森葉芦日(もり・はるひ)

海外在住2年目 noteは海外生活の記録をまとめるために始めたが、青い師匠に影響を受け…

森葉芦日(もり・はるひ)

海外在住2年目 noteは海外生活の記録をまとめるために始めたが、青い師匠に影響を受け、なぞに小説も書き始める。 過去に小さなサイトで賞を受賞した経歴あり、本当に小さなサイトで。

マガジン

  • 【創作大賞 恋愛小説部門】 『制服にサングラスは咲かない』

    夏が来る。いつまでもオンラインゲームで惰性の時間を過ごしていて良いのか、そんなことも考えるのを辞めていた。考えることを辞めると人生は停滞するのかと思っていたけれど、どうにも違うらしい。 小さな選択がいつか大きな結果を生む。バタフライ効果ってやつらしい。 まさか、とは思うけれど人生は選択の連続だ。少し間違えた。選択しているという意識のないまま人生は連続する。 だから僕は一人の少女との出会いで、ゲームコントローラーではなくペンを握り小説家になることになった。

  • 小惑星『明日の世界より』シリーズ

    『明日の世界より』という小惑星で起こる不思議な出来事や日常。

  • 『お題系小説まとめ』

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小説『インタビューパンチマンを捕まえて、そして大人になった。』

「えと、僕の頬に当たってる、この拳は何?」 「だーかーらー、聞いてなかったのかよ」 「うん、ごめん」 夕方になると、最近行くのを辞めた塾のことを考えしまう。 勉強も手についていない。 「インタビューパンチマンだよ」 「ああ、そんな話してたね」 そうそう、最近、僕らが住む辺鄙な街で世間を賑わせている連続事件の話だった。 てっちゃんは、テレビのリポーターみたいに背筋をシャンとして、僕にエアマイクを向けてくる。 ちょっとそれっぽい様。 「今、お時間よろしいでしょうか

    • 【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』13章

      ーーおい、大丈夫か? ーーどうした今、連絡とれないのか? ーー取れないなら一言、言ってくれ ーーおい ーーまじめに ーー頼むよ ーーおい ーーいい加減にしろって ーー何やってんだよ ーー今何やってんだ? ゲンジさんに起こされてスマホの充電を確認した時だった。 ビーチサンダルから大量のメッセージと20件くらいの着信通知が来ていて、寝ぼけていた僕の頭はちょっとした違和感で覚醒した。 一体全体なんだって、たった2日連絡が取れないくらいで、こんなにもメッセージを送ってきたり電話を

      • 【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』12章

        星が見えた。 山は夜になるとやはり冷える。 両肩がひんやりと熱を失う。 僕は肩までお湯に沈めた。 砂を蹴るような足音。 「よう、湯加減はどうだ」 「最高です、ありがとうございます」 「違うだろう」 「あ」またやってしまった。僕は改めて言いなおす。 「最高だよ、久しぶりにお湯につかった気分、それに露天風呂なんてそれこそいつぶりだろう」 「そうか、それならよかった、なかなか乙なものだろう、田舎でお手製の露天風呂に入るのは、酒でも持ってきてやろうか?」 「お酒ある

        • 【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』11章

          「おいしい!」 アジサイが控えめにだけれどもきっぱりと叫んだ。 ゲンジさんは炊飯器で炊いてあった米でおにぎりを握ってくれた。 具のないシンプルな塩結び。 この米は近所のーーとは言っても車で10分以上はかかるところにいるーー米農家から貰ったものだと言っていた。 塩結びでも十分なのに、お湯を沸かして即席の味噌汁、それからゲンジさんの畑で取れたキュウリの塩漬け。 失礼だが一見質素に見えるそれらが生き生きとしていて、本当においしい。 ゲンジさんは腕を組んで優しい目でアジサイと

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        小説『インタビューパンチマンを捕まえて、そして大人になった。』

