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〈小説〉スカートとズボンの話 #18

「吉祥寺はいいよな。仕事からここに帰ってくると、ちゃんと人間に戻ったって気がする」
 そんなことを言ってヨシカワは、瓶ビールをわたしのコップに注いだ。

 2週間後の土曜日、わたしたちはこの街で待ち合わせた。あの後メールをしてもヨシカワはやはり何も覚えておらず、要領を得なかった。でもすぐに快く、わたしの誘いに乗ってくれた。

 現れたヨシカワはこの間のくたびれきった彼とはちがい、さっぱりとした顔をしていた。わたしは、大きな公園の近くにある焼き鳥屋に行きたい、とリクエストした。煙がもうもうと立ち込める、古くさくて開放的で大きな店だ。美味しい焼き鳥が、1本80円で食べられる。

 人間に戻るって、なんなのだろう。やっぱり、そんなに仕事が過酷なのか。でもわたしは、仕事のことは向こうから話し出さない限り、聞かないことに決めていた。

 窓ぎわのテーブル席に座ったわたしたちは、開いた窓から外を眺めた。公園への道がすぐそこにあり、通行人がよく見える。
 思い思いの服装の人たちにまじって、制服を着た女子高生が何人か通る。彼女たちは相変わらず元気で、スカートが短い。

「女子高生はどこ行ってもあんなだな。土曜日なのになんで制服なんだろうな」

「高校の頃うちの母にね、あんな格好をしたらいやらしい目で見られるだけよ、ってよく言われた」

「そうなんだ。俺なんか華のこと、いやらしい目でしか見てなかったけどな」

 わたしは、飲んでいたビールをブッと吹き出しそうになった。

 むせるのと笑いをこらえて伏せた顔をあげると、ヨシカワはなんだかとても優しい顔で笑っていた。

「大丈夫? ごめん俺、相当気持ち悪いね」

 わたしは首を振って、大丈夫だよ、と答えた。


 わたしたちは夜が更けるまで居座った。ヨシカワに仕事の話は、聞かなかった。
 わたしたちの家の方向はバラバラだったから、ヨシカワは、わたしの家の近くまで送ると言った。この街は、中心部を通り過ぎると途端に暗く、静かな住宅街になる。


つづく

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