スタア誕生 1970-1979 (♪1) intro
あらすじ
1970年から1979年、バブル直前の日本。
広島に生まれ育った一人の少年がスカウトされ、スターを目指す奮闘記。
トップアイドルと呼ばれるまでに成長はしたけれど、目まぐるしく変わる芸能界で本格的な大人のスターを目指す日々を綴る10年間。
スターを目指し、芸能界で彼の手にしたものは・・・
1970年代、歌謡曲が全盛期を迎えた黄金時代の、日本の芸能界をリアルに描いた昭和歌謡の光と影。芸能界に夢をかけた全ての人達の物語。
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intro
不気味なほど静かだ。
むき出しの木材を組んだ、薄暗いテレビ局のセットの裏。隙間から差し込む強いライトが、不規則に浮遊する埃を影絵のように映し出す。
俺は、鏡の前に立ち、大きく一つ深呼吸した。
188センチ。まぁ一般より背は高い。スポーツで鍛えた肩周りが意外にあるから、細いわりには特注でないとなかなか着られるものがない。専属のスタイリストが作ってくれた衣装は上質なシルクサテン。カリブの島の国旗を模した、緑赤黒のツナギを着た俺の姿が映る。
額縁みたいな木枠に、アルミフィルムをピンと張っただけで作られた鏡。
これは ”ミラーゲート”と呼ばれる回転扉。中が空洞なのは、ここに来たことのある者だけが知っている。
いままで何人ものスターたちが、この扉を回してゲートを通りぬけてきたのだろう。
今この鏡に映る俺は、どう見えている?
表面を指でそっと押すと、アルミフィルムがたわんで、俺の姿はアメンボ池に映ったみたいに歪んで見えた。
「CM明けまであと15秒です」
ADの声が静寂を破り、慌ただしくなった舞台裏には緊張が走る。
”なんとなくつまらなく聞こえる曲でも、何度も聴きたい曲に変えられる歌手になれ”
ずっと言われ続けた言葉。
「いきます、3――」ADの秒読みが始まる。
大丈夫、俺はその教えを今も守っている。意味はもう、よく分かっているつもりだ。
「――2・・・はいっ!」
生放送。CMからスタジオにカメラが切り替わった瞬間、司会が元気よく叫ぶ。
「1979年5月最後週の、ザ・ベストヒット・ランキング 第1位は!」
ティンパニーロールが静かに鳴り出し、緊張を盛り上げる。数字板が周り始め、暗がりで無機質に音を立て徐々に速度を上げてゆく。
突然、不安と緊張の入り交じった心細い感覚に襲われ胸が苦しくなった。
すごく懐かしいこの感じ、いつのことだ?
ドロドロドロと鳴り続ける太鼓の音に、規則正しくパタパタと回転する得点板の音。
いつもより長く回っているように感じて胸のざわつきは一層昂まった。
そうだ、あの夜・・・
暗闇を行く汽車。枕木を踏む音が徐々に速度を上げる。
希望と不安で押しつぶされそうな中。寝台車の小さなベッドで、足を折り曲げ、丸くなって泣いた、8年前、16才の夜。
「藤原嵐さん、『恋のチック・タック』
歴史的快挙。なんと10週連続の1位!! 連続週数を表示する桁が足りません!」
司会者の絶叫で過去から引き戻された俺は、一つ息を吸って回転ドアを開ける。
流れ込む大量のスモーク、目が眩むようなスポットライトが俺を包み、割れた薬玉が、光をキラキラと反射しながら紙吹雪を舞い上がらせていた。
漠然とした、だけど絶対にある ”何か” を信じ家を飛び出したあの日。想像もつかなかった未来に、俺は今、立っていた。
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33話 最終回
「スタア誕生 1970-1979」サントラページ 準備中
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