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        • 【創作大賞 恋愛小説部門】 『制服にサングラスは咲かない』
          11本
        • 小惑星『明日の世界より』シリーズ
          5本
        • 『お題系小説まとめ』
          12本

        記事

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』10章

          いつの間にか眠ってしまっていたらしい。 ただ眠りは浅かった。 僕の全神経が緊張を知らせる。 納屋の扉が開く音がした。 細い朝陽が太くなっていく。 「誰だ」 扉の先で誰かがそういった。 目を開くことができず、扉を直視できない。 うっすらと目を開けてみても、逆行であることも相まって声の主の姿を捉えることはできなかった。 しまった、まだ誰かが使用していた納屋だったと僕は思った。 もちろん、その可能性も考慮していたが、昨日は他の選択肢を考える余力がなく、無理に排除していた甘さが

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』10章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』9章

          クラクションで目が覚めた。 運転手が慣れた手つきでハンドルを大きく回しているように見える。 ここはどこで自分は一体だれなのか、と考えた。 あと一歩で僕という存在の自我は何者かの介入によってバラバラにされてしまうところだった。 つまり、それほど深い眠りの底に横たわっていたというわけ。 一つ一つ思い出す。 自分の名前がツリバリで肩にもたれかかった新しい温もりはアジサイで、僕らは警察に追われていた。どうやら二人で眠ってしまっていたらしい。 バスロータリーまでの人ゴミで警察をまき

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』9章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』8章

          僕の生まれ育った街。福島県郡山市。 懐かしいという感情を僕は思い出した。 その懐かしさは、どうにも傷ついた趣があるもので、久々に生まれ育った故郷に帰ってきというのに、あまりにも苦い思い出が多すぎて、僕はいたたまれない気持ちになる。 「ようやくついたね、良い所だねここ」 アジサイは心の底からそう思っているのだろう。 「そうだね」 郡山駅西口。 ヨドバシカメラの喧騒。活発なタクシーロータリー。 コンパクトだけれど機能的なバス乗り場、高さ133メートルにも及ぶ複合高層のビル

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』8章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』7章

          ーーアジサイはどこへ行きたい? ーーうーん、急に言われてもわからないなぁ、ツリバリが決めてよ、発案者なんだから ーーそうだなぁ ーーどこ? ーー福島県 ーー意外、いいね、でもどうして ーーそれはね…… 高速バスがサービスエリアに止まる。 運転手が設けた休憩時間は20分。 数名しか乗っていない乗客とともに僕とアジサイも降りた。 「ここでも空気が違うのわかるねぇ」 と伸びたアジサイ。 「大分、近づいたからね、いや、まさかだったなぁ」 「まさか、何?」 「制

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』7章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』6章

          このまま立ち尽くしてしまうと、僕らは世界が終わる日までここで僕ら以外の誰かから差し伸べられる手を待ってしまいそうで、僕はうつむいたままのアジサイの手を握り、観覧車へ向かった。 園内にいる人々は、僕らと反対方向に向かっていく。そっちの方には入口兼出口があって、一向気に気の利かない雨に嫌気をさした人々が早い帰路についている。 人とすれ違っていく僕らはまるで、川を遡行する魚みたいだ。 サケだったかな。 日本の川で生まれ、川を下り、外洋をめぐる。1万6000キロの旅。 故郷の川で

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』6章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』5章

          一歩進むだけで、僕は孤独になる。 僕の一歩の間に、他の人は5歩も10歩も先を行き、誰も彼もの背中が小さくなって、カゲロウの果てに消えて行ってしまうのを僕は知っている。 それなら進まない方が、僕の前に他者は姿を現さない。 はじめは精神的な話だったのだけれど、22年の歳月のなかで、未だにこの世界のあらゆることをうまく呑み込めず、折り合いもつけられないのが自分なんだと悟った時には、物理的にも誰かと歩くことが苦手になっていた。 ただ、目的地まであるくだけじゃないか。 でも例えば夢

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』5章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』4章

