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【短編】モウヒトツノFirst Love 第1話 ①

「おーい、聡太! そろそろARATAさんくる時間じゃね?」

 ユウダイが机の向こう側から叫んだ。LL教室を講演場所にかえるための、最終セッティングをしていたら、あっという間に時間が過ぎてた。

「うわ、もうこんな時間か」

 教室の時計をみたら10時55分。プロゲーマーARATAをゲストに呼んだ格闘ゲーム研究会主催、特別講演会は12時から。ちなみに司会は俺がやることになっている。

 新太とは打ち合わせするために、校門前で11時にまちあわせしてるから、早く迎えにいかにきゃいけない。

「サンキュー。うっかりしてた。すぐ行って部室で打ち合わせしてくるわ。悪いけどあと頼む!」

 ユウダイに手をあげて教室を飛び出す。今日はうちの学校の文化祭最終日。廊下はもうすでに他校の生徒とうちの生徒が入り乱れて大混雑、なかなか前に進めない。

 遅れたら新太アラタに文句をブーブー言われる!

 ARATAこと、山谷新太ヤマタニ アラタは俺の二つ上の兄貴で大学の1年。そして格闘ゲームのプロゲーマーでもある。奴は筋金いりのゲーマーで小さい頃からそれこそゲーム一色で生きてきた。教育ママである、超うるせーうちの母親を敵にまわして一歩も譲らず、ゲームをやりこんできた根性は称賛に値する。

 その母親から成績は落とさないことでゲームをやる譲歩を引き出し、最低限の勉強で附属小学校から大学までの進学エスカレーターを乗りきりやがった。結構要領もいいんだよな、あいつ。俺が通っている高校は、中学受験してはいった中高一貫の男子校だから、大学受験は不可避。文化祭が終わったら勉強に本腰をいれなきゃいけない。

 なんてことを考えながら歩いていたものの、さすがに前に進まなすぎてちょっとあせる。新太は時間にキッチリしてウルサイ。

 小学生のころから大人たちのコミュニティに混じって格ゲーをやって来た新太は、社会の基本的規律を守らないゲーマーは結局疎まれ、実力云々以前に消えていったのを見て、反面教師にしたらしい。

 だから時間はしっかり守る。一方で守らないヤツにはかなりうるさい。因みに俺は昔から時間にちょっとルーズだから、新太にいつも怒られまくってる。

 新太のほうが正しいのは重々承知。だけどあの妙にクールな、超ムカつく上から目線で文句を言われると、我慢できなくなって逆ギレしちゃう。

 それは俺ら兄弟、毎度おなじみあるあるの喧嘩パターン。でも今日は俺が司会者、ヤツはゲスト。あいつを怒らせて雰囲気が険悪になったらシャレになんない。

「ごめーん! ちょっとどいて! ごめんねー」

 なりふりかまわず人混みのなかを突っ込んでいく。やっと昇降口までたどりついてスマホをみたら、11時1分。ひぃーーー! 超ダッシュする。

 ゼーゼー言いながらようやく校門に到着。予想どおり新太はすでにそこにいた。どれだけ不機嫌な顔をしてるだろうと恐る恐る近づいてみたら、満面の笑み。え?!

 新太の視線の先を辿る。そこにはさくらさん! あの不機嫌大魔王をあんな笑顔にしてくれるなんて、さくらさん神! 

 さくらさんは、新太が溺愛している年上の彼女だ。そしてヤツの人生史上初めての彼女。つまり初恋の相手が今の彼女って、少女漫画かよって思う。

 新太がモテなかったわけじゃない。むしろモテていた。弟の俺がいうのもなんだが、見た目はまあカッコイイ部類にはいるだろう。だから中学、高校と結構女子に人気があったのに、彼女らに見向きもせず、ストイックにゲーム一筋。

 バレンタインで家までわざわざチョコをもってきた彼女たちの対応は全部俺がしてやった。ちなみに貰ったチョコも俺が全部食ってやったけど。

 そんな新太が大学にはいった直後、いきなり恋におちたのが、四年生のさくらさん。新太の女子禁制の封印を一瞬で解いたのも納得の美人さん、しかも性格もかわいらしい。詳しくは聞いてないけど、新太が押しまくって落としたに違いない。女の子慣れなんて全然してないくせに、どうやってさくらさんみたいな人を落とせたのかは、いくら聞いても口を割らない。

 そんな新太がさくらさんを連れてウチに寄ったとき。かねてから文化祭でやる講演会にでてほしいと頼んでいたにも関わらず思いっきりムシされていた俺は、ぴーんと閃いた。さくらさんからもお願いしてもらえばいいんだと。

 新太が俺の友達とゲームしている間にさくらさんを口説いて、新太に頼んでもらったら、やっぱり一発OK。新太の取り扱いは、俺が家族で一番じゃねーのって思ってる。

「さくらさん! 来てくれてありがとう!」

 二人の前まで歩み寄ると、新太そっちのけでさくらさんの両手を握りしめて、ブンブン振った。

 一瞬ビックリした表情を見せたけれど、それこそさくらの花がほころぶみたいな笑顔でニコリとほほ笑んでくれた。

 目の前でみると、ヤッパリめっちゃ可愛い! さらさらの黒髪、真っ白な肌、綺麗な黒い瞳。表情豊かで年下の俺ですらカワイイって思っちゃう。くっそー、新太が羨ましすぎる。うっとり見惚れていると、思いっきり頭を叩かれた。

「ふざけんな。聡太お前、遅刻してきたうえに、いきなりさくらさんにベタベタ触るとかありえないし。手を放せっ」

 そういって俺の手をばっとつかんで、さくらさんから引き離す。そうして臆面もなく自分の手に繋ぎ直しやがった。

 一瞬ぽかんとしちゃったあと、繋がれたふたりの手を見て思わずニヤリとしてしまう。


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