![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141663429/rectangle_large_type_2_791141aaa140a589a1ec000c4eb00ecc.png?width=1200)
〈小説〉スカートとズボンの話 #8
「でも、複筒の人とつきあうってのはなぁ」
誰かが言った。
「そうなんだよね」
ヒロヤは即座に答えた。少しだけ、残念そうに。
惜しいなぁ、と誰かが言った。
わたしは物音をたてないようにそっと、教室を離れた。ヒロヤの持ち込んだレニー・クラヴィッツが、廊下のスピーカーから聴こえてくる。
「華が複筒でよかったって、初めて思ったわ」
テレビを観ながら、ママが言った。
映っているのは、下着が見えそうなミニスカートの女子高生たち。
「自分の着た制服や下着を売る『ブルセラ』女子高生」
「中年男性と『援助交際』してお小遣い稼ぎをする女子高生」
テレビの向こうで大人たちが寄ってたかって深刻な顔で、そんな話をしている。
「ズボンじゃ、売りたくたって売れないものね。……それにしても援助交際だなんて。こんなの売春よ。いい?華。女として大事にされるってことと、こんな風にいやらしい目で見られるってことは全然違うのよ」
途端に、顔が真っ赤になった。つい数時間前聞いた、男子たちの会話がよみがえったのだ。
ケツがたまんねぇ、なんて言われてしまった。ヒロヤに失恋したショックより、そちらの方がよほど頭に残っていた。
ママは、いつも生意気なわたしのそんな反応を見て、あら、という表情をした。そして
「華、彼氏はいないの?」
そんなことを急に聞いてきた。わたしはびっくりして、いないよ、と答えた。
ママはにっこり笑った。
「そうよね。複筒じゃ、彼氏つくるのは大変よ。せっかくこんなに可愛く生んだのにね。もったいないわ」
私の頬を優しくつねって、ママはそんなことを言った。
ママはわたしに、ずっと子どもでいてほしいのかもしれない。
テレビでは今度は、へそ出しスタイルのギャルが街を闊歩している。まあ、おへそなんか出して、親御さんは何も言わないのかしら、とママはぼやいた。
今日のことは、もう全部忘れよう。
明日はサヤカと渋谷だ。大好きないつものリーバイスを穿いて、へそ出しのノースリーブを着て行くんだ。わたしはひそかに、心に決めた。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?