森葉芦日(もり・はるひ)

エッセイを書きながらも、note上の青い師匠に刺激を受け唐突に最近物語を書き始めている…

森葉芦日(もり・はるひ)

エッセイを書きながらも、note上の青い師匠に刺激を受け唐突に最近物語を書き始めている。 お仕事の依頼はダイレクトメッセージにてお願いします。 受諾可能な作業内容は主に、総理大臣や鯉の釣り堀の見張り番や、グミの試食です。それ以外は専門外ですので、ご承知おきください。

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

小説『26時のカフェ』

「ありがとうございました、鼻からイングリッシュのペペロンチーノのぺっぺっぺっとね」 25時の店内、褐色肌の同僚の女性スタッフが、レジのドル札を数え終えて、俺もフロアのモップ掛けを終えたところだった。 25時の店内には俺と同僚の女性スタッフ以外誰もいない。 ノーゲスト。閉店作業。気怠い店内の薄オレンジ色の光。 最後にモップを絞っているときに、その奇妙な歌のような何かが聞こえてきて、俺は思わず声の方を見やった。 「なに、今の?なんというか何世紀も先のありがとうございました

    • お『NEW』な私(花吹雪×シロクマ文芸部)

      花吹雪のなかに気づかぬうちに迷い込んだ。朝の底には八重桜の花弁が一面に広がっていた。朝の誰もいない駅近くということも相まって、その光景が人里離れた湖の湖面のように見えた。 ハンドバックからリップクリームが零れる。 私という人生の蓋を、ぱかっと開けてみると、迷い色の濃いワインみたいな虚無感で満ちているな、と思う。 だから、毎朝の通勤に利用するイェールタウン・ステーションに施された春の訪れを祝うささやかな装飾にも気づけなかった。 先週、デイオフの日に行きつけのカフェに向かう

      • 秘儀風車落とし(シロクマ文芸部×風車)

        ーー風車落としって技、知ってる?人類で出来るのってきっと俺だけだと思うぜ?知りたい? 「おい、座れ、何やってんだ」 ーーえ、先生まで知らないんすか?風車落とし、俺この間見せませんでしたっけ?ほら、あの時ですよ、なんか宇宙人が攻め入ってきて、皆を扇風機に変えようとしていたでしょう?あのときに俺が宇宙人の一人に決めたじゃないですか、風車落とし 「いいから、まずは机から足を降ろせ、そしてもう片方の足も椅子から降ろして座れ」 一旦、考えてみた。 どうしてこの人たちは、こんなに

        • バンクーバー:迷い

          様々な迷いに取り憑かれている。 ふらっと、スーパーへ立ち寄って、どのリンゴにしようか選べるほど、安価な買い物じゃないんだってことだ、人生ってやつは。 艶光沢、傷、色味、重さ、匂い。 12分経って選んだリンゴは1.69ドル。 今日はセール日だ。 いつもは1.99だから、約30セントもお安く買い求めることができます。 家に帰ってそのリンゴを切って見て、果肉の断面をついでに切られた虫が這い回っていても、その瞬間の不快感で終わる。 壁時計を見て、スーパーはまだ閉まっていないか

        • 固定された記事

        小説『26時のカフェ』

        マガジン

        • 小惑星『明日の世界より』シリーズ
          5本
        • 『お題系小説まとめ』
          12本

        記事

          人生で初めて銃声を聞いた。

          僕は丁度、自分の部屋にいた。 大きな破裂音がした。 落下音かとも思った。 一度。 ズドン、と。 家の近くに解体作業中の建物があるから、作業音かと思い、外したヘッドホンを戻して、僕はすぐに動画のなかへ戻った。 すると今度は立て続けに数回、同じ音がした。 さすがに平和ボケしたジャパニーズ代表の僕も、まぁここは海外だし、銃声がしてもおかしくないなと思いなおし、窓際へ。 悲鳴が聞こえてきた。現場近くにいた人間が悲鳴をあげてあちらこちらに散っている。 ちょうど路地からメイン

          人生で初めて銃声を聞いた。

          『煙が目に染みる』

          何気なく考えてみると、サンドイッチっていつ食べるものなのだろう? 大袈裟に水溜まりを避けて見せて、ステップ。 着地した足は小綺麗に揃って。 黒く濁ったアスファルトから目を逸らして、薄い布見たいな深夜の中、揺蕩うコンビニが、それこそ、終電の電車の車窓みたいに見えた。 ぼんやりと棚が見える。 サンドイッチが二つくらい残っている。 迷子の2人みたいに、もたれあって。 いいじゃん、さ。 二つあれば、それは二つなのだから。 1つは、それは1つでしかないという意味から抜け出せない

          雪が降っていたから、一瞬しかカメラを持ち出せなかった。本当は同じ場所で数時間粘って、練習してもいいのかなって思ったけれど、今、てるてる坊主を切らしている。

          雪が降っていたから、一瞬しかカメラを持ち出せなかった。本当は同じ場所で数時間粘って、練習してもいいのかなって思ったけれど、今、てるてる坊主を切らしている。

          エッセイ:バンクーバーも残すところ3カ月半

          ずんちゃかか、ずんちゃかちゃ、っとリズムに乗って、最近は職場へ向かっている。 人生で初めてのワイヤレスヘッドホンを手にしてから、割と一日の隙間に音楽を聴いたり。 けれど、困った。 僕は音楽から遠い所で歩みを進めている人間だったから、昔好きだった曲とか、つまり懐かしいと思える曲とか、最近の流行りの曲とか一切わからない。 一体全体何を聞けばいいのかさっぱりわからない。 でも何かしらはヘッドホンから流して、僕はご機嫌。 ずんちゃかちゃ、ずんちゃかちゃ。 人生って意外とやり

