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〈小説〉スカートとズボンの話 #11

 プラダさん達は、怒り心頭だ。

「圧力とかないし。普通にスカート穿きたいだけだって」
「ジェンダーロールとか何なの、超意味不明」
「ていうか何泣いてんの。うちらと一緒にしないでほしいんだけど」

 発言する気はなく、口々にそんなことを野次る。その矛先はサトウさんたちだけでなく、泣いているおとなしい単筒の子たちにも向かっていた。

 収拾がつかなくなってきたので、ゼミの担当教授が立ち上がって何事か交通整理を始めた。そのままその日のゼミは終わり、わたしはなんとかつるし上げを免れた。


 わたしはふらふらと帰り道を歩いた。今にも雨が降りそうだ。あまりに放心状態で歩いていたので、いつもと違う道を歩いていたようだった。

 すると、ふいにそれは目の前に現れた。

 あまりに唐突に目に入ったので、わたしは一瞬、自分がどこにいるかわからなくなった。

 merマー bleueブルという店。14歳のあの日、わたしがリーバイス501を買った店だった。
 考えてみたら、大学とこの店は最寄り駅が同じなのだ。そのことを今まで、1度も思い出さなかったことが不思議だった。あの日のことはどこか夢のように、特別なものだったからかもしれない。

 わたしは、店内に入った。

 店内はあのときとは、だいぶ様子が違っていた。あのときはジーンズばかりの店だったが、今は、女性ものの可愛らしい服が並ぶ店に変身していた。

「いらっしゃいませぇ」
 奥からのんびりとした声が聞こえ、タイトなTシャツとジーンズ姿の店員が現れた。あのときの人だ。背すじの伸びた小柄な体と、ぱっちりとした目元。すぐにわかった。

 黒髪ストレートは、オレンジブラウンのくるくるウェーブヘアに変わっていた。PUFFYパフィー亜美あみちゃんか由美ゆみちゃんみたいだ、とわたしは思った。

 何か話しかけようか。悩むわたしに、店員は先に口を開いた。
「それっ。うちで買ったものじゃないですか?」
 わたしは、はっとして彼女の方を見た。彼女はわたしの腰あたりを指さし、501、と言った。わたしはあの日買ったリーバイスを穿いていたのだ。


つづく

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