          この展開は予想していなかった。 僕らが待ち合わせを予定した場所は、二人が住んでいるところを線にしたときに中心点になるような位置にある、古びた遊園地だ。 噴水広場の時計が僕がここで待ち始めてから2時間経過していることを示す。 まさか、僕がドタキャンされる側だったとは。 あれやこれやと思案を重ねた結果選び抜いた行動や心配は、僕の徒労だったわけだ。 僕の後ろに広がる遊園地のゲートの奥から、ごーんと鐘の音が鳴る。 予め録音された鐘の音にはノイズのような音が入っていて、いかにこの

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』4章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』3章

          僕はアジサイに嘘をついている。 ビーチサンダルにも、幕の内弁当さんにもチームの全員にも、嘘の一貫性を保つために、オンラインゲームで出会ったすべての人間に嘘をついている。 というか、僕は嘘をつかないと生きていけない人種なのだ。 でも僕の嘘には1つだけルールがある。他者に対して毒になりすぎない嘘だ。 平和主義万歳の嘘を並べて自己満足。 誰にも迷惑をかけてはいないのだから、が成立する。 はずだったのに、僕のバカ。 なんで『リアルで会う』ことになってしまったんだ。 今さら言えない

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』3章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』2章

          ある日、 アジサイのログイン通知が届いた。 復帰したのかな、とぼんやり考えながらモンスターを狩り終えて、フィールドを歩いていると、目の前には見覚えのある女性キャラ。 木立の行方という杖武器を片手に、返り血のサードレスという軽装備。 核で滅びた世界のひまわり畑に屹立としていそうな佇まいだった。 「アジサイ……」 偶然だろうか?と僕は思った。 つまり、アジサイと僕は偶然同じフィールドを狩場にしていたのか、と。 今さらなんて声をかけていいのかさっぱりとわからなかったが、僕

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』2章

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』1章

          剣を振り下ろす。モンスターにダメージが入る。 モンスターが弱る兆しが見えた。 僕らは追撃を開始する。 どのモーションも全て無意識にコントロールできる領域だ。 人間の脳はすごい。 ゲームコントローラーを使用して、コマンドを入力。 あくせくと労働のようだ。 このままのペースでモンスターの体力を削ることができれば、あと5分と持たずに討伐できるだろう。 「そういや、ツリバリ」 マイクヘッドホンを通してビーチサンダルから音声チャット。 ゲームへの指示というよりは世間話の入り口みたい

          【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』1章

          僕のラムネが夏をしたがる。(シロクマ文芸部×ラムネの音)

          ラムネの音が。ビー玉が落ちるラムネの音が確かに聞こえた。それは何かの渇望する憂いの音だと僕は思った。 満員電車だった。夏の夕刻がしっかりと定まっているような。 どこかで祭りでもあるのだろう。 前後を浴衣の女性で挟まれて身動きがとりにくい。 浴衣を着た女性から立ち上ってくる人と香水の生々しい匂い。それが艶めかしいってこと。 そうしたら、僕のラムネ瓶が夏をしたがってしまい、次第に前の女性の臀部に突き刺さった。 女性の臀部は突如、宇宙人から侵略された惑星の防衛システムみたいに、

          僕のラムネが夏をしたがる。(シロクマ文芸部×ラムネの音)

          詩『紫陽花』(シロクマ文芸部✖️紫陽花を)

          紫陽花を蹴っ飛ばしてやった。 うまいこと茎に当たったのか、薄紫の球体が曇天に映る。 高く振り上げた黒いローファーには、蹴り上げられたことに感情もない花びらが数枚貼り付いていた。 未練がましい花びら。 決して明日には散れない花びら。 遠くの方でクラクション。 もしかしたら、遠雷かも。 次の季節にはあと一生節、届かなくて。 私にとっては銃声。 どこを向けて撃っても、どうしてか必ず私の胸に必中してしまう雨音みたいな鉛の銃声。 煤けた黄緑に捧げた、5月だった私たち。 昨日ま

          詩『紫陽花』(シロクマ文芸部✖️紫陽花を)