          エッセイ:バンクーバーも残すところ3カ月半

          来月の旅行のために、一眼レフを買った。写真を撮る趣味はなかったけれど、まあ、これを機に細々と続けられる趣味になったらいいな、なんてぼんやり。

          来月の旅行のために、一眼レフを買った。写真を撮る趣味はなかったけれど、まあ、これを機に細々と続けられる趣味になったらいいな、なんてぼんやり。

          短編小説『変身』

          「半日もああやって、大きな石を抱えているのを見ると、子供だとしてもちょっと何か怖く感じるのよね」 誰だっけ、そうだ、そう言ったのは隣の家の人だ。 専業主婦だから暇なのか、僕が外にいるときには決まって、カーテンの隙間から僕の行動を監視している。 きっとキチガイだと思っているんだろうな。 そして他の人にも言いふらしているんだ。 でも回覧板を持っていく時には決まって笑顔で世間話をしてくれるし、なかでお茶でもどう?なんて言ってくれるから、人ってよくわからない。 僕はまだ、人間の

          「命は順番だからね」

          カナダ・ラインの電車のなかで、母からのlineを開いた。 どうにも祖母が認知症になってグループホームに入所したらしい。 僕は、母からのlineを開いたあと、どうしてか別のことを考えた。 とくに僕の心を動かすような内容でもなかったからだろう。 たまには小説でも書いてみようか。 人生で一度くらいは「転生もの」の流行にのって何か書いてみたいな。 例えば 主人公がゴリラに転生して、うほうほくらいしか話せないが、持ち前の知恵で他の雄の追随を許さず縄張りを広げたり、密漁者を罠に

          「命は順番だからね」

          エッセイ:『僕の母』が癌かもしれないと聞いて思ったこと。

          まずは『僕の母』がどんな人か簡単に説明するために過去の記事を掲載します。 先週、母から連絡が来た。 『癌かもしれない……来週もうちょっと精密検査をしてみるから』 母の年齢を思い出そうとしたけれど、ちっともわからなかった。 家族という個人的な組織がまともに機能していたとしたら、おおよそでも割と正確な年齢ってわかるのではないだろうか、と思った。 生憎、僕の母は、僕が幼い時に消えてしまったから、僕の目の前で母が誕生日を迎えた瞬間を覚えていない。 むこうだって僕の誕生日を

          エッセイ:『僕の母』が癌かもしれないと聞いて思ったこと。

          短編:一日の羽

          「私ってカゲロウなのよ、カゲロウの女なの」 窓ガラスを拭き終えた。 冷えたドアを開ける。 深夜のガソリンスタンドが、平原のなかぽつんとある。 周囲の景色はただ、深く、まるで、寝静まった穏やかな海のように暗い。 だから夜のここは、まるで離島のように思える。 かつて、人間の文明が一歩だけ足を踏み入れて、すぐに関心をなくした、今は島民のいない、歴史の忘れ形見のような離島みたい。 カゲロウ…… 僕は声を出さずに口だけで、その言葉をなぞった。 あの女性にあったのも、こんな深夜だ

          最近仕事オンリーの生活になってきて、中々に何かをする時間がとれない。 疲れたけれども、労働後のクタクタな体を通るバンクーバーの美しさは色褪せない。むしろ、割と充実している。 今の僕にはやりたいことが多い。行く行くはそのバランスは取っていきたい。

          最近仕事オンリーの生活になってきて、中々に何かをする時間がとれない。 疲れたけれども、労働後のクタクタな体を通るバンクーバーの美しさは色褪せない。むしろ、割と充実している。 今の僕にはやりたいことが多い。行く行くはそのバランスは取っていきたい。

          ちくしょうめ。

          最近、色んな人のnote小説を読んでいて、自分で気がついたことなのですが、 『うわ、これは僕には絶対書けない世界観だわ』 って衝撃を受けることがあります。 これはショックを受けています。そうダメージです。 最近になって物を書き始めた新米がそう考えるのは一種、生意気かもしれませんが、とても悔しくなります。 でも僕がどう頭をひねっても書けないと痛感します。 こんな視点で書けるのか! こんな間隔(感覚の誤字ではないです)でものを見てるのか! こんな表現があるのか! 雰囲気が

          エッセイ:人生がやや眩しい。

          砂漠を見たあの瞬間から、僕の人生にあの時の何かを結ぶような陽射しが差し込んできた。 昼下がり、砂漠の町『メッカ』に立ち寄り、小さなコンビニに併設されたしみったれたカフェでパンケーキを頼んだ。 店内は外の強い日差しの裏で静かな灰色の影になっていて、どんよりと気怠かった。 しばらくして、僕のテーブルから少し離れたところに、お手本のようなメキシカンハットを被った老婆たちが腰かけて談笑しはじめた。 それぞれが何かメキシコ風の軽食や、蛍光色の飲み物を持ち寄って、楽しそうに話して

          エッセイ:人生がやや眩しい。