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スタア誕生 1970-1979 (♪22) 【独楽】


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独楽


 年末・年始の年末進行。
 年越し・新春の特番も併せてやっつけないといけない、一年で最も忙しい季節がやってきた。
 だけど、それも今やなんとなく嬉しい。
 77年の新春隠し芸大会は、GoGo3としての演目がきまり、この数日三人で会う機会も増えたことがいい気分転換だった。

 演目は「独楽回し」。その名の通り木で作った大きな独楽を、いろんなものの上で回す曲芸だ。じつに正月らしい。

 俺たちのスケージュールを合わせるだけでも番組はとても苦労してたから、最小限の練習でできるような内容にしてくれたのだろう。危険でもないし、セリフを覚えるわけでもない、そこそこぬるい感じで、まったり俺たちは無駄口をたたきつつ、机を全部後ろに移動させたサンテレビの広い会議室で、練習といいながら程よく手を抜いていた。

「扇子の上で独楽回せばいいんでしょ。ほらよ」
 俺たちは雑談を楽しみながら、独楽を回す。
「お、いいね」
「ミルク・シェイク可愛くない?」
「可愛いね。でも僕は福岡桃子ちゃんが好きだ」
「お前、ずっとアタックしてるねー」
「はい、お前もやって」
「やだ、なにこれ・・・」
 教わったようにはなかなか扇子の上で回らない。独楽はなにか別の生き物のように、勝手な回り方をして不気味にうごめいた。
 悠は、扇子をピストルみたいにぐるぐる回しながらいった。
「正宗くん、『トッタカミタカ生放送』、レギュラーでしょ。いいなぁ」
「よくないよ。俺、歌番組だと思ってうけちゃったんだよ。そしたらコントコーナーがあるっていうじゃない」
 場所が悪かったようで、扇子の上で正宗の独楽は大きく跳ね上がって床に叩き落ちた。
「面白いよ、あれ」
 口を開いたらバランスがくずれた。今度は俺の独楽が跳ね上がって落ちた。
「そう、結局やってみれば楽しいんだけどね」
 正宗は慎重に次の独楽をたてたながら、扇子の上で回す場所を選んでいる。
「初回の収録が終わった後にプロデューサーに『コント番組はあんまりやりたくないんで、辞めさせて下さい』っていったんだよ、俺。そしたらプロデューサーが「わかった。やりたくないことはやらない、ということでいいんだな?。降りるのはいいが、その代わりこれからどうなるか分かってるな』っていうんだぜ」
「恐い!」
「恐い、恐い!」
 悠も俺も独楽をあっちこっちに飛び散らかしながら、めちゃくちゃに回し始めた。
「俺、もうその場で「喜んでやらせてもらいます』っていっちゃったよ」
 ああ、よかった。だけど悠は暗い顔でいった。
「ほんとうに干されちゃうからね」
「やめてよ」
「おまえシャレになってない」
 俺の声はうわずり、もはや独楽のコントロールは無理だった。あわてて別の話題に切り替える。
「そうだ、悠、やるの? 谷山監督の映画『朝の光』だっけ?」
「『めぐりあう朝』」と、悠は訂正した。
「それそれ」
「正直、歌では今なかなか出してくれるところないから、映画の方でね。おかげで主題歌をやらせてもらえる。曲を出し続けるために、レコード会社のプロデューサーが頑張ってくれてさ。ギリギリ、ヴァイナルディスク大賞はノミネートはしてもらえたけど」
 まだ、映画界の権力は強いから、力及ばず灰原さんは歯軋りしていることだろう。

 悠は手を休め、パイプ椅子に腰掛けため息をつく。

「僕、歌手より役者のほうがむいてるんじゃないかな」そして、縄の方だけ手に巻きつけたり解いたりしながらいった。
「アイドルなんかで、いつまで生き残れると思う?」

 黙って聞いていた正宗が、扇子の上で回っている独楽から目を逸らさずに答えた。

「生きていけるどころか、こんな暮らし、いつまで心を殺せるかわからないよな」
 重い空気が、部屋に充満しはじめた。

「正宗だって谷山監督でとった映画、大人っぽくて良かったじゃない。迷子の猫と事件を解決していくやつ」俺は独楽を適当に回しながら、努めて明るくいう。

「俺はね、音楽が好きなんだ。でも、もらった曲を歌って、女のにきゃーきゃー言われるために格好つけて、グラビア撮影。そんなことに追われて毎日が過ぎてゆくことに、慣れちゃいけないとおもうんだよね」

 正宗はそういって、悠と二人深いため息をついた。

「ほら、頑張れ。もう少し」
 正宗の扇子の上でよろよろと倒れそうになっている独楽に、俺は一生懸命エールを送ってやった。俺たちは綱渡りのように、ギリギリのところを、なんとかバランスをとっていたんだ。






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「スタア誕生 1970-1979」サントラ  準備中


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