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〈小説〉スカートとズボンの話 #19
わたしは歩きながら、ヨシカワの手をつないだ。酔っ払って気持ちがよくなるとわたしは、時々こういうことをしてしまう。
信号のない交差点で車が横切って、わたしたちは立ち止まった。
目が合って、どちらからともなくキスをした。
いちど唇を合わせて離して、また繰り返して、誰もいない夜道で互いに止められなくなり、わたしたちはしばらくそうしていた。
そのままヨシカワは、わたしの部屋に来た。わたしたちは抱きあって、ヨシカワはわたしのTシャツをまくりあげ体にふれた。ベルトやジーンズの下腹が痛いくらいにあたり、わたしは思わずそこに手を伸ばした。
欲求と心が動くのとどちらが先だったのか、お互いにわからない。わたしにとっては、どちらでもよかった。
ヨシカワの欲求がわたしにまっすぐに向けられることが、うれしかった。それでわたしは満たされて、豊かになる気がした。
それからわたしたちは、お互いの部屋を行き来するようになった。
ヨシカワはいつも深夜まで仕事をしていたから、会うのは週末だけだった。夜遅くなっても会いたかったが、平日に押しかけると、あのボロボロになった彼を目の当たりにしそうで、わたしは怖かった。
週末でも時おり、疲れた顔をすることがあった。仕事忙しいんだね、とわたしが言うとヨシカワは、忙しいのかなんなのか、と力なく言うだけだった。
「兵士だね、華の彼氏は」
ミシンを踏みながら、耀子さんはそんなことを言った。
兵士? わたしは聞き返した。
「戦場の兵士と同じ。彼らがやってることは残虐だけど、それをやらせているのは国でしょ。兵士は従うだけ。サラ金もやってることはエグいけど、社員はそれに従うしかないわけでしょ」
あっ今、サラ金って言わないのか。なんて言うんだろう、とぶつぶつ言いながら、耀子さんは縫いかけの服をかざして眺めた。
「そんなにエグいのかな」
「わからないけどね。でも商売してるとさ、いろいろな話を聞くよ。回収される側のね」
そして耀子さんは、こんなことを言った。
「兵士の精神的ストレスって、ひどいらしいじゃん。ベトナム戦争とか湾岸戦争の帰還兵がそうだったって。一緒にするのもなんだけど。彼氏、大丈夫?」
つづく
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