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〈小説〉スカートとズボンの話 #20

 わたしは夜中に目を覚ました。隣で眠っていたはずのヨシカワはベッドの脇に座り込み、ベッドにもたれかかって眠っている。目の前のテーブルにある灰皿には、吸い殻がたまっていた。

 わたしと眠りについてもヨシカワは、すぐに目が覚めてしまう。目が覚めるとタバコを吸いながらぼんやり起きていて、いつしかまた、こんな風にうたた寝のように眠る。わたしは吸い殻に火がついていないか確認して、ヨシカワに毛布をかけた。

 夜中の3時だった。つけっ放しのテレビでは「朝まで生テレビ」をやっている。
 画面右上のテロップには
「激論!ド~する?!『制定10年・女性下衣選択法』」
とあった。

 あれから、もう10年か。

 画面に映るショートカットの女性がフリップを片手に、滔々と話している。

「本法制定後、単筒の女性と複筒の女性の各種データの概要が、こちらでございます。単筒の女性の就職率は、30代で著しく下降し50代で緩やかに上昇するという、典型的なM字カーブを描いています。一方複筒の女性はこの下降があまりなく全世代で就職率が安定している一方、婚姻率が単筒女性と比べ、有意に低下しており……」

 大学の同級生の、サトウさんだった。彼女は気鋭の若手論客として、有名人になっていた。主張は専ら「女性下衣選択法撤廃」だ。大学の頃からこれは、ゆるがない彼女のテーマなのだった。

「データは承知した、しかしこれは、本人の選択という大前提があるね。大部分の女性は単筒を選択した、つまり女性は仕事より婚姻を選びたい、ということを表しているんではないかという見方がある。これに対してあなたはどう説明する?」
 司会のベテランジャーナリストが、サトウさんに鋭く指摘した。

「それには強く反論します。なぜなら特に若年女性の単筒選択には、両親の意向が深く関わっているというデータがあり……」

 わたしは、彼女が好きだった。
 ずば抜けた弁舌、そしてどんなにアウェイでもまったくめげない精神。お友達になりたいかは別として、その強さをわたしは尊敬していた。
 エキセントリックなところはあるけど、少なくとも、利口なつもりで彼女を見下して笑っている子たちなんかよりは100倍立派だ。そうわたしは思っていた。


つづく

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