話がたくさんある。

 ──九条とあの女の子、一体どういう関係なんだろうな?

 考えてみる。

 いつもああやって話しているということは、同じ中学の同級生か彼女といった感じだろう。でなければ、あそこまで気安く接

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あなたのスキ、受けとりました!
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アイスクリームと脱走者/11

11.左手の傷を隠す
 深夜の国道を、海岸に向かって車を走らせた。大学からほど近い場所で、彩夏や友人を乗せて行ったことがあった。

 車のヘッドライトが流れ星のように過ぎ去り、波多はそれをぼんやりと眺めている。

「山名さん、彼氏がいるんだ。ここら辺から車で一時間半くらいのとこ。彼女の地元だって」

 なんのタイミングだったのか、急に波多が口にした。

「へえ、彼氏いるんだ」

 わたしの声に、わ

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【5分で読める短編】花丸

 放課後の教室には制服姿の彼と制服を着ていない私の二人きりである。
 教壇の上で頬杖をつきながら、もう片方の手で赤色のペンを回す。それに飽きると、正面の列の前から三番目にいる彼のつむじを見つめた。
「そんなに近いと目を悪くするよ」
 私がそう言うと、机と数センチほどしか離れていない彼が右手の動きを止めて顔を上げる。
「先生、集中しているので話しかけないでください。後、既に僕の視力は悪いです」
 人

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スパシーバ⛲
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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」4-6

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第4レース 第5組 キミは星だから

第4レース 第6組 Miss you―不適格な存在―
 ――キミを守れなかったのはあたしだ。
 結果に結びつかないことから生じた彼の焦りを、自分はきちんと認識していたのに、彼のことを守ることができなかった。
 フォームが崩れていること。調子を崩していること。分かっていた

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サンキューでーす。恩田陸先生の黒と茶の幻想面白いですよ。
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アイスクリームと脱走者/10

10.学祭前夜に
 十月、最後の金曜日。街路樹はすでに色づきはじめていた。

 近づく冬から逃れるように、うまし家には浮かれた空気が漂っている。大学祭の前夜、テーブルを埋めつくしているのは学生客だった。

「奏さん、そこのケース裏口に持ってってもらっていいですか?」

 すっかりオフショアの人になってしまった奏さんが、久しぶりにヘルプに来ていた。前夜祭を理由にバイトを休む学生が何人かいて、残ったス

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アイスクリームと脱走者/9

9.離婚届は
「圭、何時に出る?」

「何時でも」

 圭はのそっと立ち上がり、緩慢な動作で身支度をはじめた。寝ぼけたままトイレに入り、すぐ出てきたと思ったら洗面台の下を開けてトイレットペーパーを取り、またトイレにこもる。

 これまで鉢合わせなかったのが不思議なくらい、圭はこの部屋に来ているようだった。

 二人で大学へ向かい、大学生協で食べる物を買って学食の屋外テラスに落ち着いた。三人がけの丸

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22卒、今になって「何者」を読む

 22卒NNT、日本社会に嫌気がさし、この時期に新幹線を乗り継いで実家に帰省した。そしてうららかな春の深夜、既卒就活も視野に入る今日この頃、実家の本棚の片隅にあったこの本を衝動的に手に取った。
 

 本当はこんなことしてる場合じゃない。でも「読むなら今しかない!」という衝動にかられて、実家の本棚を漁って読んだ。初めは就活を頑張る若者の姿を見て自分に鞭を打つつもりで読んでいたが、期待とは裏腹に作中

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【連載小説】レインボーイスト・ラブ 【第三章】 #18 触れたことのない感覚

前回のストーリーはこちら↓↓

全体のあらすじを知りたい方はこちら↓↓

「コハクのことではない…」

光香は父さんの雰囲気に驚きながらも、目線を週刊誌に戻す。表紙を捲る(めくる)と目次が見えた。

「スクープ!」と書かれている一文に目を凝らす。

『保民党の重鎮、国野政治の秘書、Y氏の妻は風俗嬢だった?!Y氏の嘘に塗れた出自に迫る!』

 光香は、あまりの侮辱に溢れた文言に、嘲笑に似た笑いを漏ら

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Grazie mille!
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アイスクリームと脱走者/8

8.友達とかプライバシーとか
 彩夏の部屋にいた”友達”は、切れ長の目をした、中性的な顔つきの人だった。

 ベリーショートの髪をブラウンに染め、ゆったりとしたティーシャツに、ポケットだらけのワークパンツ。

「俺が先約だったんだから、嫌だったら帰っていいよ」

 スマホから顔をあげて、その人は言う。

「まーた、そういうこと言う」と彩夏は笑っていた。

 ”友達”が男というのは予想外で、狭苦しい

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